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第80話 イベントから数日後。家に来客が……

 イベントから数日が経った。

 僕はいつもどおりゲームをし、ジェシカさんもアリサもOgataSinとして、以前と変わらぬ頻度で一緒にチームを組んで遊んだ。配信の都合もあって、どちらかひとりだけというのも、以前と変わらない。

 変わったことは、アリサとお喋りしながら遊ぶようになったことかな。


 変わらないような、変わったような日々が続いたある日、僕は学校帰りにいつものように交差点で死角に気をつけながら『あそこの建物に敵兵がいたら撃たれるな』『あのマンホールの上に対戦車地雷を重ねたらバレないのでは?』などと考えていた。

 家に帰ると玄関に見慣れぬ靴が複数あったので、来客と遭遇したくない僕はひっそりと2階の自室に向かう。

 居間の方から微かに女性の声が聞こえてくるし玄関にあったのは女性用の靴だったから、母さんの知り合いだろう。遭遇したくない来客でも上位だ。


 さて、ゲームでもしようかなと思っていると、階段を上ってくる音がし、ノックされた。

 あーっ。親戚の誰それさんが来ているから挨拶しなさい、ってやつなんだろうけど、親戚ってだいたい『向こうはこっちを覚えているけど、こっちは覚えていない』から嫌なんだよな。

 居留守したいなあと思いつつ「なーにー?」と適当な返事をしたら、ガチャッとドアが開く。


「ちょっと、勝手に――」


「こんにちは!」


 アリサがいた。


 ……は?


 見間違いではなく僕の部屋の外に、小学校高学年くらいの身長で、不思議の国のアリスの絵本から飛びだしてきたみたいな格好をした可愛い女の子がいる。


「……え? 待って。理解が追いつかない」


 さらにアリサに続いて、背が高く、銀色に近い灰髪の女性まで現れる。以前会ったときと違って、部活ジャージのおしゃれバージョンみたいなのを着ている。上着のファスナーが開いている。もしかしたら、胸が邪魔して閉められないのかもしれない……。


「よう。お邪魔してるぜー」


「え? なんで?」


「この壁、寂しいし、あとでオレとアリサのタペ送るから飾ってよ。姉妹のグッズが出るとサンプルが2つ送られてくるから余るんだよ」


「あ、はい?」


 困惑する僕を余所に、ジェシカさんは室内を見渡す。


 アリサはベッドの下を漁ってる。


「クリア!」


 あ、いや、うん。別に、エッチな本なんて隠してないから、クリアだけど……。


 いったい何が……と思っていると、廊下に母さんと、ジェシカさんのマネージャーさんがいた。

 なんなのこれ。


 絵本から飛びだしてきたみたいな可愛い少女と、ファッション誌の表紙を飾りそうな美人と、仕事できます感あふれるスーツ姿のOLと、普段着のおかん……。


 待って!

 恥ずかしい!

 おかんの存在が恥ずかしい!


 複雑な感情が込みあげてくるけど、異性が自室に来てしまったことより、とにかく、おかんの存在が恥ずかしい……!

 僕の中学校時代のジャージを着ていないことだけがセーフ……!


 僕が視線で『どこか行ってくれないかな』と訴えると、母さんは困惑したような顔をする。


「和樹。この方達が、前話してくれたゲームの知り合いなのよね?」


「あ、うん」


「お金を振りこむから口座番号を教えてほしいって言われて、お母さん、詐欺だと思ったのよ?」


「あ、いや、そこは、銀行口座を作ってって頼んだときに説明したでしょ。ゲーム大会に出て、賞金が貰えるって」


 未成年でも銀行口座を作れるらしいけど、僕はよく分からないから、父さんと母さんに相談した。そうしたら、すでに僕名義の口座はあった。将来のために作ってくれていたらしい。賞金はそこに振りこんでもらったはず。


「でも、8万円くらいって言っていたでしょ? 500万円も振りこまれていて驚いたわよ」


「8万だよ?」


 あ。そっか。何かの手違いで大金を振りこんでしまったから、訂正作業のためにジェシカさん達が来たんだ。


 ぼふっという音がするから何かと思えば、ジェシカさんが僕のベッドに寝ていた。

 僕が普段、寝ているとこだよ! 嫌じゃないの?!


「ねむ……」


「あ、いや、そうじゃなくて。500万ってなんですか?」


「ん? 前、500万振りこむって言っただろ」


 マネージャーさんがベッドに近づく。どうやら、ジェシカさんを叱って起こしてくれるよう……だぁ?

 マネージャーさんはベッドに腰掛けてしまった。


 なんで……。


 母さんが僕の学習机に据え付けの椅子に座った。


 アリサはいつの間にか床にうつ伏せになって、卒業アルバムの写真から僕を探すというベタなことをしている。あ、いや、VRゲームするために部屋は綺麗にしているけど、そんなオシャレな服で……。


 部屋主の僕が、いちばん居場所ない気が……。仕方なく部屋と廊下の境界に立つ。廊下には出ない。部屋主としての意地だ。


 しかし、そんな部屋主が中に入れない話を、マネージャーさんが始める。


「500万円の件ですが、実際は弊社ロボライブから動画出演料というかたちでの入金になります。配信者同士での金銭の授受は問題に繫がる怖れがあるため――」


 なんか難しい話だからほとんど分からない。

 一応、ジェシカさんが『税金のことよく分かんないから、マネちゃん助けて』と泣きついたから、所属事務所からの入金になったということは、なんとなく分かった。


 つまり、「ジェシカさんはロボライブから給料をもらって」「そのお金をロボライブに払って僕を雇って」「ロボライブから僕に給料が払われている」ような話なのだろうか。


 お金があちこちにぐるぐるしていて、わけがわからん。そこは、マネージャーさんと母さんに話しあってもらおう。あ、いや、母さんも無理そうだから、改めて父さんと話しあってもらうことになるのかな……。


 さらに、500万とは別にジェシカさんの配信で投げられたスパチャのうち『カズ君にバレンタインのチョコ代』『弟君に上手いものでも食わせて』といった、明らかに僕宛と思われるお金は今後別精算するらしい。


「そこは計算とか手続きとか面倒だし、焼き肉代として振りこまれたものは奢るからそれで勘弁してくれー」


 ジェシカさんはうつ伏せになると僕の枕に顔を押しつけ、わりとレアな情けない声を漏らした。

 いや、そんなことより、それ、僕の枕!

 ねえ、汚くないの?! 変なにおいしないの?! 平気なの?!


 それに、『焼き肉代として振りこまれたものは、奢るからそれで勘弁してくれー』ということは、そのまま解釈するなら、焼き肉を奢ってくれるということで、これからもリアルで会うということ?!


 突っこみが追いつかない!

 ただでさえコミュ症こじらせて言葉数の少ない僕が、混乱でさらに喋れなくなってる!

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