二人の選択1
「コボルドざぁん!」
「‘うおっ!?’」
目を覚ますとクリアスの家だった。
ちょうど目を覚ましたタイミングでクリアスが目の前にいて、俺が目を覚ましたのを見て号泣し出した。
痛いほどに抱きしめられ、軽く抱きしめ返してやろうと思ったところで腕がないことに気づく。
「ごめんなさい……私のせいで」
クリアスは泣いて、謝罪に言葉を口にする。
こんな時に言葉を尽くせれば、少しは楽だったのかもしれない。
しかし今の俺は言葉という意思疎通の手段を持たない。
だから、クリアスを抱きしめた。
「コボルト……さん?」
残った一本の腕でクリアスのことを抱きしめて、背中をさすってやる。
判断は間違いだった。
けれどそれは結果論にすぎない。
結果的に間違いだっただけ。
それにクリアスを攻めるつもりは毛頭ない。
俺は判断をクリアスに任せた。
クリアスの判断に従った。
つまり、クリアスの判断は俺の判断と同じなのだ。
腕を犠牲にしたのは俺の判断である。
クリアスがやらせたわけでもなければ、クリアスに何かの責任が生じる判断でもない。
全ての判断の責任を自分で受け止める。
クリアスも自分の判断の分は背負う必要はあるだろうが、それ以上の責任を感じることはない。
「どうして……そんなに優しいんですか……」
なんだか、ただ怪我した責任を感じているだけでもなさそうだと俺はクリアスの涙から感じた。
「腕……無くなっちゃて……」
クリアスの声は震えている。
そんなに泣かれると、むしろ俺の方が罪悪感を感じてしまう。
少し体を離して見つめ合う。
俺の目には少しの怒りも浮かんでいないことだろう。
「どうしたらいいか考えて……神官に診てもらうようなお金はないですし、でも腕がなかったらコボルトさんだって不便だろうし……」
グスグスと泣きながらクリアスは胸の内を吐露する。
正直、魔獣は対等のパートナーではない。
もっと悪く言ってしまえば、使い捨て。
そんな感じがあることを俺も感じ取っていた。
なのにクリアスは俺に対して真摯な気持ちで向き合ってくれている。
片腕が無くなってもう共に戦うことが厳しい、関係を解消したいというのならそれも受け入れるつもりがあった。
どう判断しようと受け入れるのはダンジョンの時と変わらない。
「だから……もう……」
俺はただクリアスの言葉を待つ。
「合成するしか……ないと思うんです」
「‘合成? そういえばそんなものあったな’」
使えなきゃ捨てられる。
それぐらいのつもりだったのだけど、クリアスは俺を見捨てるつもりがないようだ。
「‘合成……か。それはいいんだけど……なんで、そんな顔をするんだ?’」
合成と口にしたクリアスはまたひどく涙を流していた。
「でも、合成、したら、コボルトさんが、消え、ちゃうって……」
息を詰まらせながらも言葉をなんとか絞り出す。
「‘なんだと?’」
「私、コボルトさんは、コボルトさんが、良くて……」
根気強くクリアスの言葉の続きを待つ。
いつの間にか、クリアスは俺の手を握っていた。
幼子がすがりつくように、強く握られた手を振り払うこともない。
「合成……すれば別の魔物になって体は治る。強くもなれるかもしれません。でも、コボルトさんがコボルトさんじゃなくなっちゃうのが……私は嫌なんです。まだ……コボルトさんって呼びたいんです…………」
「‘…………なるほどな’」
何をそんなに思い詰めているのか。
ようやく理由が分かった。
クリアスは俺を見捨てるつもりがない。
だからといって片腕のままというわけにもいかず、戦力的に三階に挑むには厳しいことも理解している。
そこで全てを解決できる方法として合成がある。
ただクリアスも気づいてしまったのだ。
合成した後に残る意識は俺なのか、それとも合成後の魔物のものなのかという問題に。
というか、やはり気づいていなかったのだなと少し笑ってしまう。
同時にほんのりとした愛おしさを感じる。
俺に消えてほしくない。
この言葉はすごく嬉しいものだ。
俺の中にある人を肯定して、一緒にいてほしいと願ってくれるのだから、これほどのことはないだろう。
「‘つまり……合成するか否か。これが問題だな’」
クリアスの心配も分かった。
俺と同じことを心配しているのだ。
合成。
これが何をもたらすのか。
別の魔物になって強くなれる可能性がある。
しかし別の魔物になった時にその意識が何者であるのか、俺のままでいられるのか分からない。
クリアスはまだ泣いている。
こうしてみると、まだまだ若い女の子なんだな。
「‘決断の時か……’」
怖い。
合成して消えるのがとてつもなく怖い。
クリアスの思いを知って、より消えたくないという俺の思いも強くなってしまった。
だけど、このままではクリアスを守れない。
今は片腕を失って、ただでさえ弱かったのに、より弱くなってしまった。
仮にこの状態で行ったとして、ダンジョンの三階に行って無事に帰って来られるのか。
無理を通して、望まぬ結末が待ち受けている可能性はとても大きい。
「‘わずかな可能性でもあるのなら……’」
立ち止まっていては前に進めない。
前に進もうとしなければならないのだ。
「コボルトさん……?」
俺が手を引くとクリアスは涙で濡れた顔を上げた。
「‘やろう、クリアス。俺を合成してくれ。俺は……別の魔物になっても君を守るよ’」
強い意思を込めてクリアスの目を見つめる。
思いよ、伝われ。




