第13話 『5分前の帝国』
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。時計の秒針が静かに回る音が聞こえるほど、夜は静か。
拓真:「なあ、5分前行動って、誰が始めたん?」
陽真:「え、突然ルーツ探求すんの?」
拓真:「いや、マジで謎やん。なんで5分前なん? 3分でも7分でもなく、ピンポイントで5。」
陽真:「たしかに…しかもあれ、なんか義務みたいになってるしな。守らんと意識低いって思われる空気あるやろ。」
拓真:「そもそもちょうどが悪みたいな風潮ヤバない? 時計ってそのためにあるんちゃうんか。」
陽真:「5分前に来ることが正義って、もう宗教やな。時間神を崇める集団の教義。」
拓真:「教祖だれや。5分前教の初代。」
陽真:「たぶん昔の軍隊とかちゃう? 上官がブチギレて、次から5分前に並べやコラァ!ってなって、それが文化になったんや。」
拓真:「それを今も引きずってる高校生、悲しすぎん? なにその戦場からの伝統。」
陽真:「伝統とか言うと聞こええけど、要するにトラウマの継承やで。」
拓真:「てか思ってんけど、集合時間5分前に来てくださいって言うなら、もうそれ集合時間ちゃうん?」
陽真:「ほんまや。だったらもう最初から16時55分集合ですって言えやって話やな。」
拓真:「せやねん。時間に正直であれや。嘘つきタイム設定すんな。」
陽真:「しかもそれ、遅刻したら約束破ったって責められるけど、時間通りでもギリやな〜ってなるん、どっちにしろ詰んでるやん。」
拓真:「勝ち筋ないな。時間ってラスボスか?」
陽真:「それかもう、5分前勢の中にリーダーおるんちゃう? 陰で今日も奴らは遅れてくる…とか言ってメモ取ってるやつ。」
拓真:「そいつだけは秒単位で生きてそうやな。朝起きるとき『4時59分59秒』ってつぶやいてそう。」
陽真:「それはそれで尊敬するけどな。でもなんか、そういう世界線、しんどいわ。」
拓真:「せめて高校生くらい、集合時間ピッタリで胸張らせてくれや。」
陽真:「そうやな。ピッタリに来たやつをナイス着地って褒める文化にしたい。」
拓真:「それええやん。5分前行動やなくて、秒読み正義でいこうや。」
陽真:「そのうちジャスト教とか作ってそうで怖いけどな。」
拓真:「それ俺が教祖なるわ。」