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第78話 僕達3人の絆の勝利だ!

 発砲と発砲との間隔が長い。銃を撃ち交わしたあと、相手の未来位置を予測して、物音を立てずに移動している。読みあいの応酬だ。

 ジェシカさんとユウシさんが撃つときも撃たないときもお互いに牽制しあい、相手の行動選択肢を削り、有利な状況を作ろうとしている。

 お互いに、一瞬の隙が命取りになると分かっているから慎重に……けど、ときには大胆に動く。


 互角だ。

 だが、まずい。

 ユウシさんはスナイパーライフルを装備している。近距離なら、体のどこに当たっても一撃死だ。

 ジェシカさんのアサルトライフルは、旧作の経験や昨日今日と遊んでみた感触から推測するに、近距離からでもヘッドショット2発、もしくはヘッドショット1発と胴体2発を当てる必要がある。

 ジェシカさんの方が不利だ。いや、アサルトの方が狙いやすいから、チャンスはある。でも、ユウシさんはプロの突砂。射線が確保できたら、一瞬で狙って撃つ。


 まずい。兵員輸送車両の走行音が聞こえた。間違いなく複数名の敵兵士が乗っている。

 おそらくフラッグを奪い返すために急いできたからだろうけど、戦車が来なかったことだけは、不幸中の幸いだ。


 いくらなんでも、ジェシカさんひとりで、ユウシさんを相手しつつ他のプロを倒すのは不可能だ。


 さすがのユウシさんも、配信中のジェシカさんの前でチートはできないだろうから、倒すのは今しかない。


 動ける僕がなんとかしないと。

 でも、銃はないし、立ち上がれない……!

 どうする。どうすればいい……!

 なんとかしてジェシカさんを援護しないと。でも、どうやって……。


 まずい!

 ユウシさんがジェシカさんの側面に回りこむ。ジェシカさんは正面の敵を牽制していて、死角のユウシさんに気づいていない。

 やっぱユウシさん、上手えな。車両から兵士が降りるタイミングにあわせて移動して、ジェシカさんの意識から逃れた。


 ヤバいヤバいヤバい!

 プロ達はジェシカさんの位置を正確に見抜いていて、逃げ場を奪うように包囲網を縮めている。

 この位置だと叫んでも僕の声はジェシカさんに届かない。


 すぐそこで、ユウシさんが汚ねえケツをこっちに向けているんだ。

 ぶちのめすのは今しかない!


 こうなったら!

 僕はアリサの上に覆い被さるようにして乗り、そのアサルトライフルを構える。


「ユウシさん! 油断したな! 僕は生きてるぞ!」


 銃口をユウシさんに向ける。

 ユウシさんはこのライフルの残弾が0だということを知らないのだから、警戒するしかない。

 ユウシさんの意識を少しでもこっちに引き寄せられれば、ジェシカさんが気づく可能性が上がる……!


 だが――。


 ユウシさんは体をジェシカさんの方に向けたまま、首だけ振り返る。


「無駄だ。それはテメエがコラボ女に渡した銃だ。発砲回数はカウントしている。残弾0だ」


 ……ッ!

 さすが、プロプレイヤー。嫌な人だけど、僕より多くのものを見聞きしている。まさか僕の発砲回数まで把握しているなんて。


 ……でも。

 僕が何もできないと思って、警戒心を解いた!


 アリサがリスポーンせずに、ずっとダウンしている理由を考えもしなかったな!


 フラッグ戦ではダウンすると、ダウンした場所で蘇生を待つか、自拠点で復活するかの二択だ。旗を持ち帰るというルールの性質上、仲間の隣から復活することはできない。


 アリサはダウンしたまま。

 拠点で復活したら、ここに戻ってくる時間がもったいないから、蘇生を待ってる?

 前線で復活したいから、ダウンしたまま待っている?


 違う。

 アリサは僕が蘇生キットを持っていないことを知っている。蘇生が期待できないなら、さっさと『リスポーンする』を選んで、自拠点で出現すればいい。僕が生き残っていると信じて、自拠点からバギーに乗ってここまで走ってくればいい。

 その方が、間にあう可能性が高いはずだ。


 しかし、アリサはリスポーンをせずにずっとダウンしたままだ。


 これには、意味がある。アリサの思いを受けとった僕の――。


 僕達の……勝ちだ!


「アリサ……。力を貸してくれ」


 僕はアリサのスカートに手を突っこみ、太ももに据え付けられたハンドガンを掴む!

 コラボ衣装のスカートの中にハンドガンが隠してあることを、何度もパンツを見せつけられた僕は知っている!


 警戒心皆無のユウシさんの後頭部を目掛けて発砲。

 命中。

 ユウシさんが僕の方に振り返り、さらに次の弾丸が額に命中。

 倒した。

 いや、生きているかもしれない。もう1発、発砲。

 体が倒れていく。

 演技かもしれない。落ちていく頭部に銃口を向け続ける。

 ユウシさんは完全に地面に倒れた。


 動かない。

 死んだふりを考慮し、銃口を向け続ける。

 しまった。キルログを見ればいいんだ。緊張のあまりうっかりしてた。


 見た。


 出てた。


 僕がユウシさんを倒していた。

 僕達の勝ちだ!


 アリサはジェシカさんが来てくれると信じていた。配信に映ればユウシさんはチートを使えなくなる。アリサは僕達が勝つには3人が揃う必要があると信じて、スカートの中のハンドガンを渡すために、ずっとダウンしたまま待っていたんだ。


 何度でも言うぞ。 

 仲間を信じ続けた、僕達の絆の勝利だ!


 その後、味方が駆けつけてくれた。

 蘇生キットと救急キットと弾薬パックにより、僕達はフル回復。

 フラッグを青葉さんに託して、僕とアリサとジェシカさんは仲間とともに鉄橋を死守。

 青葉さんが自拠点に到達し、配信者チームの勝利が決まった。


「うおおおっ! 勝った! プロに勝った!」


 僕はVRゴーグルを外し、右を見た。


 アリサはタイツの胸元を指でつまんで広げ、手をパタパタさせて風を送っている。

 何か興奮した様子で喋っている。配信だろう。

 反対側を見ると、ジェシカさんも何か喋っている。


 そっか。ふたりはゲームが終わったら即配信終了というわけでもないか。


 僕はトレッドミル床コントローラーのハーネスを外した。

 僕が専用靴から自分の靴に履き替えていると、アリサが駆けよってくる。


 えっ。待って。正面まっすぐ、止まる気配のない勢い。これ、護岸を乗り越えるための動きじゃない?!

 僕は膝立ちのまま両手を組み、アリサの足を待ち構える。


 しかし、アリサは僕の目の前で急停止した。

 勢いあまってアリサの上半身は進み続け、僕に激突。僕は小さな体を抱き留め、しっかり支える。


「カズのエッチ……! アリサのお尻触った!」


「……は? 触ってないよ?!」


 僕は慌てて、アリサの背後に回していた手を離す。

 今触っていたの肩と腰……。腰だったよね?

 お尻じゃなかったはず。


「ハンドガン取るとき、太ももだけじゃなくてお尻いっぱい触った!」


「あ、そのこと。ねえ、誤解を招くから、その言い方はやめて」


「エッチ! カズのエッチ! 銃を撃つときアリサのお尻に頬ずりしてニヤニヤしてた!」


「あ、はい……」


 さすがに周囲の人もゲーム内のことだと分かってくれるだろうし、僕は急に、すん……となった。


「狙いをつけるために体を動かしたけど、お尻に頬ずりはしてなかったと思う……」


「ねえ、フラッグ取る前に言ったこと、覚えてる?」


 フラッグ取る前?

 敵陣に特攻したときだよな。正直なところ、集中しすぎていてあまりよく覚えていない。


 けど、僕は癖でつい「あ、はい」と言ってしまった。


「えへへ……。アリサ、毎日料理する。お掃除もする」


「……うん?」


 どうして料理や掃除の話が出てくるのか分からない。


 あ。

 料理も掃除も、敵を倒すという意味か。

 つまり、一緒にゲームしようということだ。


「もちろん! 僕も一緒に料理と掃除をしたい。アリサと、ジェシカさんと一緒に、これからも3人で!」


「うん! ジェシーならいいよ! 3Pだね! いひひひっ!」


 首や耳が真っ赤になったアリサは歯を剥きだしにして笑っている。

 身体を動かしまくっていたから、熱くなっているのだろう。


「ふたりとも、よくやった」


 ジェシカさんが小走りでやってきて、いきなりアリサごと僕を抱きしめてきた。


 ジェシカさんの胸が触れそうなので、僕は仰け反って距離を取る。

 というか一瞬、弾力のある大きなものが当たった!


 待って。一瞬じゃない。また、当たった。というか、押し付けられてる?!


 アリサがじと目で見上げてきた。頬が焼きマシュマロみたいに膨らんでいく。

 や、やばい。

 僕がニヤニヤしていることに気づかれた?

 しかし、アリサはふてくされた表情をしたけど、何も言わない。


 ジェシカさんは意味が分かっているのか分かっていないのか、笑いながら僕達を抱きしめ続けた。


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