初めての合成4
「ど、どっちなんですか……?」
俺がむくりと起き上がると、クリアスは一歩後ろに下がる。
俺は俺だと伝えたいものだが、どう伝えたものか。
「‘ん?’」
「コボルトさんなら……こっちを! コボルトさんじゃないならこっちを受け取ってください!」
俺が悩んでいるとクリアスが両手を突き出した。
その手には布が握られている。
右手にはピンクの布が、そして左手にはオレンジ色の布。
クリアスは唇をキュッと結び、不安げな視線を俺に向けている。
「コボルトさんじゃないなら……これはあげられないんです」
もはやピンクのバンダナはコボルトの時の俺との思い出ともなっている。
もし仮に俺の中身が俺でないのなら、クリアスは別の色のバンダナを身につけさせるつもりなのだ。
「‘クリアス……俺は、俺だよ’」
立ち上がってみると、四足歩行のせいなのか少し視点が低い。
それでも思ったほど低くないのは、体格的にはコボルトよりも良いからかもしれない。
俺は迷いなくピンクのバンダナに口を伸ばす。
一瞬クリアスがためらうようにピンクのバンダナを引いたが、構わず咥えて首にフワリと乗せる。
「まさか……」
クリアスの目が大きく見開かれる。
コボルトの時は自分で巻けたけど、今は自分で巻くこともできない。
これだから四足歩行は嫌なんだ。
ただ俺がピンクのバンダナを取ったことで、クリアスの目が輝き始める。
「コボルトさん……なんですか?」
「‘ああ、そうだ’」
俺が頷いてやるとクリアスの目にジワリと涙が浮かぶ。
「コボルトさぁーん!」
「‘おっと……力も少し強くなったな’」
クリアスが俺に抱きつく。
コボルトの時は押し倒されないように必死に耐えたものだが、今はそんなに力を入れなくてもクリアスを受け止められた。
こんなところでパワーアップを実感するなんて、少しおかしなものだ。
「‘難しいな……’」
俺は前足を持ち上げて、なんとかクリアスの背中に回す。
今は両手で抱きしめることはできない。
片前足で抱擁風に返してやるのが限界だ。
「よかったです……よかったです、よかったです!」
クリアスは俺のことを力一杯に抱きしめた。
やはり不安だったのだろう。
俺も不安だった。
こうしてまた俺としてクリアスに会えたことはとても嬉しい。
勝手に尻尾が振られてしまうほどに。
コボルトの時はあまり感情が尻尾に連結している感じはなかった。
動かせたり、多少勝手に動いたりはしていたが、今の方が尻尾があるという感じが強い。
コボルトの尻尾ってお飾り的な側面が強いのだなと今更気づいた。
「その……モフモフに……なりましたね」
ひとしきり俺の胸に顔をうずめたクリアスは、涙を拭いながら顔を上げた。
ちょっと濡れちゃったなと俺の胸も拭うが、もう毛が涙を吸い取った後なので手遅れだ。
どう感想を言ったものか、クリアスも迷っているらしい。
合成は成功した。
とりあえず、俺の腕に当たる前足も普通に生えている。
ただ二足歩行から四足歩行になったし、様変わりしてしまったことをよかったと言っていいものかも分からないのだ。
「腕は治りましたね! ……腕じゃなくなったかもしれませんけど。なんにしても! コボルトさんが……コボルトさんでいてくれてよかったです」
クリアスは頬を赤らめて笑顔を浮かべる。
本物のウルフなら顔でも舐めてやるのだろう。
だけど俺は流石にそうはできなかった。
前足が手なら頭を撫でてやるのだが、いや、挑戦してみよう。
「コボルトさん?」
俺は前足を上げて、クリアスの頭に乗せた。
撫でるとは少し違うかもしれないが、撫でる風のアクションにはなった。
「撫でようとくれたんですか? やっぱり、コボルトさんですね!」
俺の意図を察したクリアスは笑顔を浮かべる。
首から落ちかけているピンクのバンダナを手に取ると、俺の首に巻く。
コボルトの時よりも少し体格的には良くなった。
そのためか、ピンクのバンダナも巻くのにギリギリになっている。
「あとは……」
クリアスが手を伸ばす。
「ツノが生えましたね……ホーンウルフ? ホーンフォックスと合成したからでしょうか?」
俺の目にはギリギリ見えるか見えないかのところにツノがあるらしい。
クリアスが何かに触れているという感覚はある。
これまでコボルトの体にはなかったもので、なんだか触られるとくすぐったい。
どうやら俺はツノの生えたウルフになったらしい。
ただのウルフでなかったのはホーンフォックスの影響だろう。
牙や爪の他にツノという武器を手に入れられたのは大きい。
「じゃあ行きましょうか。コボルトさん……あっ、でももうコボルトさんじゃないんですもんね。うーん……呼び方は後で考えましょう」
俺が俺で、クリアスは嬉しそう。
オレンジ色のバンダナはしまい、俺は階段に向かう。
チラリと後ろを振り向く。
魔法陣のどこにもホーンフォックスの姿はない。
「‘ありがとな。俺は前に進む」
きっと声は届かない。
でも感謝を伝えたかった。
「まあ……どこかでホーンフォックスに出会っても、手を出さないでいてやるよ’」
届かなくても思いを口にせずにはいられなかった。
それは人としての感謝の気持ちを俺がまだ失っていないからだ。
初めての合成はきっと忘れない。
だから、ホーンフォックスのことも忘れないだろう。
俺は強くなり、俺の意識は残った。
一方で消えてしまった存在もいるという残酷さも、乗り越えていかねばならない。
合成に関する大きな学びと新たな体を得て強さを得られた。
これからは合成も活用していこう。
その先にきっと、人に戻る方法もあるはずだと信じて俺は前に進んでいく。




