表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/81

第58話 僕はチームメイトの絆を深め、明日のための秘密練習をした

「オレはあっちの連中と練習してくるから、あとは頼んだ! じゃな!」


「え、あ、うっ……」


 ジェシカさんはさっさと僕を置いて、別グループの方に行ってしまった。


 なんという罰ゲーム!


 担当が逆じゃないの?

 ……あっ。

 ジェシカさんが持っていった方のコンビニ袋は、アルコールが入っている方だ!


 あっ。ああ……。そういうことか!

 部屋の面子は、男と女でも、中級者と初心者でもなく、アルコールを飲む人と飲まない人で別れているんだ!


 へたれな僕の交戦規定には、複数の女性と相対したときの行動指針が載っていないから何もできずにフリーズしてしまった。


 けど、女性陣が気を利かせてくれた。


 昼間の自己紹介で僕が途中退室していたので、改めて自己紹介をしてくれたのだ。


 驚いた。

 みんなアニメの声優だった。

 名前を聞いたけど、ひとりしか知らなかったのは申し訳ないけど……。


 というか、そのひとりが凄い。声優に詳しくない僕が、最も聞いた名前だ。

 青葉(あおば)美空(みそら)さんといって、Battle of Dutyシリーズのプレイヤーとして有名だ。SNS等でBoDシリーズ好きアピールをしていたこともあり、BoDⅣではシステムボイスを担当し、Ⅴではキャンペーンモードのヒロイン役を演じることになったほどだ。

 昼間の対戦で上手だったGameEvent01は青葉さんだった。


 女性との会話で、しかも相手が有名人だから気後れしちゃうけど、共通の話題があるなら、なんとかなるかもと油断した矢先に。


「カズさんって、あの土煙さんですよねー。私、ファンでーす」


「ふひっ」


 不意打ちを食らった僕は肺から小刻みに息を吐きだすしかなかった。

 僕は狼狽するしかないんだけど、女性達は「土煙ってなーに」と勝手に盛り上がってくれた。


「Battle of DutyⅢのオンライン対戦で――」


 やめてっ。説明、やめて!

 僕の黒歴史を掘り起こさないで!


「な、ななっ、なんで、そのことを……」


「私もⅢやってましたし、土煙さんとも何度か対戦したことあるんですよー。Ⅳのオンラインにいなかったけど、Ⅲやっていたんですね。シン様に聞きました」


「そ、そうなんですね……」


「みんなも今日はカズさんにいっぱい教えてもらお。カズさんは、一瞬で現れて一瞬で消えていくから、土煙のカズって呼ばれていたんですよ」


「わー。すごーい」


「かっこいー」


「照れてる。可愛いー」


 みんなが若い女性特有のノリで僕を褒め称え、小さく拍手してくる。

 僕はニヤけまくっていたと思う。

 頬がふわふわ浮きそうだ。


 無言だと気持ち悪がられるから、僕からも何か話そう。


「痛っ」


 いきなり、お尻に鋭い痛みが走った。

 振り返ると、いつの間にかアリサがいて、肩を強ばらせていた。


「カズの馬鹿!」


 アリサの顔は真っ赤で、眉が吊り上がっている。

 あれえ……。仲直りしたはずなのに、なんで怒ってるの?


「お尻の穴を狙うようなつま先キックはどうかと思うんだけど……」


「鉛玉じゃなかったことを感謝しな」


「あ、はい」


 もう夜だというのにアリサはなぜか、お出かけするかのような私服だった。

 青いシャツと呼ぶと怒られそうだから、ブルー・ウインド・チュニックと名づけてみた。


「きゃーっ。可愛い!」


 アリサの登場は青天の霹靂だった。女性達はアリサに群がった。


(ありがとうアリサ)


 女性4人との会話は居心地が悪かったから、解放してもらえて楽になった。


 僕の代わりにアリサはおろおろして困り果てている。

すると、離れた位置にいた酔っ払い、ではなく、ジェシカさんが大きな声で助け船を出してくれる。


「アリサ、緊張してたらもったいないぞ。その人、ピュアローズだぞ」


「はーい。戦場に咲く可憐な花、ピュアローズでーす」


 青葉さんが横向きのピースサインを頬に当てる決めポーズ。口から出た言葉は、今までの年上のお姉さんとはうって変わって、年下のどもみたいだった。


「え? え?」


 アリサが目を白黒させた。


 顔を真っ赤にしたジェシカさんが匍匐前進でやってくる。

 浴衣が乱れて、なんか胸元がエッチぃ。

 地肌が白いから、アルコールを摂取して赤らんでいるのが分かりやすい。


 というか、早ッ。

 浴衣美人が匍匐前進するというシュールな光景は一瞬で終わってしまった。


「ほらほら、アリサ。カズと一緒に、ピュアフラワーのみなさんにBoDを教えてあげなよ。このまま明日になったら、ダークヴァイオレットに負けちゃうぞ」


 アリサはもじもじしながら「う、うん……」と微かな返事をし、ジェシカさんと青葉さんを見比べた。


 ジェシカさんが間に入ったら、急に場の空気が変わった。


 声優さんが4人もいるのに、ジェシカさんがあっという間に場の中心になる。

 まあ、浴衣が乱れた酔っ払いが、女性陣に身だしなみを整えられているともいえるが。


 気まずいから僕は視線を逸らした。

 衣擦れの音と一緒に「腰、ほっそーい」とか「胸、おっきーい」とか「脚長ーい」とか聞こえてくる。

 女性の目から見てもジェシカさんは綺麗なのか。

 やはり、世界三大美人を答える設問で回答したら、正解になるな。


「わーっ! 下着、エッチー!」


 聞いてない。僕は何も聞いてない! 何も想像しない!


 それから数分後、常に半笑いのジェシカさんが会話の流れを誘導して、人見知りな僕でさえ、初対面の女性達にゲームを教えることができた。


 物怖じして口ごもりそうになると、絶妙なタイミングでジェシカさんがフォローを入れてくれるのだ。


「ほらー。エイムのコツ、教えてー。あははははっ! エイムのコツだって! こつこつやる、禁止で」


 と、まあ、こんな感じでジェシカさんの笑い沸点が低すぎて、こっちまでなんか愉快な気分になった。


 しかし、ジェシカさんってこんなにゲラゲラ笑うんだ。初めて見るな。

 というかお酒、飲むんだ。なんて考えていたら、アリサが「お家だと飲まないよ」と教えてくれた。ふたりで暮らしているっぽいし、多分、家では飲まないようにしていたのだろう。


 さて。

 青葉さんは経験者なだけあって飲みこみが早い。というか、教えることはほとんどない。

 むしろ、僕がⅢとⅤの仕様の違いを教えてもらった。


 翌日にむけて、みんなの特技を活かす作戦も立てられたし、もしかしたらプロチームといい勝負になるかもしれない。いや、勝つ可能性はある。


 プロチームの弱点は、小隊間の連携と、個人技に走りがちなところだ


 さらに秘策として、僕達はVRだからこその連携技を練習した。

 プロとまともに戦って勝てるはずがないから、作戦で勝利を狙う。


 ただ、アリサが少し不機嫌になってしまったのだけは気になる。


 ジェシカさんは「気にするな」って言っていたけど……。


 僕達が一緒に並んでゲームをする機会なんてもうないかもしれないんだ。

 だから、明日は絶対に勝ちたい。

 勝って、新型バチャスタを買う!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ