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魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜  作者: 犬型大


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妹の異常3

「コボルトさん! 机の上にあるお薬を!」


「‘薬だと?’」


 俺は素早く部屋の隅に置いてある机に目を向ける。

 小さな棚の隣に置いてある古ぼけた机の上には、薄く濁ったガラスの瓶があった。


 カリンは水の拘束を振り解こうと体をよじっている。

 すぐに抜け出す雰囲気はないが、目が黒く染まるようなカリンの異常が長く続けば危ないかもしれない。


 俺は走って机の瓶を手に取る。


「中の薬をカリンに飲ませてください!」


 瓶の中にはちょっと苦い匂いのする黒い丸薬が入っていた。

 匂いに顔をしかめながらも、丸薬を握りしめてカリンのところに向かう。


「‘飲め!’」


 俺はカリンの顎を掴むと、口の中に丸薬を捩じ込む。


「‘吐き出すな!’」


 丸薬を食べてはいないので味は知らない。

 だが薬ということと匂いからある程度は想像できる。


 よほどのものなのか、カリンは口に捩じ込まれた丸薬を渋い顔をして吐き出そうとする。

 俺はカリンの口を押さえて吐き出させまいとする。


 丸薬の鼻をつくような匂いは俺にとってもキツイ。


「‘チッ! 子供じゃねえんだ! 自分で飲み込め!’」


「んぶっ!?」


「コボルトさん!?」


 吐き出さないようにするだけでは飲み込まない。

 思わずイラついた俺は、カリンの口の中に手を突っ込むような感じで薬を喉に無理やり流し込む。


 懐かしいものである。

 俺も人であった昔、飲みたくないと駄々をこねて母親に口に薬を押し込まれたものだった。


「‘うぇ……くさい……’」


 カリンに薬を飲ませることには成功した。

 ただ手は薬臭くなってしまった。


「うぅ……あ…………あれ……?」


 うめき続けていたカリンの声が弱くなる。

 カリンの目の黒さが引いていって、狂気が理性に塗り替えられていく。


「カリン! 大丈夫?」


「お姉ちゃん……私、またやっちゃった?」


 まだ水の拘束は解かないで、クリアスはカリンの顔を覗き込む。

 カリンはショックを受けた顔をしている。


「薬飲まなかったの?」


「朝、飲んだから大丈夫だと思って……ごめんなさい」


 クリアスは落ち込むカリンの拘束を解く。


「あっ……」


「‘おっと……ムギュ!’」


「……あ、あんがと」


 拘束を解かれたカリンは体をふらつかせた。

 壁に手をつこうとしたけど、届かない。


 そのままゆっくりと体の傾きが大きくなったカリンを、俺は手を伸ばして支えた。

 想定では腕の力で支えられるはずだったのだけど、それでは支えきれずに倒れ込んできたカリンを全身で支えるようになってしまった。


 人の体ならともかく、コボルトの顔は鼻が出ているのでカリンの体に打ちつけてちょっと曲がる。


「コボルトさん、ありがとね」


 クリアスもカリンのことを支える。

 二人でカリンをベッドに運ぶ。


「コボルト……さんには私何もしなかった?」


 ベッドに座らせてやると、カリンは不安そうにクリアスのことを見上げる。


「ちょっとね」


 ちょっとじゃない。

 下手すると死んでいたかもしれない。


 そう思うものの、ここで伝わらない言葉で抗議するつもりはなかった。

 油断していた自分も悪い。


 雰囲気が怪しいと感じた時点で、警戒しておくべきだったのだ。


「もう少しでご飯できるから。寝ないで待っててね」


 怒ることもなく、優しく微笑んだクリアスは台所に戻っていった。


「……ごめんね、コボルトさん」


 カリンの謝罪に俺は少し驚いた顔をする。


「何したのか、よく覚えてないけど……ああなると暴れちゃうから」


 ツンケンとした態度を取られていたので嫌われていると思ったが、そんなに嫌われているわけでもなさそう。

 姉であるクリアスを守るためのキツイ態度だったのだ。


「コボルトさん……くさっ!」


 気にするな。

 そんな意味も込めてカリンの肩に手を乗せる。


 そして指でカリンの鼻の下を一往復。

 手はいまだに丸薬臭い。


 それはコボルトだけでなく、人にとっても臭い。


「この……犬頭!」


「‘さて、手でも洗ってくるかな’」


 しおらしい態度も悪くないが、元気な方がカリンっぽい。


「最悪! ……ほんと変な魔物」


 俺は手を洗う水でもないかとクリアスのいる台所に向かったのだった。

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