第61話 作戦がはまり先制の一撃を喰らわせた
僕は装甲車に乗るとチームメイトを乗せて発車。
車内でみんなが配信の挨拶を始める。運転手の僕以外はやることがないし、移動中に挨拶すれば時間が節約できてちょうどいい。
地下道入り口に到着したら車両は乗り捨て、僕を先頭にして4人で地下鉄駅に降りる。
「ストップ」
僕は立ち止まり、仲間に停止命令を出す。米軍みたいにハンドサインだけで指示を出せればいいんだけど、僕達には無理。声をかけるしかない。
耳を澄ますと、硬質なブーツがコンクリートを踏む音が近づいてくるのが分かった。
敵が接近中だ。
(……やはりプロ。移動が早い)
プロの移動は迅速だ。けど、相手は僕達をBoD素人と思って油断しているはず。
昨日、初心者でも上級者と渡り合える戦術は練習してきた。
それに、昨日と違って今日は、ジェシカさんが最初から全力を出せる。
戦術眼に優れたリーダーのSinさんと、無言の突撃馬鹿Sinさんの、夢の共演だ。
相手がプロでも、一方的な展開にはならないはず!
「今!」
Aチームの男3人は一斉に閃光手榴弾を投げた。
甲高い爆音とともに画面がホワイトアウト。
投擲と同時に背を向けた僕ですら、画面が白く染まって見にくくなっているのだから、直撃を食らった敵チームは完全に視界を失っているはずだ。
投げる技量だけなら、上級者も初心者も大差がない。
手榴弾の投擲で最も重要なのは、使用タイミング。
敵は、貴重な閃光手榴弾をまさか一斉に投げてくるとは思いもしなかっただろう。
爆発物を温存したまま死ぬくらいなら、さっさと投げろ、が配信者チームの方針!
さすがにプロは判断が早く、僕達がライフルを構えるのよりも早く、何かを構えた。手榴弾か、発煙手榴弾だ。
だが、アリサがアサルトライフルで、手早く仕留めた。
そして、アサルトライフルを構えた僕も攻撃に加わる。僕とアリサは次々と敵を倒していく。
作戦はシンプルだ。FPS経験の少ないA3とA4は僕とアリサのバックアップ。
ふたりともFPSどころかVRゲームの経験も少ないんだけど、アクションゲームやMMORPGで連携することに慣れている。
後衛からの援護を快く引き受けてくれた。
「よし。作戦成功! 敵が8人も地下鉄駅に来ていたのは予想外だったけど、作戦がはまった!」
アリサが5人を、僕が3人を倒したので、Aチームをひとりも損なうことなく地下を制圧した。
凄いんじゃね?
ねえ、マジで凄いんじゃね?!
相手プロだよ。僕達が読み勝ったよ!
あ、いや、もちろん、仲間のおかげ!
「ユウシさんがいなかったのはラッキー。まあ、もしいたら、意地でも僕がフルボッコにしてやるんだけどね」
ズンッ……。ズズッ……。
地下の決着とときを同じくして遠くで爆音がし、天井の蛍光灯が明滅し、パラパラと砂埃が落ちてくる。
BチームとCチームが、橋の周辺で戦闘を始めたのだろう。
「上は味方が敵の2倍いるから、なんとかなると信じよう……。A2、行こう」
「OK」
僕とアリサは、A3とA4を置いて先に進んだ。
A3とA4は地下に残り、照明を破壊しながら、暗がりで敵を待ち伏せてもらう。
FPSに不慣れなふたりは、視界を悪くした地下に残ったほうが活躍できるはず。
初期装備しか使えないルールだから、暗視装置が使えないため、地下は非常に暗い。光源は非常灯の灯りのみだ。銃に付けるライトは使用可能だが、それは自分の位置を敵に知らせるだけだから容易には使えない。つまり、プロといえど、迂闊には地下道を進めない。
地下道はマップの南北をつなぐ重要な位置だから、無人にはできない。
1回こっきりの大技だが、いざとなれば天井を崩して、敵を生き埋めにもできる。
タイミングさえ外さなければ初心者のふたりでも敵を全滅させることが可能だ。
最悪ふたりが殺されたとしても、殺されたというキルログが出れば、僕やジェシカさんは見逃さないから、すぐフォローに入れる。僕達なら、お互いの状況を常に想像できているため、どちらがどう動くべきかも、相談なく決められる。
FPSは相手を撃ち殺す技量が重要だと思われがちだけど、あるレベルを超えてくると、操作テクよりも戦術が重要になってくる。
キルログを意識していれば味方がどこでどうやって殺されたかが分かり、敵がどこにいてどこへ向かっているのかが予想できる。
僕のキルレートは0.6で、BoDⅢプレイヤーの中では雑魚だった。
けど、ラウンド終了時の得点で上位に食いこむことはあった。なぜなら撃ちあい以外で活躍するから!
撃ちあいでは負けても、試合では勝つ!
……と、意気ごんではみたものの、さすが敵はプロ。
非常に嫌らしくて見づらい位置に、対人地雷が設置してあったらしく、僕は爆死した。




