第65話 僕は超高速ジャンプで敵戦車に特攻を仕掛ける
僕はブロック塀の隙間からマップ中央を観察する。
僕に対戦車装備がないと踏んだのか、敵戦車と、随伴歩兵が前進を再開した。
埃を孕んだ陽光の中、戦車隊が重々しく前線を押し上げてくる。
なんという威圧感!
画面がリアルすぎて怖え……。
車体が路上の瓦礫を踏み潰す音が徐々に迫ってきた。
駄目だ。
これ以上接近を許したら配信者チームは完全に抵抗不可能になってしまう。
ライフル音がしたので、僕は意識を戦車からキルログに移す。
ログは2行出ている。
GameEvent101のユウシさんが、たった1発のライフル弾で配信者チームをふたり倒していた。
「待って! おかしい! 遠距離だから胴体じゃ死なない。ヘッショのはず。でも、それはおかしいって! 狭い通路で近距離の出会いがしらならともかく、遠距離から撃った弾丸が、地面と水平に飛んで縦一直線に並んでいた兵士の頭を貫通するって、いくらなんでもありえない!」
確信した。
全員ではないかもしれないが、プロチームは数名が何かしらのチートをしている。ユウシさんは限りなく黒い。青葉さんを一撃で殺せる位置、かつ、一発で米軍拠点の兵士を2キルできる位置なんてものは、存在しない。
存在するとしたら、僕が今いる、このブロックの陰だけ!
ユウシさんはチーターだ。
けど、どうやって?
配信しているんだから、そんなにあからさまなチートは使えないと思うけど。
でも、全員が配信しているわけではないし……。
「つうか、さっきから何発も撃ってきているスナイパーを、アリサがいまだに排除できないってのも不自然だ。アリサだったらとっくに、ユウシさんの位置を見つけて倒しているでしょ!」
怒りで操作をミスるわけにはいかないのに、指が強ばってしまう。
「くっそっ。むかつくっ! 卑怯な手段で一方的に攻め続けやがって! ひとりかふたりの悪質プレイヤーが混ざっているんじゃなくて、ほぼ全員だろ!」
……?!
BoDのシステムではなく、Virtual Studio VRの機能でメッセージが届いた。
送信者はGameEvent101、ユウシさんだ。
不快な思いをするのは分かっているが、タイミング的に、見るしかない……!
『いつまでそんなところに隠れているんだ? お前は俺には勝てないんだよ。ザコがよ!』
……なぜだろう。
アリサから同じようなことを言われたときとは、まるで違う感情が込みあげてくる。
たしかに、アリサから『ザ~コ。ザ~コ。ぷぷっ。カズはアリサには勝てませ~ん』と挑発されたときもムカついたけど、その感情は一瞬で消えた。
でも、ユウシさんからのメッセージは、ただ、ただ、不愉快な気持ちが、いつまでも残る。
『気づいているか? お前だけ死んでないんだぜ? そのうちお前にチート疑惑がかかるだろうな。くっくっくっ! ただ倒すだけじゃない。お前は炎上させてやるよ! お前のせいで俺はプロデビューが遅れたんだ。その恨み、晴らしてやるぜ!』
……酷い逆恨みだ。2年前、僕はユウシさんをプロにするために頑張ったのに……。
ユウシさんは絶対に僕が倒す。
そうすれば、このイライラも収まるはず!
僕がゲームに意識を戻すと、後方から歩兵同士の銃撃音が届いた。
「ふざけんなよ。なんで後に敵がいるんだよ。一瞬、目を逸らしただけで突破されたなんて、ありえないでしょ! メッセージを聞く時間で、この大通りを走り抜けていったの? ……あッ!」
キルログにGameEvent11(ジェシカさん)がナイフキルされたと出現したのを見て、心の中で何かが切れた。
絶対におかしい。視野が広くて冷静なジェシカさんが、屋外戦闘でナイフの距離まで敵を接近させるはずないだろ!
「今日、一緒に楽しむって約束したのに! 台無しにすんなよ! バグ技で勝った気かよ! ふざけんな!」
良くも悪くもBoDⅤはリリース直後だから、バグが多い。
昨晩、検索したらもうバグ技の方法が攻略掲示板に載っていた。
いや、バグじゃない。プロチームも使っているなら、テクニックだ。
そっちがやるなら、こっちだって!
後方に少し下がった位置に、死んだ味方が残していった武器や弾薬が大量に転がっているから、瞬間移動の技が使用可能だ。
僕はモルヒネやRPGを拾う。
コントローラーを手早く操作し、自分の足下にある地雷の上に手榴弾を投げ、モルヒネを構える。
そして、手榴弾が爆発し、地雷に誘爆する瞬間、モルヒネを自分に刺す。
「楽しく遊ばせろよ!」
周囲の景色が炎に包まれ、僕は地雷の爆発で空高く吹き飛ばされ、一瞬で街並みを見下ろす視点に切り替わる。
普通は地雷と手榴弾のダメージで確実に2回は死ぬが、モルヒネを打った直後に無敵時間があるのか、なぜか死なない。
初めてやったけど上手くいった。地雷の爆風で高速移動するというテクニックだ。
僕のライフは残り1ポイント。
地面に落下すれば死ぬ。
映像がリアルすぎて悲鳴が出そうになるが、僕は真下を見る。急激に地上が迫ってくる。
しかし、空中にいる間にやらなければならないことがある
僕は地雷を両手に構える。
これを敵戦車の上側に叩きつけて、破壊する!




