第75話 僕達は敵を蹴散らしていく。そしてついにユウシさんが現れる
「移動しよう。確実にバレた」
「ん。あの電車に行こ」
僕達は窓が割れまくった電車に乗りこみ、腰を低くして車内を移動する。
「なんでさっきから、クソザコの僕がプロチーム相手に優勢に戦えるんだろう」
「え? 普通でしょ?」
「いやいや、相手プロだよ? アリサも知ってるでしょ? 僕のキルレート0.6だよ? アリサだって僕のこと、ザコって言うでしょ」
「うん。アリサと比べたらザコだけど、カズは普通につよつよの民でしょ?」
「え?」
「キルレって通算成績だよね。カズは1000時間遊んだ最初がキルレート0.6以下だったかもしれないけど、最後の100時間は普通に2くらいは超えているんじゃないの?」
「あ、いや、でも、キルレ2くらいじゃプロに勝てない気が……」
「Ⅲのオンで2とれるんなら、今日の相手くらい余裕で撃ち勝てると思う」
「え?」
「プロよりペッキーとかタカユキとかのほうが強いでしょ?」
「あ、いや、でも、BoDⅣで最強チームだよ?」
「金玉もプルステもファック兄弟達もいないゲームで最強を名乗るのは良くないと思う」
「……言いたいこと分かってきたかも。それはそうと、ゴールデンボールさんのことは、金玉って呼ばない方が……」
つまり、僕がザコなのではなく、Ⅲのアイツらが狂った強さの世界最強レベルだったんだ!
僕はⅢのオンラインに最後まで残っていた野生のプロ60人と戦っているうちに、とんでもなく上手くなっていたってことだ。違ったとしても、そういうことでいいや!
車両に手榴弾が投げこまれる。だが、プロの狙いが上手すぎて、ちょうど僕の足下に来たから、爆発前に車両の外に蹴り返した。
僕はすぐに身を翻し車両のドアに向かう。
目の前でドアから飛びだそうとしていたアリサが両手を頭上に上げている。
ドアの上を掴もうとしている? そういうことか!
僕は強く床を蹴って加速し、アリサの背中に全力で体当たり。
アリサが頭上へと回転して車両の上に乗り、天井を移動して、僕達の背後に迫っていた敵の後ろに回りこみ、ナイフキルした。
やっべ。さすが変人の中でもトップクラスの変人。なんでそんなことができるんだよ。
倒れた敵が落としたアサルトライフルが床をすべり、車両のドアから落ちてきたので、僕はそれをつま先で蹴って、目の前に浮いたところをキャッチして、地面に伏せる。車輪の隙間から向こう側に見えた敵の足を撃って、文字通り足止めした。
アリサと合流し、腰を低くしてホーム下を走る。
「うわっと!」
頭上すぐ近くのところで弾丸が炸裂した。アリサが撃ち返すから、そっちは任せて、僕は反対方向を索敵。問題なさそうだ。
僕はホームの離れた位置にあった消火器を撃って破壊して敵の意識を誘導してから、ホーム下のアリサの手首をつかんで引っ張り上げた。
アリサは撃たれたらしく血まみれだ。
「あれ。撃ち負けた? 大丈夫?」
「No」
「ん?」
「当たったよ、今、当たったけど、あいつ、ピンピンしてる!」
「え?」
ガズンッガズンッと固く重い連続音が響き、僕のすぐ横にあった柱に複数の穴が開いた。
「バレットのリロキャン! ユウシさんか!」
「カズ、てめえ、なんださっきの連続キルは。どんなチート使いやがった!」
この声、間違いない。ユウシさんだ。
ユウシさんは昨日の試合で米軍を相手にし、戦況を覆している。
出てきたということは、彼等が追い詰められているということ。もしかして、この近くに敵の旗がある?
アリサが最後のスモークグレネードを使い、僕達の姿を隠す。僕達は地面を這い、逆側ホーム下に下りると、腰を曲げて全力で走る。
ライフル弾の連射が頭上近辺に降り注ぎ、ホームに火花が散る。さすがに安全な移動先は限られているから、こちらの位置は読まれるか……。
1発が頭部付近を掠める。体力は大きく削られたがチャンス!
「ユウシさんめ、焦ってるな! 位置がバレバレなんだよ!」
僕はユウシさんのいる位置に手榴弾を投げる。ホームの柱やゴミ箱や掲示板の位置は記憶している。それらのオブジェクトの隙間を縫って、逆側のホーム下に届くはず。
命中した。
さらにアリサがホームに銃を乗せて射撃。
「よし。倒し……てない?」
「でしょ? あいつ、ヘッショしても死なない!」
「ラグったかな……。それとも無敵アーマーなんてある?」
「知らないよ!」
僕達は身を隠しながら、少し前に背中あわせで戦った位置に戻る。
アリサが落ちていたスナイパーライフルを拾い、ユウシさんの頭部を狙った。
だが、ユウシさんは自らの腕を顔の前にまわして、弾丸を受け止めてしまう。
「No!」
「噓でしょ! 頭部を庇ったらダメージ減るの?!」
BoDⅤの仕様は分からないが、アリサの狙撃が精確すぎて、頭部狙いがバレたのは間違いないだろう。だからといって、あんな防ぎ方ある?
僕達が物陰から転げ出た瞬間に、爆風が背中を叩いた。
ユウシさんが歩兵携行式の対戦車ロケットを地面に向かって放ったのだ。
アスファルト混じりの土砂が降り注ぎ、画面が灰と土の色に染まる中、僕は敵の死体からスモークグレネードを拾って投げる。
旗さえ取ってしまえば勝ちだ!
旗はどこだ! どこに隠した!




