第62話 僕は戦車に乗って無双しイキり散らかす
地下の防衛は大丈夫だろうから、作戦をフェーズ2に移行するか。ジェシカさんなら僕と同じ判断のはず!
地下は仲間に託し、僕が戦車で中央を支援する!
僕は本拠地で再出撃した。すぐにアリサも隣に出現した。やはり攻撃特化だから、罠にあっさりと引っかかっていたようだ。
周囲にはCチームの声優さん達もいる。
「僕も中央に行きます! 僕が戦車に乗って敵のヘイトを集めるので、その隙に移動してください」
「はい!」
僕は戦車乗り場に向かって走り――。
……ッ?!
なんだ。何か嫌な気配がする。
僕は咄嗟にマップ北に視線を向け――。
「みんな伏せて!」
僕は左コントローラーの姿勢変更ボタンを押して、その場に伏せた。
直後、拠点に2両あった戦車のうち1両が爆発した。近くにいた声優もふたり巻き添えになって死んだ。
間違いない。視線の片隅に見えていた違和感の正体は、RPGの煙だった!
「どこからRPGを当ててきた? 橋からはビルが邪魔して無理。敵拠点からなら、山なりに撃てば届く?」
たとえ、相手陣地が見えていなくても、射程の長い武器だったら特定の位置から特定の方向を狙えば、動いていない目標に当てることは可能だ。
BoDⅢではいくつかのマップで、自拠点から敵拠点の車両を狙撃したり迫撃砲を撃ちこんだりできたが、オンラインプレイヤーは暗黙の了解として禁じ手にした……。
リリース直後のⅤで、ランダム決定したマップなのに、そんなこと可能か?
拠点の左側にある建物の屋上から、前方に霞んで見える建物の横にある電柱から伸びた電線のちょうど真ん中を狙うと、相手陣地のヘリ出現位置に当たる……みたいな条件は、それこそ、射撃手と着弾観測者がボイスチャットしながら何百何千発と撃って見つけるものだが……。
この市街地マップがベータ版で公開されていて、研究され尽くしている?
動画配信中だから、分かりやすいバグをするとも思えないし……。
まぐれってことにしておくか!
「アリサ、全力で仕返しだ!」
「りょっけー!」
「敵は橋を越えて来る。僕は生き残った戦車で地上のごみ掃除。アリサは地下道の汚水処理。ヤツラの面をクソ塗れにしてやれ!」
「任せろ! 地底人どもをゲロ塗れにしてやるぜ! ひゃっほおおぉぉぉぉっ!」
アリサは妙に高いテンションでバギーに飛び乗ると後輪を滑らせて駆けだした。
さっき隠密行動で無口だったから、その反動か……。
僕も負けてられないな。
気合いを入れていこう。
僕は、戦車の使用を解禁する!
「M1A2エイブラムスは藍河和樹で出るぞ!」
調子に乗って、ロボットアニメ風の台詞を口にして戦車で出撃ぃっ!
ふっふっふっ……。
対人キルレート0.6のクソ雑魚の僕が、なんでたまに成績上位に入ったり、Sinさんのような変態プレイヤーと肩を並べられたりしていたのか教えてやる。
驚け。戦車搭乗時の僕のキルレートは9.5だ。
戦車キルの勲章取得数はBoDⅢ全600万プレイヤー中、2位だぞ!
オンライン対戦が過疎っていたから実際は600万人中というか60人中かもしれないけど、世界で2番めにつよつよだぞ!
戦車に乗ると味方と連携しづらいから大会では使うつもりはなかった。僕が戦車に乗るのは、ひとりで遊ぶときや、戦車と連携をとるのが上手いペッキーさんやタカユキ1129さんみたいなプレイヤーと組んだときくらいだ。
けど、プロ相手には全力を尽くすしかない。
僕はスティック操作で戦車を前進させた。敢えて中央道路のド真ん中を進み、敵からのヘイトを集める。僕が注目を浴びれば浴びるほど、味方の生存確率が上がる。
やがて前方に橋が見えた。
すげえ。まだ橋で撃ちあいしてる。さすがSinさん。歩兵だけでよくここまで持ちこたえたな!
今から援護するぞ!
「橋は越えさせない!」
僕がマップ中央の橋に戦車砲を撃ちこみ、自分の存在をアピール。敵の意識を引き寄せる。
すぐに、遠方からソ連軍の戦車が2両、主砲を撃ってきた。
よし。敵の注意がこっちを向いた。
ジェシカさんなら、敵に気づかれないように橋を離れて放送施設へ向かうはずだ。
「狙いが甘い! オレはここだ!」
ロボットアニメの台詞を連発しつつ、僕は1対2という不利な状況で、鉄橋に砲弾を撃ちこみ、敵の行動を妨害する。
「その橋は通行止めだ!」
次々と敵の増援が橋に集まってくる。
だが、戦車2両、兵員輸送車両1両、歩兵4名を倒したぞ!
相手プロだぞ!
プロ相手に無双してるぞ!
僕の戦車は何発か直撃を喰らって爆発寸前だったが、敵を足止めするという役割は果たした。いつ死んでも問題ないが、このまま目立ちながら暴れまくってやる。
敵の増援が対戦車ミサイルを撃ってきた。
「右、いや、正面か!」
普通に正面から撃たれているのは分かってるが、僕は叫んだ。
「踏み込みが甘い!」
踏み込んでも何も変わらないと思うが、もちろん叫んだ。
「前に出るから!」
敵はどっちかというと奥に籠もってる。多分、素人にキルされたくないから、慎重に行動している。
「出てこなければやられなかったのに!」
いや、出てこなくても倒すけどね。
僕は、己を鼓舞するために、叫びながら戦った。
「僕が一番、戦車を上手く使えるんだ!」
「おい、アルファワンって、十台だろ。なんで無印ダンガムを知ってんだよ」
うげ。いつの間にかバギーに乗ってやってきたA3の笑い声。
「聞こえてました?!」
ヤバい。
近くに誰もいないから、聞かれないと思って調子に乗っていた。
シリーズ伝統の仕様とはいえ、なんで戦車の中と外で会話できるの?!
恥ずかしくて、顔が熱い。




