第59話 ユウシさんがイキリ挑発してくる
大会2日めは配信者チーム対BoDプロチームによる決勝戦と、在日米軍チーム対アスリートチームの3位決定戦だ。
常識的に考えて僕達がプロチームに勝てるはずがない。
個人技では歯が立たないだろう。
だから、僕達は前日、しっかりと作戦を練った。
僕は前日と同じ部屋でゲーム開始のときを待つ。
「ん? ルームチャットの招待?」
GameEvent101からチャットの招待メッセージが届いた。
末尾の数字が101ってことは相手チームだ。
ユウシさんだよね、これ?
アリサもジェシカさんも機材の準備中だし、試合開始までまだ時間があるけど……。どうしよう。
かつてクランから僕を追放したリーダーで、しかも昨日ウザ絡みしてきた人が、いまさらいったいなんの用で……。
……招待を断ったら、逃げたみたいで情けないし……。
僕はあまり気は進まなかったが、招待に応じた。
ゴーグルに映る画面が、殺風景な部屋に切り替わった。
イベント用のアカウントだから装飾品はカスタムされていない。コンクリート壁丸出しの部屋だ。
その中央に、デフォルトセットから選ばれたであろう、アバターが立っている。
「よう。カズ。久しぶりだな」
この声と喋り方……。やはり、あのユウシさんか。
「あ。はい。お久しぶりです……」
「まさかとは思ったが、やはりお前がカズか」
なんでだろう。人畜無害な無個性デフォアバターなのに、人を馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いが浮かんでいるように見える。
「昨日はふざけた真似してくれたな。このクソチート野郎。育ててやった恩を忘れやがって」
「くっ……。チートじゃないです。あれは旧作の――」
「2年前」――と、ユウシさんが言葉を被せてくる。
僕に喋らせるつもりはないのだろう。
「テメエを追放した日のゲームで、お前が俺に言った言葉を覚えているか?」
……正直、覚えていない。僕にとって、ユウシさん達は過去の存在だ。
ジェシカさんやアリサと遊ぶ日々が楽しくて、もう、忘れてしまった。
「お前は相手が配信者だろうと本気で戦おうって言ったな。……いいぜ。本気でやってやるよ」
「え?」
「あの頃と違って俺はプロチーム所属だ。日本の代表だから、声優を倒した程度じゃ俺の名声は落ちない。2年前の言葉を後悔させてやる。これから始まるのはゲームじゃない。レイプだ」
「なっ……!」
「全力でお前達を叩きつぶし、配信をお通夜モードにしてやる」
僕が何か言い返そうとするよりも早くチャットは終わり、ホーム画面に切り替わる。
……結局、どういうことだ?
何が言いたかったんだ? ただの宣戦布告か?
分からない。
けど、本気宣言をされた以上、負けたときに言い訳はさせないからな!
「どうした、カズ」
え?
凄く近くからジェシカさんの声がする。
ゴーグルを外すと、ジェシカさんは僕のすぐ横に立っていた。
「様子が変だったぞ。なんか息が荒いし……。周りから画面が見えないからって、エッチな動画でも見てたのか?」
「あ……。いや……。大丈夫です。緊張して喉が乾いたかなって」
「ん、飲む?」
ジェシカさんがどこからともなくペットボトルを出して揺らした。
中身が明らかに減っているので、受け取れば間接キスだ。
気恥ずかしいし、本当に喉が渇いているわけではないので、僕は首を横に振る。
「あっ……。機材の上でこぼすと、大変だし……」
「ん。そうか。緊張しすぎるなよ。普段どおりにやれば勝てるさ」
「はい」
そうだよな。僕は他の人達と違って配信しているわけじゃないから、あまり緊張する必要はないんだ。普段どおりゲームをしよう。
ジェシカさんを見送った後、何気なくアリサの方を見ると、目があった。
けど、すぐ逸らされてしまった。
まだ、昨日のことで不機嫌なのかもしれない。秘密特訓で気まずくなっちゃったかな……。
でも、会話は少なかったものの、朝食は同じテーブルで食べてたから、そんなに怒ってないと思いたい。
……まさか、僕が朝食のことを、ビュッフェではなくバイキングと言ったのを怒っているのだろうか。オムレツ、コーンフレーク、ヨーグルト、トーストという洋風メニューだけでなく、ご飯、海苔、目玉焼き、鮭の切り身、焼きそばという和風メニューも食べたのがよくなかったのか?
だって、種類が豊富なんだから、少しずつ色々と食べたいし……。
あっ。そういえば僕がオムレツをお替りしたら、アリサに『またオムレツを食べるの?』って言われた。
まさか、食べすぎ? 玉子被りが許されない?
だって、目の前でシェフが焼いてくれるなら、頼むでしょ? チーズとかキノコとか入るんだよ?!
ホテル添えつけの浴衣を着て朝食会場に行ったのがマナー違反だったのかもしれない。アリサは可愛らしい私服だったし……。
何が駄目だったのかは分からない。
でも、アリサはゲーム中で活躍すれば、すぐに機嫌を回復してくれるはず。
「配信準備整いました。間もなくゲームが始まりますので、ゴーグルをつけてください。プライベートルームへの招待メッセージを送りますので、しばらくお待ちください」
考え事はここまでだ。スタッフの指示に従い、戦闘準備を整える。




