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魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜  作者: 犬型大


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合成の事実2

「気に入らないならそれでもしょうがないですね……」


 クリアスは少ししょぼんとした顔をする。

 被ってる方が可愛いのにと言わんばかりの顔をしているが、嫌なものは嫌。


 ただの魔物と魔獣を区別するために、何かを身につけておく必要があることは理解した。

 だから首に巻くぐらいは我慢する。


 クリアスの方も大人しく首に巻いてくれるならと妥協してくれたようだ。


「それじゃあ行きましょうか……」


 妥協はしてくれたようだが、多少拗ねている様子が見て取れる。

 俺はそんな態度に気づかなかったことにして、クリアスについて家を出る。


 軽く振り返ってクリアスの家を確認する。

 古ぼけた家。


 新しさを感じず、長年住んでいるような雰囲気がある。

 周りの家も同じような感じだ。


 人の身なりはしっかりしているが綺麗というほどでもなく、一般的な人々である。

 人の行き来は意外とある。


 今いるのは町の外れといったところだろう。

 チラチラと見られているような気がする。


 他に魔物を連れている人は少ない。

 ピンクのバンダナを首に巻いたコボルトは少し目立つ。


「ようクリアスちゃん! 魔物を捕まえたのかい?」


「はい!」


 家の屋根を直していた若い男が、クリアスに声をかけてきた。

 クリアスは笑顔で答える。


「クリアスちゃん、似合いの魔物だね」


「ありがとうございます!」


 軽く会話して、手を振って別れる。

 魔物だと愛想笑いとかしなくてもいいので楽だ。


 クリアスはその後も何回か道ゆく人に声をかけられていた。

 人気者なんだな。


 そのまま歩いていくと人通りも増えてきた。

 町の中心部の方に近づいているようだ。


「‘人が魔物を連れているのは本当に普通なんだな’」


 武装している人たちが魔物を連れている。

 冒険者は魔物と契約して活動するのが一般的だとクリアスは言っていたが、ウソではなかったことがよく分かる。


「ここが冒険者ギルドです」


「‘冒険者ギルド……’」


 冒険者ギルドという大きな建物にやってきた。

 魔物を連れた冒険者を含めた人の出入りも多い。


 中に入ると人でざわざわとしている。


「ええと……魔獣の登録は…………あっちですね!」


 冒険者ギルドの中にはいくつかの受付がある。

 他にも一面に依頼を貼り付けてある壁があったり、一角が酒場になっていたりもする。


 そのためか酒臭い。

 人よりもコボルトの鼻がいいのか、クリアスは気にした様子はなくても俺は少し鼻にシワを寄せていた。


 クリアスは登録所と書かれた受付に向かう。

 俺は軽く鼻を押さえながらついていく。


「魔獣の登録ですか?」


 受付のお姉さんはチラリと俺のことを見ると、先んじて用件を予想して口にした。


「はい、そうです」


 クリアスは笑顔で答える。

 初めての魔獣が嬉しいというのが顔に出ている。


「魔獣の登録は初めてですか?」


「初めてです」


「講習はもう受けましたか?」


「受けてあります」


「ではこちらのチェックシートにご記入ください」


「分かりました」


 クリアスは何枚かの紙を受け取って、受付近くにあるベンチに座って記入し始めた。

 俺はクリアスから離れるわけにもいかず、隣に座って足をプラつかせていた。


「三十八番で合成お待ちの方ー!」


「‘合成……’」


 暇なので人間や魔獣を観察していると、合成という言葉が聞こえてきた。

 いまだに合成というものが、なんなのかよく分かっていない。


 何をするのかと周りの様子を観察する。

 呼ばれた冒険者っぽい人が黒い布を体につけたそれぞれ違う四体の魔獣を連れて、合成室というところに入っていった。


 部屋の中に入られては何をする分からない。

 とりあえず部屋の方を気にしておくが、特に大きな音が鳴ったりということはない。


「えーと……コボルトさんにはちゃんとピンクのバンダナ着けてますし、大丈夫ですね」


 クリアスはブツブツと呟きながらチェックシートを確認していて、もう少し時間がかかりそう。


「‘ふあ……’」


 暇で眠くなってきた。

 俺は大きなあくびを一つ。


「‘ん?’」


 合成室のドアが開いた。


「‘…………あれ?’」


 合成室に入る前との違いに俺は驚いた。

 出てきた人は変わらない。


 変わったのは魔獣だった。


「‘魔獣が……一体だけになってる…………? 食い合った? わざわざそんなことさせる必要はない……’」


 四体いたはずの魔獣が一体しかいない。

 さらに連れている魔獣も入る前にいた四体のどれとも違っているのだ。


 ただ入る前に魔獣がつけていた魔獣を表す黒い布は、同じものなのは覚えている。

 俺の胸がざわつく。


「‘合成……まさか?’」


 合成という言葉からどのようなことを行うのかは、うっすら予想ができる。

 クリアスに出会う前に追いかけられた、ウルフを連れた男たちの会話もなんとなく覚えている。


「なんだ、三回合成したのか?」


「ああ、本当は一回ずつのつもりだったんだが……どうにも良い魔物にならなくてな。もっかいやっちまった」


 今見た魔獣が減ったということ、男たちの会話、合成という言葉。


「‘……まさか合成は魔物同士を掛け合わせることなのか?’」


 どうやって魔物を掛け合わせているのかは知らない。

 しかし今聞こえた会話も魔物を合わせて、別の魔物にしているような内容だった。


「‘合成……俺もされるのか? そんなことされて……俺は俺でいられるのか……?’」


 俺はクリアスのことを見る。

 クリアスがどこまで意図しているのか分からない。


 ただ周りの様子を見ている限り、合成というのも気軽に行われている感じである。

 合成されて別の魔物になってしまう。


「‘クリアス……お前は俺を合成するつもりなのか……?’」


 俺の疑問はクリアスに届かない。

 芽生えた一抹の不安は決して拭い去ることができないのであった。

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