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第6話 始業式おわったし、さっさと帰ってゲームするぞ

 私立青海学園。

 普通の成績で行ける普通の高校だ。

 外国との異文化交流事業とか部活動とかに注力しているらしいけど、興味なし。


 教室内のうるさい雑談に背を向け、僕は窓際の席から外を眺めていた。

 名前が藍河(あいかわ)和樹(かずき)で出席番号がいつも1番になるから、新学年は窓際最前列になる確率が高くて、快適だ……。


 とはいえ、始業式も入学式の準備も終わったんだし、早く帰ってゲームしたい。

 眠気を誘う暖かさだし暇だし、机に突っ伏して眠ろうかと思っていたら、前の入り口から教師が入ってきた。


 散っていた生徒が席に着くと、教師はプリントを配りながら選択科目の説明を始める。

 英語会話の担当教師が産休になるから、代わりに新しく着任予定の教師が担当するらしい。


 英語の授業についていけなくても問題ない。

 いざとなったらSinさんに教わろう。

 あの人、ゲーム中に外国人と遭遇したら、普通に会話しているし。


 Sinさんの引っ越しが終わって次にゲームができるのはいつだろう……。

 Battle of Duty Ⅴは進学祝いってことで父さんに買ってもらえたけど、本体自体は借りるしかない。

 自分専用のバチャスタが欲しいけど……。うーん。どうしよう、という思考を遮るのは、教師の言葉に含まれた不穏な単語。


「来週の金曜日に、新入生歓迎イベントを開くからな。今から6人の班を作れ」


(えっ? 班?)


 周辺から生まれたざわめきは、あっという間に教室内を紛争地帯のように騒がしくした。


(最悪だ。ライフルしかないときに戦車と遭遇したときくらい最悪だ。爆発物がないと、戦車にダメージは与えられない! ……落ちつけ。焦って発砲しても、敵に居所を知らせるだけだ。先ずは深呼吸して、作戦を練るんだ……。体育のふたり組と違って6人組なら、人数の足りない班に混ぜてもらえるかもしれない。去年のクラスメイトを探そう)


 室内を見渡しているうちに、ふたりや3人の小グループができあがり、合流して6人グループになっていく。


(まずい。完全に出遅れた。なんでこいつら、こんなにも早く班編制ができるんだ。2年の新学期が始まったばかりなのに……!)


 教室内にできた輪のどこにも入りこめる余地がない。

 僕が班に加入できないまま時間は過ぎ、ホームルームは終了する。


「よーし、だいたい班はできたな。まだのやつは来週の火曜日までにどこかに入れてもらえ。じゃあ、今日は解散」


 教師が去るとクラスメイト達は思い思いに動き始めた。

 さっさと鞄を持って部屋を出る者や、雑談を始める者や、それぞれだ。


(父さんが仕事中の日中がチャンスなんだし、早く帰ってBoD Ⅴやりたいけど……。みんながいなくなってから帰ろう)


 昇降口や通学路でクラスメイトに遭遇したくないし。

 敵の行動を予測して正面から遭遇しないように移動することはFPSの基本だからな。


 下校後、僕は流れる動作で自室のベッドに鞄を投げ捨て、床に尻を落とし、コンビニ弁当とお茶を間近に並べ、父さんから借りた最新VRゴーグルVirtual Studio VR Ⅲを装着する。まだ激しく動くつもりはないから、充電ケーブルは繫いだままだ。


 メニュー画面はVirtual Studio VR Ⅱと似ているから、なんとなく分かる。


 ゲームソフト一覧から『Battle of DutyⅤ』を起動する。父さんに昨晩購入してもらったのですでにダウンロード済みだ。

 だが、起動すると案の定、追加アップデートのダウンロードが始まった。まだゲームは遊べない。


 僕はいったんVRゴーグルを外し、弁当を食べた。

 昼食を終えても追加ダウンロードは終わっていなかった。仕方ないから、インストール済みの将棋で遊ぶことにした。


 適当にゲームメニューを選んで難易度初心者で開始。僕の部屋にバーチャルな将棋盤が現れた。現実世界にバーチャルが重なる、複合現実というやつだ。

 ゲームのグラはリアルだし、カメラの性能が上がっていて僕の部屋は綺麗に見えているし、もう、まじで部屋に将棋盤が置かれたみたいだ……。


 多分、コントローラーは持たずに、手でコマを本物っぽく操作するのだろう。


 すっげえ。これが最新機種の性能か。僕が現実世界でバーチャルなコマを掴むと、ゲーム画面でまったくズレずにコマが動く。誤認されて隣のコマを掴むことはないし、持ち上げたり置いたりも、なんの違和感もない。凄い精度だ。


 一局終えたタイミングで、『Battle of DutyⅤ:アップデート完了』のメッセージがポップされた。

 僕は将棋アプリを終了し、BoD Ⅴを起動する。

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