第12話 『その1円が俺を裁いた』
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。拓真は財布をいじりながら、どこか落ち着かない様子で話し始める。
拓真:「今日さ、コンビニで1円足りへんかってん。」
陽真:「ほう。」
拓真:「1円足りませんって言われた瞬間、俺、なんか人生ごと否定された気した。」
陽真:「言いすぎや。言われたのは金額や。」
拓真:「でもさ、たかが1円のはずやん。たかがやのに、あのレジの沈黙、空気バチバチやったで。」
陽真:「まあ確かに、妙に重たい空気流れるな、あれ。」
拓真:「あ、こいつ1円も管理できんタイプかって、心の声でジャッジされてる気がした。」
陽真:「お前の被害妄想とセキュリティ甘すぎんねん。」
拓真:「しかもさ、急に小銭じゃらじゃら探し始める自分に気づいたとき、人生の底見た気したわ。」
陽真:「あの財布の奥底かき回す時間、体感めっちゃ長いよな。」
拓真:「でな、そのとき手元にあったの10円だけで。1円以外、出すなっていう無言の圧、あれ異常やろ。」
陽真:「お釣り出させるなよ、って念だけ送ってくる。あれ、レジに立つ暗殺者の気配や。」
拓真:「後ろに並んでる人の気配が刺さる刺さる。もうお前の1円で俺の昼休憩潰れかけてんねんって目してた。」
陽真:「それはもう全員が1円を敵に回してる。」
拓真:「でも逆に言えば、あの場面って人間性が1円で可視化される瞬間やないか?」
陽真:「急に哲学始めんな。お前の小銭管理の甘さを人間性に昇華すな。」
拓真:「つまり、1円って信用スキャンやねん。」
陽真:「その言い方やと財布にマイナンバー連動してそうやからやめてくれ。」
拓真:「で、俺思ってん。俺は今、1円で人間としての価値を量られたんやな、って。」
陽真:「違う。量られたのは今そこにある金額や。」
拓真:「いやもう、あれ以降レジ見るだけで心拍数上がる。たぶん1円トラウマやわ。」
陽真:「お前、そのうち10円足りませんで入院するぞ。」