第11話 『飛んだ瞬間にBGMが変わる』
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。静かな店内の窓から見える電線に、カラスが何羽も止まっている。
拓真:「なあ、カラスの集団って、なんであんなにSFっぽいんやろな。」
陽真:「どのへんが?」
拓真:「いや、普通に電線に止まってるときはただの鳥やのに、
全員で一斉に飛び立つ瞬間、急に背景が無音になるやん。映画のシーンみたいに。」
陽真:「お前の脳内だけでBGM変わってないか?」
拓真:「なんかこう、この世界、実は何かに監視されてる説が頭をよぎるねん。」
陽真:「カラス=ドローン説とか信じてるタイプか?」
拓真:「いやでも、あいつらマジで動き揃いすぎやろ。タイミング完璧すぎる。」
陽真:「それ本能や。長年連れ添った集団行動の賜物や。」
拓真:「あとさ、飛び立つときのバサバサッって音、あれも異常にデカない? 空間が一瞬ひっくり返る感じする。」
陽真:「周囲が静かすぎて鳥の音が主役化してるだけや。」
拓真:「でもその瞬間、俺いつも何かが始まる気してまうねん。」
陽真:「始まらん。始まってるのは、ただの羽ばたきや。」
拓真:「じゃあ聞くけど、あのカラスたちはどこへ行ってるん?」
陽真:「どっかの公園やろ。昼の弁当狙いや。」
拓真:「……そんなん言うたら全部ただの生活音になるやん。もうちょい夢見させてや。」
陽真:「夢見る前に、カラスの集団=物語の導入っていう脳の変換やめろ。」
拓真:「だって急に飛び立つの、まるで俺たちの知らん合図受け取ってるみたいで。」
陽真:「じゃあお前も飛べ。仲間かどうか確かめろ。」
拓真:「……いや、俺だけ飛べへんかったら切ないやん。」
陽真:「飛べる気前提なんやな。」