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第1話 ペンギンは空を飛びたかった
喫茶店「コウノトリ」のカウンター。夕方5時過ぎ、他に客はなし。BGMはジャズ。
拓真:「俺な、前世ペンギンやってん。」
陽真:「唐突すぎるし、たぶんそれ言うの今週で3回目やぞ。」
拓真:「けどな、今日のは確信や。カフェのドアのとこで羽ばたきたくなった。」
陽真:「羽ないやん。あとあれ自動ドアやん。」
拓真:「でもさ、ペンギンって飛べんくなった鳥やん?つまり、“昔は空飛んでた”ってことやろ。」
陽真:「せやな。進化で海に適応したんや。鳥界のニートみたいなもんや。」
拓真:「違う。鳥界のロマンチストや。」
陽真:「なんでやねん。」
拓真:「飛べることより、“飛ばないこと”を選んだんやで。海に潜って、空より青い世界に行くために。」
陽真:「……詩的にまとめるな。」
拓真:「なあ、今の俺もや。空(社会)を飛ぶより、こうしてここでコーヒー飲んでる方がええねん。」
陽真:「なるほどな。つまり、お前の人生、前世から引き続き潜ってるんや。」
拓真:「深いとこ行きすぎて、もう浮かばれへんかもしれんけどな。」
陽真:「やかましいわ。」
(カップの中のコーヒーを見つめるふたり)