第70話 僕は再出撃し、アリサとともに中央の鉄橋へ急行する
あれ?
入り口から最も近い位置にジェシカさんのゲームスペースがあるんだけど、さっきと様子が違う。
撮影用のカメラかセンサーが付いているらしき棒に囲まれているのは同じなんだけど、その中央に、僕と同じトレッドミル床コントローラーが置いてある。
「シンさん。準備できてます」
「サンキュ。マネちゃん」
ジェシカさんが僕の方を見て、口の端をにいっと吊りあげる。
「さっきはああ言ったけど、相手チームがかなりグレーなことしているのは間違いないからな。こっからは使い慣れた、こっち。本気だ」
使い慣れた……ってことは、自宅にこれあるの?!
「ほら。急げ」
「あ、はい。……ッ!」
僕が自分のスペースに向かうために振り返ると、ジェシカさんにおもいっきり尻を叩かれ、狙撃されたかと思うほどの快音が鳴り響いた。
「サー! 気合い入れて戦います! サー!」
僕は小走りで自身のゲーム台に向かい、準備をする。
「シンさん、駄目ですよ! なんで未成年のお尻を叩くんですか! 普通にアウトですよ!」
「あはは、ごめんて」
ぷっ。ジェシカさん、マネージャーに怒られてやんの。
まあ、たしかに、大人が未成年の異性のお尻を触ったんだから、事案だよな。
あ。アリサのゲームスペースにもトレッドミル床コントローラーが置いてある。
あれ。でも、アリサがいない……と思っていると、再び、お尻に強い衝撃。
パーンと鳴り響いた。アリサが自分のゲームスペースに行かずに待っていたようだ。
「んっ!」
アリサが僕にお尻を向けて、ぷりぷりと振った。叩けってことだろうか。
ノリと勢いで僕は手を振り上げるが、ギリギリで気づく。
「あ、いや、普通に無理……」
「優しいんだ。じゃあ、アリサのお尻、叩けないなら、しっかり見ててね」
敵陣に突撃するからついて来いってことだな。
「うん。目を離さない。アリサのケツは僕が護る」
格好いい台詞を言えたという満足感とともにVRゴーグルを装着したけど、別に格好良くないな……。
「えっ?」
拠点に出現し、我が目を疑った。
拠点の至る所が炎上しているけど、銃弾が飛んできていない。
敵が近くにいない?
リスキル地獄のレイプ部屋と化しているかと思ったけど……。
いったいどうなった?
「え、なんで? どうなってんの?」
混乱しつつ周囲を見渡していると、青葉さんがやってきた。
「お帰り。カズ君達がいなくなって少ししたら、敵チームの何人かが引き返していったんだよ」
「え? なんで……?」
「なんでって、カズ君達がいなくなったからだよ?」
「え? 人数が減ったなら、むしろ攻めるチャンスでは?」
「え?」
「え?」
「プロチームのユウシさんって、Ⅲでカズ君がいたクランのリーダーでしょ? 当然、土煙のカズのちん出奇抜さは知っているよ」
「多分、神出鬼没ですよ?!」
「めっ!」とゴツい兵士が可愛らしい仕草で僕の額を叩き「細かいことはいいの!」と眉間に指を指してきた。
「とにかくカズ君達がいないんだから、敵は拠点を護るしかないでしょ? 前線を突破されたと思いこんで、自拠点に戻っていったんだよ」
「そういうことか……!」
かーっ! さすが、僕! プロに警戒されるほどの実力ッ! なんてね!
なんという嬉しい誤解だ。
いや、違う。
僕のせいで3人も抜けたのに、残ったみんなが頑張ってくれたから、持ちこたえられたんだ。ありがとう、みんな……。
勝ちたい。
ここまで状況が整っているんだから、勝たなきゃ噓でしょ!
背後で足音がしたかと思ったら、何者かがナイフで切りつけてきた。
「カズの馬鹿!」
「なんで不機嫌モード?! 仲直りしたよね!」
青葉さんから戦況を聞いていただけなのに、なんで攻撃してくるの?!
振り返れば、不思議の国のアリスみたいな小柄な少女がいた。およそ戦場には似つかわしくない、エプロンドレスとうさ耳カチューシャというコラボ衣装。
可愛いが、手にナイフを持ち、シュッシュッと突きを繰り返していて怖い。
そして、その隣に寄り添うように、もうひとりの頼れる仲間が出現した。
将校用の軍服を着たミニスカ指揮官だ。
「アリサ、カズ。お前達ふたりで敵拠点に特攻しろ。旗を獲れ。オレがお前達の行動にあわせてやる。好き勝手に暴れてこい。レディ青葉はオレの援護を頼む」
「りょっけー! 全力で暴れる!」
「はい!」
「やぁぁん! シン様、結婚じでぐだざいぃぃぃっ!」
「よし、行くぞ! 野郎ども、敵のケツに弾を、ありったけ喰らわせてやれ!」
さあ、ここから一気に逆転勝利だ!
僕はアリサとともに2人乗りバギーでマップ中央にある鉄橋の手前まで急行した。
道路は度重なる爆発によりでこぼこになっていたため、画面は揺れまくったが、気にしない。
この程度の障害では、僕はハンドル操作を誤らず、真っ直ぐ進める。
橋は男性陣4名が防衛していた。
地雷敷布担当と、治療担当と、役割分担をして相手の車両を完全に阻止している。




