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第48話 ビル脱出ゲームに挑戦し、僕はアリサのお尻を触ってしまい、怒られる

 他の人が先に滑っていく様子を見ながら待つこと数分、アリサの順番になった。


 スタッフの大柄なお兄さんがやってくる。


「はい。VRゴーグル着けてくださいね。ふたりで遊びに来たの?」


 アリサは大柄な男性を怖がったのか、僕の後ろに隠れてしまう。


 そして「よし、じゃあ、ふたりで一緒に掴まって」と言われながら誘導され、僕とアリサは気づいたらふたりでサンドバッグを挟んで抱きあうことになってしまった。


「ほらほら、君、彼女の背中に手を回して。強く抱き寄せて」


 ええっ。か、彼女。

 ただ単に代名詞として「この女の子」という意味で言ったんだろうけど、僕は別の意味を想像してしまった。


 まさか、お兄さんには僕達がカップルのように見えたのだろうか。


 お兄さんが僕やアリサの腕や足の位置を微調整し「うん」と頷いた。


 そして急に、お兄さんのスイッチが切り替わる。

 お兄さんは眉をひそめ、うつむいて息を荒くする。


「くっ……。ビルの爆破まで残り10秒……。俺を置いて先に行け……。あとは、任せたぞ!」


「え、あ、はいっ」


「カウントダウン開始……。じゅうびょおおおっ!」


 お兄さんはカウントダウンすると見せかけていきなり僕の背中を押した。


「ええっ?!」


 滑りだすサンドバッグ。

 足が宙に浮き、反射的にふとももに力が入る。


「きゃああああああっ!」


 アリサがガチめの悲鳴をあげている。

 情けないところを見せたくない僕は歯をぐっと食いしばって我慢。


 思っていたよりもかなり速い。

 というか、グラがリアルすぎてマジで怖い!

 実写とりこみでしょ、これ!

 映像だけでなく、振動や風も感じるから、本当に夜の街を飛んでいるかのようだ。


「や、ヤバい」


 掴まっているだけだから楽勝だと思っていたのに、自分の体重をやけに重く感じる。


 僕の手はアリサの背中に回してあるからあまり力を入れるわけにもいかないし、身体がずり下がっていく。


 重力にあらがえず、僕の身体はずるずると落ちていき、なんとか踏ん張ろうと、腕の位置を変えて掴まりなおす。


「きゃっ。カズ! お尻!」


「えっ? ご、ごめっ。わああっ!」


 謝りながら手を離してしまい、僕は落ちてしまった。


「わああああああああああああああっ!」


 死ぬ!

 こんな高さか落ちたら絶対、死ぬ!


 景色が一瞬で上方へ流れていき、ボフンッと背中に柔らかい感触。


「ああああっ! あ……」


 目の前に『脱出失敗』という巨大な文字が現れて、ようやくVRの体験ゲームだったことを思いだす。

 当たり前だけど高層ビルから落下したわけではなく、網の上に落ちただけだ。

 いや、凄いよ、これ、本当に死ぬかと思った。

 VRゲーで高いところから飛び降りたことは何度もあるけど、実際に体が動いていると臨場感が段違いだった……。


 叫んじゃって恥ずかしいし、途中での脱落が悔しい。


 気恥ずかしさを覚えつつ、ゴール地点まで行ってアリサと合流。


「カズのエッチ、馬鹿、変態。お尻触った!」


 散々罵倒された。不本意だが触ったのは事実だから頭を下げるしかない。

 アリサはゴールまで行ったから、スナック菓子を貰っていた。


「ごめん」


「……面白いこと言ったら許す」


「え?」


 面白いこと? 素人に無茶振りしないでよ!

 えーっと、えーっと……。そうだ!

 よし。近くでこっちを見ている人はいない。やるなら今だ。


 僕は片手でこつんと自分の頭を叩き、あっかんべーをする。


「ちゅっ! お尻触っちゃって、ごーめーん!」


 ど、どうだ。僕達が出会う前に流行っていた歌だからちょっと古いけど、VTuberなら、この歌を知っているはず……!


「……え?」


 だ、駄目かぁ~~っ!

 今時の若い子には通じないか~~っ!

 だったら、えーっと、えーっと……。


「謝る時間で、なにしようっ。ゆるして、ゆるして! ゆるして、ゆるして!」


 僕は両手をグルグルと回す。


「え?」


 VTuber発祥のダンスで少し前に流行ったらしいんだけど、これも駄目か……!


 次のネタを考えていたら、スマートフォンのアラームが鳴った。


「あ、1時20分。プロチームと米軍の試合が始まるから見に行きたいんだけど……」


 やや沈黙が続いてから「……行く」と承諾をもらえたので、会場に向かう。


 午前中に試合をした部屋の隣が関係者用の観戦部屋だった。


 座席は20くらいあり、先客は3名だけだった。


 部屋の前方には60インチくらいの大きいテレビが置いてあり、ゲーマーとして有名な芸能人と、配信者チームにいた男性プレイヤーが試合の見所を説明している。


 僕は陰キャらしく最後尾の椅子に座った。

 アリサがぴったりと隣に座ってくるから、緊張した僕は何か話しかけないといけないのではという義務感にかられた。


「日本国内でもけっこうFPSが売れてきているし、もっと人気が出るといいよね」


「芋やキャンパーが増えるから、やだ」


 身も蓋もない返事だった。


 たしかに、eスポーツやVRゲームが普及したおかげでカジュアル層も増えたけど、その分悪質プレイヤーも増えた。

 暴言を吐いたりチートをしたり味方を攻撃したり、3人チームのルールで単独行動したり……。集団戦で敵拠点を攻めずに芋ったり、味方拠点を護らなかったり、根本的にゲームルールを理解できていないプレイヤーも多い。


 前、僕が『最近マナー違反が増えましたよね』って言ったら、FPS老人会のベテランプレイヤーに『黙れ小僧』って笑われたっけ。ベテラン曰く『プレイヤーの高齢化に加えてゲーム機の高額化により大人の比率が増えて、昔よりオンラインの治安が良くなった』らしい。

 VRになる前のBoDでは、開幕と同時に地底から味方にレイプされてゲーム自体が成立しないのがあたりまえだったらしいんだけど、昔の治安、どうなっていたんだよ……。


 お。余計なことを考えるのはここまでだ。

 そろそろ試合が始まる。

 明日のために少しでも手の内を見ておかないと。

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