第47話 アリサの胸に着いたクリームを拭き取ることになる。めちゃくちゃ緊張する……
「Hey Man!」
「(BoDⅢの日本人兵のような変な発音で)あ、どうしたぁ?」
「(BoDⅢの米兵のような流暢な英語で)I'm reloading. Cover me」
「(BoDⅢの日本人兵のような変な発音で)なんだってぇ?」
アリサの平らな胸がツンと突きだされた。
右手にジュース左手にクレープで両手がふさがっているから、服に付いてしまったクリームを自分では拭き取れないのだろう。
「あ……。ハンカチ持ってきてない……」
「アリサの使っていいよ」
ファッキン、シット。
ハンカチを取りだすためにはアリサのポケットをまさぐることになる。
お尻かふとももか、どちらにせよ、アリサの身体を触ってしまう。
というか、スカートってポケットが有るものなのか?
女子の服って、どこにポケットが有るんだ?
常識的に考えて、ふとももの付け根か、お尻だよな……。
(意識するな。普通にハンカチを取りだすだけだから)
悩んでいたらアリサが「んー」と腰をひねってポシェットをアピール。
あ、あー。ポシェットにハンカチが入っているのか。
よし。
女の子の下半身は触らずに済んだぞ。
でも、クリームを拭き取るためとはいえ、たとえ間接的にでも女の子の胸に触れるのは、大丈夫なのか。
だが、早く拭き取らなければ、染みになるのも事実だ。
童話から出てきたかのようなおしゃれ服に染みを残してしまうのは忍びない。
「ハイヤー、ハイヤー!」
金塊に爆薬をセットしたらどこからともなく聞こえてくる謎の言葉でアリサが急かしてくる。言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い急かされてる。
焦りつつも僕は「油谷さんッ!」詳細は知らないが、FPSの空耳から生まれたとされる言葉を叫んだ。他に『坂田晴美さん』などがいるらしいが、まったく別の意味の言葉の空耳らしい。FPS老人会を名乗るプレイヤーが、たまに言っているけど、なんのことかよく分からないが、僕もなんとなく真似している。
僕は4つ折りにしてあったハンカチを、さらに縦に2回折りたたんで棒状にし、手がアリサの胸に触れないように、ハンカチの端でそっとクリームを拭き取り始める。
「ドンッ、ムーブ……!」
アリサのちっちゃな全身がビクッと震える。
「んっ……」
何、今の声!
んっ……って何?!
特に意味ないよね?
単なる咳払いだよね?!
僕はそっとハンカチを動かす。
くっ……。まるで、爆弾を解体しているかのような緊張感だ。
指先が僅かにでも震えて、変なところを刺激してしまったら危険な事態に陥る。
周囲の視線が怖い。
いや、こぼした食べ物を拭き取っているだけなんだ。
何もやましくない。
ほほえましい光景だ。
指がプルプル震えてきたが、なんとかクリームを拭き取ることに成功した。
「Good job. Good job!」
上機嫌のアリサはご褒美とばかりにクレープを突き出してくる。
「兵士よ、受けとれ!」
「ありがとう……」
包み紙の底に残った最後の皮だけを押しつけられたような気が……。
どうせならクリームがある部分を食べたかった。
しばらくして甘い食べ物の一画が終わり、メロンパンやドリンクの販売車や、イカ焼きや焼きそばなどの屋台が並びだす。
香ばしい醬油やソースの香りが漂ってくると、僕のお腹が鳴ってしまった。
音が聞こえたのか、先を行くアリサが振り返り、スカートをふわりと膨らませる。
「ねえ、カズ。焼きそば、好きなの?」
「うん」
「アリサね、お料理上手だよ。焼きそば作れるよ!」
「うん?」
あれ、焼きそばを買って食べようという会話の流れじゃないの?
「アリサ、ラーメンも作れるよ。大きいのも小さいのもできるよ」
大きい? 小さい?
ラーメンの大小って何だ?
大盛り小盛り?
……まさか、カップ麺のこと?
「……もしかして、うどんや蕎麦も作れる?」
「うん! 作れるよ。こんどカズにも作ってあげよっか?」
ごめん、アリサ、その料理、僕も得意だよ。
張り合っても仕方ないけど、一応自己主張しておくか。
「僕はチャーハンやピザが作れるよ」
「えへへ。アリサも作れるよ! ナンとかホットドッグも得意だよ!」
「カレーも得意でしょ?」
「うん!」
笑顔がまぶしくて直視できない。
どうするんですか、ジェシカさん。
アリサがインスタント食品を温めたりお湯を入れたりするだけの行為を、料理だと思ってますよ。食事環境を改善すべきですよ。
そういや、Sinさんとボイチャしているとき『ウーパー来た』的なことは聞いたことあるけど『飯を作るから落ちる』的なこと、聞いたことない気が……。
少し歩くと食べ物の並ぶ区画が終わり、アトラクションが並ぶ一画になった。
「ねえ、カズ。これ、なんて書いてあるの?」
「うん?」
アリサが興味を持ったのは、50メートルくらいのロープが張ってあって、つり下げてあるサンドバッグみたいなのに捕まって反対側に滑る遊具のようだ。なんかこういうのテレビで見たことあるぞ。
おそらく、この会場の中庭にもともとちょっとした自然公園的な遊具があって、それを利用している。
「えっと……。君は爆発するビルの屋上から脱出できるか。VRゴーグルを装着して映画のような迫力を楽しめます……だってさ」
「楽しそう! やりたい!」
「プレイヤーはスパイになりきって潜入先の高層ビルから脱出するらしい。遠くまで行けるほど得点が高いんだってさ。向こうまで渡りきったら、景品のお菓子」
「やる!」
順番待ちの行列は5人くらいだし、特に断る理由もないので列に並んだ。
「どっちが遠くに行けるか勝負ね!」
「あ、うん」
まあ、普通に腕力も体力も僕の方が強いはずだし、勝負には勝つだろう。
向こうまで渡りきって景品のお菓子を貰ったら、アリサにあげよう。




