第18話 『存在通知オンにしてくれ』
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。午後5時半。夕日がガラスにうっすら映り込み、2人の影がテーブルに落ちている。静かにジャズが流れている中、拓真が口を開いた。
拓真:「なあ陽真、お前って学校で存在通知オフやんな?」
陽真:「……俺、Bluetooth機器ちゃうけどな。」
拓真:「ちゃうちゃう、そんなんちゃうねん。いやな、お前、普通に教室おるはずやのに、誰も気づいてへん時間あるやろ。授業中とか、お前の机だけ背景扱いなってるで。」
陽真:「まあ……否定はできへんけど。なんやろな、空気読んでるつもりなくても、いつのまにか読まれてへん側なってる感じあるわ。」
拓真:「俺さ、最初お前と同じクラスなったとき、3日ぐらい存在気づかんかったもん。」
陽真:「え、それほんまに言うか普通。もっとマイルドな言い方せん?」
拓真:「でもな、ふとしたときに喋ったら、めちゃくちゃ考えてるやんこいつってなって。何それ、ずっと静かな哲学者モードで生きてるん?」
陽真:「たぶん俺、言葉に出すまでが長いねん。頭ん中でいっぺんぐるぐるしてから出すタイプやから。」
拓真:「でも、逆にそれええな。俺とか、浮かんだ瞬間に言うてもうて、だいたい後悔してる。」
陽真:「うん、お前の発言は脳の検閲ゼロすぎる。」
拓真:「でもな、陽真の言葉って、じわっと効いてくるとこあるやん。そのときは流したけど、あとで思い出してしみるみたいな。」
陽真:「それ、通知というより時限爆弾ちゃうん。」
拓真:「ちゃうねん、陽真ってな、俺の中では存在通知オンにしときたい人間やねん。いまここにおるって、ちゃんと確認したいタイプ。」
陽真:「……珍しいな。お前がそんな真面目なこと言うなんて。」
拓真:「たまにはな。てか、お前って、家でも存在感薄いん?」
陽真:「ああ、昨日なんか台所立ってたら、母親に“あんたいつ帰ってきたん?”って言われたわ。ずっと家におったのに。」
拓真:「それはもう透明人間の才能やろ。」
陽真:「そやけど、ほんまは別に消えたいわけちゃうねん。ただ、言葉出すタイミングとか、関わり方がよう分からんのや。」
拓真:「それ、分かる気するわ。俺も、無理して近づくん苦手やし。でもお前とはな、なんか話してまうねん。不思議とな。」
陽真:「それ、俺も思ってた。たぶんお前が、勝手に境界越えてくるタイプやからやろな。」
拓真:「俺、他人のパーソナルスペースって文字読まれへんからな。」
陽真:「それ、普通に迷惑やぞ。」
拓真:「せやけど、陽真みたいな静かな奴が笑うときって、めっちゃ貴重やん。ちょっとずつでも、通知きてる感あると安心するわ。」
陽真:「……そんなこと言われると、ログイン履歴つけたくなるな。」
拓真:「ようやく陽真語でたな。じゃあもう、これからは心のウィジェット登録済みや。」
陽真:「……ほんまうるさいけど、ありがとな。」
拓真:「通知、オンにしといたるからな。」