初めての合成2
「‘ここは……そうか。俺は合成されて……’」
気づいたら真っ白な世界にいた。
一応手を確認するけれど、相変わらず毛でモフモフとしている。
もはや見慣れたコボルトハンド。
音もなく、ただ静寂のみが場を支配している。
空と地面の境目も分からないほどに白い世界が広がっていて目が痛くなりそうだ。
「‘はぁ……’」
小さくため息を漏らして、俺は周りのことを確認する。
「‘あれは……’」
ふと後ろを振り向くとそこにホーンフォックスがいた。
ただ合成前に見たボロボロの姿と違って、怪我のないキレイな姿であった。
「‘おいおい……’」
ホーンフォックスのツノに炎が渦巻く。
牙を剥き出してうなるホーンフォックスからは敵意を感じる。
「‘……チッ、そうか’」
頭のどこかで戦えと言われているような感じがする。
本能とはまた違う奇妙な感覚。
ただ俺が声に抗おうとも、ホーンフォックスの方は抗ってくれる様子はない。
声に飲まれることは気に入らないが、戦わなきゃいけないようだ。
「‘勝てるか……?’」
俺は体勢を低く、戦うように備える。
しかし今の俺にナイフはない。
ナイフがあってもホーンフォックスは厳しい相手なのに、武器もなく戦うのはかなりキツい。
「‘くっ! やらなきゃいけないか!’」
ホーンフォックスが頭を下げて突撃してくる。
頭から伸びたツノが俺の胸を狙い、横に転がってギリギリで回避する。
速い。
ゴブリンやコボルトの動きなど比較にならない。
今だって警戒しているところに正面から来てくれたからかわせただけで、決して余裕はなかった。
「‘こっちは何もないんだぞ!’」
ホーンフォックスのツノの先に炎が集まる。
火の玉が撃ち出されて、思わず悪態をついてしまう。
おそらく爪や牙だってコボルトよりも鋭い。
人情かけてやったのにこんな形で返されるなんて、文句しか出てこない。
「‘ふっ! うぐ……くらえ!’」
ホーンフォックスが再びツノで突撃してくる。
直線的な動きなことだけが救いだ。
俺は突撃を回避する。
俺の横に来たホーンフォックスの速度がなぜか少し緩んだ。
それはその理由を考えるよりも早く、手を伸ばしてツノを掴んだ。
ツノには炎が渦巻いているために、俺の肉球が焼ける。
それでも逃さないようにツノを強く掴んで、ホーンフォックスのことを殴りつけた。
「‘まだまだぁ!’」
ホーンフォックスが転がっていき、俺は攻撃の手を緩めず追撃を狙う。
コボルトの体の中でも一番の武器はやはり牙だろう。
俺は倒れるホーンフォックスの首に噛みついた。
野性味を帯びた攻撃になってしまうが、ホーンフォックス相手に贅沢など言っていられない。
「‘……お前、まさか’」
噛みついた俺は驚いてしまった。
なぜならホーンフォックスが抵抗しなかったからだ。
ほんの一瞬、ホーンフォックスはツノから火の玉を放つような素振りを見せた。
もし火の玉を放っていたら俺に当たっていただろう。
だけどホーンフォックスは俺の目を見つめ、火の玉を放たなかったのだ。
「‘…………わざと……なのか?’」
そのままホーンフォックスの首を噛みちぎる。
噛みちぎられた肉は光となる。
俺はそのまま光となった肉を飲み込み、ホーンフォックスの目を見つめた。
傷口も光り輝いていて奇妙な感じだが、そんなことよりもホーンフォックスの目の奥に見える感情が気になった。
最初に感じていた敵意が無くなっている。
スッと目を細めたホーンフォックスの目からは、なんとなく優しさすら感じる。
まるで微笑むようにも見えるホーンフォックスは、明らかに抵抗をやめた。
それは気のせいではない。
「‘……お前なりの、恩返しか’」
トドメをさせ。
そんな声が聞こえてくるような気がして、今すぐにでもホーンフォックスに手をかけたくなる。
多分ホーンフォックスにも同じような声が聞こえているはずだ。
だから襲いかかってきた。
なのにホーンフォックスはその声に抗い、俺に倒されることを選んだ。
ホーンフォックスの恩返し。
「‘……ありがとよ。お前のことは忘れない’」
ホーンフォックスの献身を感じて、ほんのりと感動も覚える。
なんとホーンフォックスは約束を果たそうとしているのだ。
魔物なんて、あるいはどうせ魔物は、と思っていたところはある。
だが魔物でも恩を感じ、それを返そうとする心のようなものがあった。
知らなかった魔物の一面を知った。
「‘きっとお前は俺の中で生きていく’」
先ほど飲み込んだホーンフォックスの光は俺の中で吸収されていた。
もうすでにホーンフォックスの一部が、俺の一部となっていることを感じていた。
何をさせたいのか、ようやく分かった。
このまま相手を自分に取り込めばいいのだ。
「‘分かったよ’」
ホーンフォックスが一度鳴いた。
早くしろと言われているよう。
ホーンフォックスのツノにはいまだに炎がチリチリと燃えていて、頭の中の声に抗っているのだ。
「‘俺にも待っている人がいるんだ’」
口を大きく開けて、ホーンフォックスの首に噛み付く。
せめて苦しまないようにさっさと倒してやるのが、せめてもの慈悲というものだ。
一気に噛みついて、グッとアゴに力を入れる。
するとホーンフォックスの体が弾けるように光の粒子になった。
「‘あっ……’」
ホーンフォックスの光が俺の胸に吸い込まれていく。
不思議と温かいような感覚が広がっていく。
しかし、吸い込まれた光は半分だけだった。
残った光の粒子は俺のことを見つめるように、静寂広がる空間にただ漂っている。




