第19話 『ランドセルって、なんであんなに強いのに限定的なん?』
「コウノトリ」の夕方。カウンターに座るふたりの隣を、小学生がランドセルを背負って通り過ぎた。
陽真:「なあ拓真、ランドセルってさ……なんであんなに頑丈なん?」
拓真:「え、急にどうした。」
陽真:「いや、たまたまさっきすれ違った子のランドセル、ピッカピカでな。たぶん新品やと思う。でも6年間使っても壊れへんやん、あれ。雨、砂、蹴り、荷物パンパン、全部耐えるやろ。」
拓真:「確かに。戦場でも通用する鞄って呼ばれてもおかしないな。」
陽真:「せやのに、小学生限定って……制限キツすぎん?」
拓真:「あれ、大人が背負った瞬間社会で一悶着あった人みたいな空気出るもんな。」
陽真:「スーツ着てても、ランドセルひとつであ、今何段階目の人生?ってなるやろ。」
拓真:「ランドセル自体は何も悪くないのにな。見た目も素材も、耐久性も完璧や。」
陽真:「むしろオーバースペックすぎる。あれで通勤してるサラリーマンおったらタスク処理能力鬼強そうに見える。」
拓真:「仕事は殴られても落とさんみたいな信頼感あるな。」
陽真:「でも、意外と容量少ないねん。書類入らんし、タブレットもギリやし。A4って入るっけ?」
拓真:「たぶん、入っても苦しそうな顔してる書類になるな。」
陽真:「つまり耐久力全振りで汎用性ゼロ。」
拓真:「設計思想が小学生の全力なんよな。雨に打たれて走って、放り投げられて、椅子代わりにもされて、それでも壊れへん前提。」
陽真:「でも大人のほうがよっぽど壊れやすいやろ。メンタルとか、肩とか。」
拓真:「ランドセルは6年間フル稼働できるけど、大人は3年目で転職とかなるもんな。」
陽真:「皮肉やな。ランドセルのほうが人間よりタフなんて。」
拓真:「むしろ、大人こそ背負うべきちゃうか? 壊れへんっていう自己暗示になるかもしれんで。」
陽真:「それええな。通勤ランドセル制度とかあったら……俺、意外と乗るかも。」
(ふたり、窓の外の小学生を見送りながら、そっとカップを持ち上げた。ランドセルはまだ何も知らない顔で、夕日を背に揺れていた。)