初めての合成1
「合成をお願いします!」
俺とクリアスは一度家に帰ってから死にかけのホーンフォックスを連れて、冒険者ギルドまでやってきた。
ちょうど昼時なので冒険者ギルドに人は少ない。
いつもは騒がしいのに、今日は珍しく静かな方だった。
合成待ちの人もたまたまいない。
冒険者ギルドの中の合成受付にクリアスが声をかける。
「合成室の利用ですね」
受付の人も休憩に入っているのか、他の受付の人が合成受付に来て対応してくれる。
合成もタダじゃない。
クリアスはお金を払って、合成するための部屋を使わせてもらうという立場になる。
本来ならホーンフォックスを魔獣登録して、それから合成なのだけど、今回どうせ合成しちゃうならその必要もないということで登録は省略される。
「よいしょ……」
初めての合成室。
中に入ると正面にすぐ階段がある。
「‘地下に降りるのか’」
ホーンフォックスが死ぬ前にという焦りが、階段を一段降りるごとにこれから合成に向かうのだという緊張感に変わっていく。
胸の奥に押し込めていた合成への不安が噴き出してきて、心臓が耳の横にあるかのように鼓動が大きく聞こえる。
気持ちを整理する時間も、最後に合成を受け入れるために落ち着く時間もない。
覚悟は決めていたので後戻りはしないけれど、何かに押されて前に進んでいるような感覚は拭えない。
「‘地下っていうのもまた悪いな……’」
外でやれとは言わない。
ただ地下という閉鎖空間もまた気分を少し陰鬱にさせる。
逃げられない場所に自ら向かうような緊張感があるのだ。
それでも動揺をクリアスに悟られないように、俺はホーンフォックスを抱えて階段を降りていく。
「合成のご利用は初めてですか?」
下まで降りると広い部屋になっていた。
部屋の天井四隅には魔石と呼ばれる魔力の込められた石が魔法陣の真ん中に嵌め込まれていて、宙に火の玉が浮いている。
俺たちが入ってきたせいか火の玉はゆらゆらと空気の流れに揺らめいていて、地下でも明るい。
「初めてです」
「では軽く説明いたしますね」
冒険者ギルドの職員のお姉さんが部屋の真ん中に立つ。
「こちらの大きな魔法陣が合成後の魔獣が出てくる場所となります。そちらの二つの小さい魔法陣の上に魔獣を置いて、魔力を込めると合成が始まります。巻き込まれないようにご注意ください」
床には三つの魔法陣が描かれている。
真ん中に大きな魔法陣があって、大きな魔法陣に接するように二つの魔法陣が対となって置かれていた。
「合成する際身につけていたものは消えてしまうので、事前に取り外しておいてください。では後はご自由に。何が起きても自己責任となりますので。良い魔獣が合成できますように」
職員は薄く笑顔を貼り付けて頭を下げ、部屋を出ていく。
俺とクリアスは顔を見合わせて言葉もなく頷き合う。
ホーンフォックスを小さい魔法陣の一つに横たわらせる。
カフカフと抜けるような浅い呼吸を繰り返しているホーンフォックスは、もう目すら開けない。
包んでいた布は血で濡れていて、抱えていた俺も少し血で汚れてしまっていた。
どうせ合成するのだ、あまり気にすることもない。
「コボルトさん……」
俺は首に巻いていたピンクのバンダナを外す。
腕を失った時に血で汚れてしまったが、その後キレイに洗ってまたずっと首に巻いていたものだ。
最初こそピンクのバンダナに違和感があったけれど、今ではようやく馴染んできていた。
合成すると消えてしまうというのならつけっぱなしではいられない。
「消えないで……くださいね……」
クリアスはピンクのバンダナを受け取ってギュッと握りしめる。
「消えたら……許しませんから」
ほんの少し赤くなった目で、クリアスは俺のことを見つめる。
俺とて消えたくはない。
このままでもいいのならと脳裏を掠めることもある。
だが前に進む。
己のため、そしてクリアスのためにも。
俺はもう一つの小さい魔法陣の真ん中に立つ。
不思議と本能がざわつくような感じもない。
不安はあれど、もう受け入れるしかないためかどこか落ち着いている。
「‘いいよ、クリアス’」
一度大きく息を吐き出した俺はクリアスの方を振り向く。
どうなろうと受け入れる。
またピンクのバンダナをつけて君の隣に立とう。
「……いきます」
クリアスは一度何かを言いかけて、グッと言葉を飲み込んだ。
真ん中の大きな魔法陣に向けて手を伸ばす。
クリアスが魔力を送り込むと大きな魔法陣の真ん中から光が広がっていく。
大きな魔法陣から小さな魔法陣へと光がさらに広がって、三つの魔法陣が輝く。
「‘行ってくるよ’」
魔法陣の輝きが強くなる。
光に飲み込まれて俺の姿が見えなくなり、体が浮き上がるような感覚が襲ってくる。
「‘手が……’」
手の先が解けるようにして光になっていく。
光となった俺の体は大きな魔法陣に吸い込まれていく。
体が消える。
だが体は俺だが、俺は体じゃない。
ドンドンと体が光になっていくが、怖さはない。
もしかしたら魔法陣の魔力がクリアスのものだからかもしれない。
この姿でクリアスと二度と会うことはないかもしれない。
でもきっとまた会える。
俺は、俺だから。
不安も期待も体と一緒に光として溶けて消えていく。
やがて、俺の意識も光の中に飲み込まれていった。
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