第49話 BoDプロゲーマーチームVS在日米軍チーム開始
在日米軍チームとBoDのプロゲーマーチームが対戦する。
マップは熱帯地方の密林に囲まれた町。
大きな葉っぱの樹木が並ぶ隙間に、土造の家屋がぽつぽつと点在している。
米軍チームの操作する兵員輸送車両が荒れた道路の泥水を跳ねながら走る。
車両が集落に到達すると兵士達が降り、周囲に素早く銃口を巡らせた。
全員が別の方向を見て、死角をなくしている。
各々が警戒すべき範囲を事前に取り決めていたようだ。
ヤバい。1発の弾丸も撃っていないのに、もう既につよつよ感が半端ない……。
ゲーム開始直後に迅速に行動しているので、この拠点Cで在日米軍チームがプロチームと遭遇する可能性はない。
しかし、米軍プレイヤーには油断が一切なかった。
中継モニターが切り替わりプレイヤーの様子が映る。
米軍チームは全員がゲームグラフィックそっくりの野戦服を着ているし、銃型コントローラーは銃鉄色に塗装されている。
完全に、ホンモノだ。
僕は気づいたら椅子から腰を上げていたので、息を吐きながら座りなおす。
「何これ、ただ拠点を制圧しただけなのにヤバいくらい上手い気がする。CPU操作の兵士と同じ動きしてる。っていうか、ゲームが実際に兵士の動きを再現しているんだから、軍人は動きが同じで当然なの? あっ!」
集落からやや外れた、鬱蒼とした林の中で銃撃戦が始まった。
「さすがにゲームだから、撃ちあいならプロゲーマーの方が強いと思うけど……」
プロゲーマーチームが張る弾幕を前にして、米軍の兵士が身動き取れないでいる。
と思ったら、別の小隊がプロゲーマーチームの横に回りこんでいた。
「うわ。すげ……。皆が好き勝手に動くオンライン対戦じゃ、絶対に見ることのない連携だ……。4人組の小隊が2つ、完璧に連携して動いている。……あれ? 米軍チームってボイスチャット使ってない? 相手チームに行動がバレないようにしているんだろうけど、なんで無言なのに連携できてるの?」
しばらく観戦していると、米兵が拳を振り、それから掌を仲間に向けているのが見えた。
その動きにあわせて米軍の一小隊が前進し、停止する。
そして、その間、別の小隊が敵に向けて射撃。
「え、何これ。まさか、ハンドサインで連携しているの?」
Virtual Studio VR Ⅲの前面センサーなら指1本1本の動きまで再現できるとはいえ、まさか、FPSで活用するプレイヤーがいるとは思いもしなかった。
アメリカンキッズがキルカメラに向かって中指を立てて敵プレイヤーを挑発するだけのクソ機能だと思っていた……。
ボイスチャットで単純な方向の指示さえ失敗していた僕とアリサが、在日米軍チームみたいにハンドサインでやりとりができるだろうか。
そっと隣の様子をうかがうと、アリサは試合にあまり興味がないらしく欠伸をしている。
試合に意識を戻すと映像が切り替わって、解説者の芸人が映った。
『おっ。在日米軍チームの陣形が乱れていますね。バラバラに動いていますよ。これではプロゲーマーチームに各個撃破されるでしょう』
駄目だ、こいつ、何も分かってない。
仲間と間隔を開けるのは、爆発物による一度の攻撃で全滅しないようにしているからだ。また、等間隔に並ぶよりも敵に見つかりにくいという利点もある。
在日米軍チームは一見バラバラに見えるけど、全員が同じ目標に向かっている。
2つの小隊が交互に射撃と移動を繰り返して、火線が途切れることなく、有利な位置に移動している。
しかも、ちゃんとゲームシステムを理解しているらしく、小隊内の武器がばらけている。近距離用、中距離用、遠距離用、制圧射撃用、必要な武器が揃っている。
「やっべ、勝てないって、こんなの。小隊内での役割分担が完璧すぎる。しかも、ひきつける小隊と、回りこむ小隊が完璧に連携している。やっぱホンモノは違う……。立ち回りは勝てそうにもないんだけど……」
一応、僕だってBoDⅢを何年も遊んでいたんだから、いくら相手が軍人だろうと、1対1なら簡単には負けないつもりだ。撃ちあいになれば勝てる……と思う。
けど、12対12だと手も足も出ないはずだ。
おそらく、1対1で戦う状況を作れない。
常に1対多を強いられるはずだ。
僕がクランに所属していたとき、当時のリーダーがエイムつよつよの民だったけど『多対1の状況を作れ。必ず敵より多い状態で撃ちあいに持ちこめ』とよく言っていた。
だけど、ただのゲーマーにすぎない僕達は、それを徹底することはできなかった……。
在日米軍チームが2つの拠点を制圧しているので、得点は72対11と大きく開く。
「無理に3つめの旗を獲りに行かず、確実に2つを護っている……。指揮官がきちんと命令を出して、部隊が纏まっているんだ。……まさか、BoDのプロチームがこうも一方的に追いこまれるなんて……」
普段のオンライン対戦だと、とにかく全員が最前線に向かって走るから、制圧済みの拠点はがら空きになることが多い。それはそれで、戦況が膠着せずに、常に全方位から射撃されるスリルはあるから、ゲームとしては面白いとも言えるけど……。
ただ、今日みたいに勝敗が重要視される場面ではやはり、チームでは戦術を共有して、しっかりと要所を護るべきだろう。
芸能人が「おおっ」という驚愕の声を上げ、映像がプロゲーマーのゴーグル映像に切り替わった。
移動が止まり、景色が12倍に拡大。狙撃銃のスコープを覗きこんだのだ。前方にスモークが炊かれているため、画面は灰色に染まっている。
だが一瞬、画面中央やや右に敵兵士の頭部が映る。
ズドッと発射音が響き、プレイヤーは着弾を観測せず、即座に木の陰に身を潜めた。
キルログには狙撃銃で敵を倒したと表示された。
狙撃手は、敵兵士がどれだけ移動するか未来位置を予測し、さらに弾が落下する高さも考慮して射撃し、当てたのだ。
「あっ、この狙撃兵、偏差射撃が上手い。スモークで視界が悪いのに当てた。さすがプロ、凄え……」
狙撃兵が次々と在日米軍チームを倒していく。
「この人、さっきまでは密林に隠れていたのかな? 戦況が不利になって、前線に出てきたのか。あ、また当てた」
狙撃兵が橋の上にいた在日米軍チームを掃討すると、僅かだが戦況に変化が現れる。
遮蔽物の少ない橋の上にプロふたりが防弾盾を構え、拠点を制圧開始。
「さすがプロ。やっぱり上手い。この狙撃兵、アリサほど前線には出てこないけど突砂か。前衛と歩調をあわせてるし、少し離れた位置から援護しているマシンガンも上手いな。この4人組、あまり旗に絡んでいないけど、地味にいい味だしてる。連携完璧だ……」
序盤では一方的に戦死していたプロ陣営が、徐々に押し返し始めた。
「飛び移れる屋根や、身体を隠せる茂みを知ってるって感じだなあ……。僕もあとで攻略サイトで調べておかないと。テクニックだけでなく知識でも差が付いていると、勝ち目ないぞ……」
狙撃兵が参戦してからは、プロゲーマーチームがマップ北の橋に続き、中央の集落を確保し続けて優勢に立った。
3つめの拠点、川沿いの船着き場を巡って一進一退。
個人技能はプロチームが勝っているように見える。
米兵は動きが慎重だ。おそらく本物の軍人だからこそ、現実世界で撃たれたら死ぬことを前提とした行動になるのだろう。
一方のプロチームは体力ゲージが尽きなければ撃たれてもよいからか、動きが大胆だ。多分、武器の威力が減衰する距離を見切っていて、撃たれても死なないときは、堂々と姿を晒している。
両チームとも明らかに配信者チームやアスリートチームよりも強い……。




