第14話『ばあちゃんを宇宙に連れていきたい』
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。
いつもより少し静かな空気。拓真がカフェオレを見ながらぽつりと呟く。
拓真:「なあ、将来って、なんしたらええんやろな。」
陽真:「どうした急に。らしくないぞ。」
拓真:「さっきカフェオレ飲んでて思ってん。この味、ばあちゃん家で飲んだやつに似てるって。」
陽真:「ほう。」
拓真:「俺、ばあちゃん子やってん。学校で嫌なことあっても、ばあちゃんだけは話聞いてくれてた。」
陽真:「いい人やな。」
拓真:「せやから、将来ちょっとでも恩返ししたいなあって。なんかこう、すごいやつになって、ばあちゃんにドーンって見せたい。」
陽真:「ドーンて。」
拓真:「俺がノーベル賞とか取って、ばあちゃんがインタビューで昔から変な子やったけどなぁって言うやつ。」
陽真:「もうその想像、インタビューの映像にセピアかかってるやん。」
拓真:「ほんで、宇宙行けるようになったら、ばあちゃんを宇宙に連れていきたいねん。」
陽真:「地球で散歩するのもしんどい年齢やろ。」
拓真:「でもな、重力ないとこなら逆に歩きやすいかもしれへん。」
陽真:「無重力ってそういうことちゃうぞ。」
拓真:「でも、地球で苦労してきたぶん、軽くしてあげたいって思うねん。」
陽真:「……ちょっとだけええ話になりかけてるのが悔しいな。」
拓真:「ばあちゃん、星とか好きやったしな。図鑑のページ見ながら、ここまで行けたらすごいねぇって言ってた。」
陽真:「お前、ほんまに覚えてるんやな、そういうの。」
拓真:「うん。だからたぶん、俺が頑張る理由って、あの人のやさしかった記憶なんやと思う。」
(少し沈黙が流れる)
拓真:「……陽真は? 将来どうしたいとか、あるん?」
陽真:「俺は別に。」
(ふたり、何も言わずにカップの中を見る)