表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/81

第71話 プランB! 僕とアリサは敵陣に突入する

 僕はバギーから飛び降りる。


「席を外してごめんなさい。戻ってきました! 僕がスモークを投げたら、ほぼ確実に殺されるからごめんですけどアルファ3と4は煙に突入してください。残りは、最後に敵を見た位置に向かって射撃。僕とアリサに5分ください。そうしたら、敵拠点の旗を獲ってきます!」


 誰かがぴゅーと口笛を吹き、別の誰かが頼んだぞと返事をくれた。


「よし、アリサ! 行こう! プランB!」


「OK! Move! Move!」


 僕は橋にスモークグレネードを投げ、煙で敵の視界を奪ってから、川に飛びこんだ。


 スモークで橋の上に敵の警戒をひきつけ、川を泳いで渡る作戦だ。プランBと言ったが、特に深い意味はない。


 反対側の護岸に到着して、さあ、ここで昨日の秘密特訓が活きる。

 本来なら護岸を上るために、数十メートル先の階段まで向かう必要がある。当然、敵もそこは警戒しているだろう。

 だが――。


 僕は壁のような護岸に背中をあわせ、腰を落として両手をお腹の前で組む。


「アリサ!」


「うん!」


 アリサは真っ直ぐ僕に駆けよってきて、足を僕の手に乗せる。

 僕はおもいっきり腕を振り上げ、アリサの体を上方に送りだす。

 昨晩、何度も膝蹴りを喰らったり「お前、ラブコメの主人公かよ」と言われるような姿勢で押し倒されたりしながら特訓した、ヘルピングオーバーという動作だ。

 タイミングばっちり。アリサが護岸の上に出た。


 特訓のおかげだ。しかし、冷静になって考えてみると、ゲームで実現できればいいんだから、昨晩、リアルの肉体を使って練習する必要はなかったよな。深夜テンションでみんなおかしかったんだ。


 僕もダッシュで護岸を途中まで登り、アリサが細い腕で僕の手を掴み、上に引き上げてくれる。

 リアルアリサの腕力では僕を持ち上げることはできないが、ゲーム内アリサは見た目は子供でも腕力は軍人だ。


「ここからは隠密で」


「うん」


 僕達は口を閉ざして走りだす。


(燃えてる戦車の残骸や煙に身を隠して! 炎で影が伸びない位置を選んで!)


 声に出さなくても僕とアリサは息ピッタリで走り続ける。


 今は何も言わなくても、いつかふたりが何度も経験したときと同じ行動を再現すればいい。

 たとえ新シリーズの新マップだろうと、過去作と似たようなシチュエーションがある。僕達が培った経験があれば攻略可能だ。


 丁字路だ。

 西側へ向かうルートを選び市街地に身を隠す。敵に見られないようにするため、かつ、休憩だ。走り続けるとリアルの体力が尽きる……。

 狭い路地裏で身を寄せ、囁く。


「敵は僕達の奇襲を警戒している。無言続行。アリサ。いつもみたいに突撃しないでよ」


「えー。アリサ、お喋りしたいー」


「喋りたい欲は、配信で発散してよ。ほら。詳しくないから違ったらごめんだけど、VTuberってリスナーのコメントとおしゃべりするんでしょ?」


「もーっ! それは駄目だよ」


「なんで?」


「コメントに敵チームの情報が書いてあったら、それを読んじゃうでしょ」


「あ。そっか。敵チームの動きが分かっちゃうか。それは卑怯だ」


「うん。だから、アリサはコメントを読まないし、ジェシーとお喋りするのはゲーム内チャットだけだよ。自拠点を出たら配信チャンネルでは喋らないよ」


「なるほど。納得した」


「アリサの声が配信にのるのはジェシーが近くにいるときだけだから、カズがアリサのパンツ可愛い好き好き~って言ってたのは、配信されていないから安心してね」


「そんなこと言った記憶はないけど」


「しょうがないから声を出さないようにしてあげるけど、アリサとお喋りできなくて寂しいからって、泣いて敵に気づかれないようにね!」


「分かってる。アリサがすすり泣けば妖怪みたいで、敵をビビらせられるかも!」


「アリサ泣かないもん!」


 僕達は移動を再開した。接近してくる敵をやり過ごし、避けられない場合は必要最小限を仕留めつつ、マップ北端の敵拠点を目指す。

 川でのひきつけやショートカットが功を奏したのか、狙いどおり、敵の予測よりも速く行動できている気がする。さすが、土煙のカズ!


 コンクリートブロックと有刺鉄線でバリケードになっている曲がり角は、僕が敵チームなら確実に待ち伏せ要員を置く。


 僕とアリサは、道路の左右に分かれて、互いの死角をカバーして走る。


(うん。そこから来ると分かってた)


 僕はアリサの背後にいた敵を倒す。

 同時に、僕の真横でも敵兵士が倒れる音がした。


 互いに死角をフォローしあえば、不意打ちには負けない。

 僕達は爆発物による攻撃で全滅しないように、一定の距離を保つ。


 アリサが弾を撃ちつくしてリロードしている最中は、僕が敵の予想地点に牽制射撃をばらまく。

 逆もまた同様なので、ふたりが同時に撃ちつくすことはない。


(アリサの射撃精度が上がってる。一瞬でひとり確実に片づけてれるから、僕はそっちを警戒する必要がなくなって、凄く楽。やっぱ、使い慣れたトレッドミル床コントローラーだからか。凄いな。橋付近の敵が防衛線を下げるとしたら、右から来る可能性が高い。けど、そう思わせて、僕達を逆に誘導している気がする)


 嫌な予感で肌がざわつくので、普段なら右に曲がりたい場面だが直進した。

 打ち合わせをしなくても、アリサが追随してくる。


 2年間、フォローしあってきたのだから、相手の思考パターンは分かる。


 発砲音でもう敵に僕たちの存在はバレているから声を出してもいいんだけど、言わなくても、アリサも同じにようにしている。


(皮肉だよなあ。ゲームなら恥ずかしがらずに会話ができるのに、喋らなくても困らないなんて)


 僕達が進軍している間にも、自拠点付近の味方が倒されているから、旗を取られる可能性はある。

 急がないといけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ