第60話 決勝戦開始
ルールは前日と異なり、フラッグ戦だ。声優さんが周辺機器メーカーの番組にゲスト出演して、ルーレットで決定した。
2本先取の3本勝負ではなく、1発勝負だ。
なんで決勝戦なのに1発勝負なのかというと、既に勝負は始まっていて、配信者チームはもう、3ポイント負けているからだ……。
実は昨日、在日米軍やアスリートも込みで、各チーム代表による勝負があった。
米軍提案のゴム鉄砲の射的ゲーム、アスリートチーム提案のハンドボール投げ、BoDプロチーム提案のLiar's Gun(相手を騙すカードゲーム)、配信者チーム提案の早口言葉などなど、ビデオゲームだけでなく実際に体を動かす運動も交えて勝負して、配信していたらしい。
それで配信者チームはボロ負けの最下位だったらしいんだけど、この手の勝負のお約束というか、なんというか、声優さん達が『プロデューサーさ~ん。チャンスくださ~い』と甘えて、今日の決勝が1発逆転の100ポイントになったというわけで……。最初からそういう筋書きらしいけど……。
いや、まあ、つまり、当たり前なんだけど、僕がいじけて家に帰ってた午後のうちもイベントは続いていたということ。
勝負以外にも、ジェシカさんとアリサは声優さんと一緒に歌ったり、ラーメンを作るVRゲームをしたりしたらしい。見たかった……。
いけないいけない。余所事を考えるのは勝ったあとにしよう。
今はゲームに集中。
フラッグ戦は、相手陣営のどこかにある旗を拾って、自分の陣地に持ち帰れば勝ちだ。フラッグを持ち帰るという性質上、死んだら自拠点からの再出撃になる。味方近くからの復活はできない。
マップは近代的な都市。
高層ビルが建ち並び、幅の広い川が中央を北と南のエリアに分断している。全体的に斜面になっており、北側の方が高く、南側が低い。
南端に配信者チームが操作する米軍の拠点があり、北端にBoDプロチームが操作するソ連軍の拠点がある。
要所になるのは3箇所。
先ずはマップ中央やや北寄りにある鉄橋。
見晴らしが良く幅が広いので、戦車も入り乱れた混戦になる。ここを獲るとマップの広範囲に戦車砲を撃ちこめるようになる。北側に近いので、橋の奪いあいはソ連軍が有利だ。
次に川を直交する地下道。お互いの陣地付近に出入り口がある。本拠地を急襲しやすい反面、相手から見られやすいという欠点もある。また、車両を使えないため移動には時間がかかる。
最後の要所はマップ南西にある放送施設。
この施設では数分ごとに1度、味方プレイヤーのミニマップに敵の位置を表示したり、爆撃支援を要請したりできる。使用タイミングがはまれば、敵に大打撃をあげることが可能だ。
橋がソ連軍拠点に近い分、放送施設は米軍付近に設置されている。
つまり、プロチームのソ連軍が有利だけど、配信チームの米軍にも逆転のチャンスがあるマップというわけ。
ロード画面が終了し、米軍の本拠地に配信者チームの12人が出現した。
「総員整列!」
緒方シンの低く張りのある声が響くと、出撃前のざわめきは収まり、ピリッとした緊張感が生まれる。
みんな、ミニスカ軍服の指揮官の前に整列した。
「相手はBattle of Dutyのプロチーム。強敵だ。だが、こっちには勝利の女神が6人もいるんだ。勝ちを狙っていくぞ!」
「おーっ!」という男女の呼号に「きゃああぁぁっ! シン様素敵ぃっ!」という黄色い悲鳴がひとつ混じる。青葉さんがシンさんのガチ恋勢だったらしい……。
さて。本日は4人組の3小隊で行動を開始する。
Aチームは僕、アリサ、男性配信者2名。
Bチームはジェシカさんと、男性配信者3名。
Cチームは声優陣4人という構成だ。
声優達はスポンサーの意向で、和気藹々と戦争ゲームをしているところを配信する必要があるため同じチームに固まった。
本当は、僕、ジェシカさん、アリサで組んで敵本拠地を攻めたかったんだけど、そうするとBチームを指揮できる人がいなくなってしまう。そのため、僕とジェシカさんは別れる必要があった。
ジェシカさんのマネージャーさんは緒方姉妹に組んでもらいたがったし、僕もそれでいいと思ったけど、問題があった。
ジェシカさんとアリサは今までふたりでひとつのVirtual Studioを交代で使用していたため、実は姉妹だけど一緒にプレイしたことが一度もない。連携できるか、完全に未知数だった。
ということで、ジェシカさんが「緒方シンなら勝ちを狙うために、この編成にする」と主張してマネージャーさんを説得し、チーム分けが決まった。
なお、アリサはつよつよだけど、特効馬鹿なので指揮は執れない。
「全軍前進!」
ジェシカさんの合図で、全小隊が動きだす。
「アルファチーム! 僕のケツを美女の尻だだと思って、しっかりついてこい!」
僕がガラにもなく下品な大声を出すと、不思議の国のアリスみたいな格好をした兵士が、背筋をビシッと伸ばして、敬礼してきた。
「Sir! Yes sir! カズこそ、アリサのパンチラを期待できる位置に、ついてこい!」
ほら、ゲームが始まれば上機嫌。
アリサは僕の悪ノリに、同じノリの返事してくれた。
チームメイトの男性2名も「Sir! Yes sir!」と叫んでくれた。
さすが配信者。ピョンピョン跳びはねながら、僕に殴りかかってくる。
アリサも包囲網に加わり、僕は3人の小隊員にボコられ続ける。ノーダメージだからいいんだけどね。




