第50話 プロチームの痛烈な反撃
ボートで移動中の米兵をヘッドショットするという、まぐれだと思いたくなるような技が炸裂した。
でも、プロだから実力でやったんだろうなあ……。
オンライン人口2000万の中にはいるんだよね、こういう変人。
僕の知り合いにもいるよ、変人技量のプレイヤー。
400メートル先で走っている兵士をヘッドショットしたり、ヘリのパイロットを撃ち殺したりする、変人。
例えば、隣に座っている女の子。突砂したときの攻撃力ならプロにだって勝てるはず。
そして、今どこかで配信しているジェシカさんは、あらゆる武器を使いこなすし、プロと互角以上に戦えるはず。
手榴弾が、船着き場の小屋にいた在日米軍チーム兵をひとり倒した。
直後、複数のRPGが命中して小屋が倒壊。
プロゲーマーは敵を3キルしつつ、拠点内から敵を完全排除。
これですべての拠点がプロゲーマーチームのものになった。
得点差は65対84まで追いつきつつある。
僕は同じゲーマーとしてプロゲーマーチームの逆転に期待したけど、巻き返しは長く続かなかった。
いくらプロチームが個人技で上回っていても、総合的には在日米軍チーム軍が上だった。
たとえ突砂が米軍チームを倒したとしても、次の弾を装填する数秒間で、別の米軍チーム兵が苛烈な反撃を加える。
在日米軍チームは徹底して1対1の状況を作らずに、複数で対応している。突砂を脅威と認めた上で、対処している。
結果として、プロチームは個人技能や少数での連携が突出していても、じわじわと在日米軍チームに押されて、倒される。
在日米軍チームはあっという間に北と橋を奪い返し、さらに中央の集落に東西から圧力をかける。
たまにプロチームが連続してキルしていくが、戦況に大きな影響は出ない。
大半は、在日米軍チームの連係攻撃がプロチームに後退を強い、やがて押しつぶす。
100ポイント先取ルールで、72対100。
第1ラウンドは在日米軍チームの勝利だった。
第2ラウンドが始まり、序盤から在日米軍チームの優勢で始まる。
「プロがあまり連携とれてない感じだけど、なんでだろう。米軍の連携が上手すぎるのかな? 陣地を入れ替えても、同じ展開になる?」
序盤は第1ラウンドと同じような展開になった。
だが、20対60あたりから、状況が一変し、急にプロゲーマーチームが優勢になった。
「おっ、でかい家の陰に地雷。よく米軍チームの動きを読み切ったな。まあ、中央の通路は待ち伏せが想定されるから、小道を移動するのはセオリーと言えばセオリーか」
在日米軍チームの移動用車両は行く先々で地雷原に遭った。
「また地雷。凄い。完全に読みが的中している。攻撃が緩んだし、全拠点押さえたまま、本陣まで攻め上がれる?」
けして多くはない道路は、ほぼ通行不能状態になり、在日米軍チームから機動力を奪った。
川に沈めた地雷をRPGで起爆してボートを破壊する技も決まる。
「乗り物の動きは完全に殺したみたいだけど、歩兵の連携をなんとかしないと。おっ?」
プロチームの突砂が1対4という敗北の見えた状況ですら、一方的に撃ち勝った。
「え? あれ?」
歩兵同士の遭遇戦ではプロチームが数の不利を覆して、ことごとく撃ち勝つ。
撃ちあいになればゲーマーの方が強いのは分かるけど、いくらなんでも勝ちすぎじゃない?
僕だって運と調子がいいときは1対4で勝つときもあるけど、それは装弾数が30発とかあって6発か9発で敵を殺せるアサルトライフルを装備しているときだ。1発撃つごとにリロードするようなスナイパーライフルを装備していたら、1対多になったら、ほぼ確実に負ける。
「あれ? 今、ひとりめが撃ち殺された直後、米軍って反撃したよな?」
米軍プレイヤー3人がアサルトライフルの3点バーストを撃ち、けっこうヒットしたように見えたけど……。頭に1発と、胴体5、6発は当たっていた気がする。
「たしかに数時間遊んだ感じだと、Ⅲよりアサルトライフルが弱体化していた気がするけど……」
中継画面が切り替わり、突砂が物陰に潜む場面が一瞬だけ映った。
体力が90ある。
え? 1発しか喰らってない?
僕はまだあまりやりこんでいないけど、アサルトライフルの集弾率、そんなに悪い印象はないけど……。それに、距離によるダメージ減衰が大きすぎない?
解説者は「プロチームの調子が上がってきた」とか「在日米軍チームの戦術を見抜いた」と分析しているようだが、何かがおかしい。
まさか……。
僕はキルログを見つづけているうちに、違和感に気づいた。
「プロチームの人、バグ技を使ってるんじゃないの?」
バグ技とはゲームプログラムの隙を突き、本来なら不可能な結果を導くことだ。
ソシャゲで例えるなら、資金やアイテムが増えたり、ゲームバランスが崩壊する大ダメージを与えたりする現象がバグだ。
「プロの突砂、リロキャンしてる。リロキャンはテクニックって言い張る人がいるけど、バグだろ。バレットを連射するなよ」
リロキャンとはリロードキャンセルの略語だ。
プロの突砂が使用しているバレットM95狙撃銃はボルトアクションを採用しているため、連射はできない。
本来なら1発ごとに弾を装填しなおす必要があるのだ。
けど、プロはリロードキャンセルという技で連射している。
リロキャンはFPSの定番と言ってもいいバグ技だ。
大抵複雑な操作を要するため、テクニックだと言い張る人は多いが……。
でも僕は、現実世界で連射できない銃を連射するのはバグだと思う。
それに、地雷が多すぎるのも怪しい。
地雷の増殖バグをやってるヤツもいる?
対戦車地雷はひとり3つまでしか設置できない。
僕はすべてのキルログを記憶しているわけではないが、読みが的中しているにしても、米軍チームの移動先にことごとく地雷が設置してあるのは不自然だ。
「米軍が移動する全ての道路に置いてあるって、絶対におかしい。え、それとも、Ⅴって補給すれば4つ以上の地雷も設置できるの? 4つ以上設置したら最初のが消えるんじゃないの? 地雷と弾薬を同時に装備できる?」
僕はスマホで攻略Wikiを調べみた。設置できる地雷は3つまでで、4つめからは消えると書いてある。
「バグじゃなくて、本当にプロゲーマーの読みが米軍に勝ってるの? 僕がバグだって決めつけているだけで、上手すぎるだけなの?」
僕の困惑が伝わったはずもないが、米軍チームの動きが鈍りだす。
さながら、泳ぎ疲れた漂流者のようだ。
一方、プロゲーマーチームは水を得た魚、いや、サメだ。
混乱する漂流者の間近に突然現れては、その横っ腹を食いちぎっていく。




