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第40話 敵の反撃に遭い、僕はダウンする

「カズ、右!」


「えっ?」


 右側を見るが、何もない。

 外国のコテージだから玄関は広いけど、敵が隠れ潜んでいるようには見えない。


 ズガンッ!


 背後から発砲音がし、視界とコントローラが振動。

 ダメージを負った演出で、画面が赤く汚れる。

 近距離ショットガンだ!

 散弾のすべてが当たったわけではないようだけど、一撃でライフがほとんど削られた。


 僕は咄嗟に、ショットガンを喰らっても生き残ったときの言葉「散弾ではなあ!」を叫んだ。元ネタはよく分からないけど、オンラインフレンドがよく言っている。多分、近くにショットガン装備の敵がいることを知らせるための台詞だろう。


 振り返ろうとすれば、その間に殺されるから、僕は外に向かってダッシュ。

 僕を撃った敵は、アリサが仕留めてくれると信じるしかない。


 外に飛びだした。これで敵からは僕が見えないはず。

 画面は真っ赤を通り越して、灰色になりつつある。

 すっげえ。歩くのが本当につらい。やっぱ気のせいじゃない。ゲームの状況にあわせて、足下のローラーが重くなっているんだ。

 僕はよろよろと動き、コテージの脇にある、薪の貯蔵小屋に身を潜めた。

 このまま体力が回復するまで、しばらく大人しくしていよう。


 すぐにアリサがやってきた。


「カズの馬鹿! 右って言ったのに!」


「え、だから、さっき右を」


「カズ左見てた!」


「……あっ!」


 アリサから見て右側、つまり、僕にしてみれば、左側なのだ。

 ……ん?

 でも、僕とアリサ、同じ方向に進んでいたよね?

 アリサが右と左を間違えたんじゃないの?

 そんな気がするけど、言い間違いだろうし、いったん指摘しないでおくか。


「ごめん。ちょっと焦ってた」


「待って。地下から敵がいっぱい湧いてきてるよ」


「あっ――」


 足下に何かが転がってきた。手榴弾だ。

 このままだと確実に死ぬ。体力の尽きている僕は死んでも構わないが、アリサだけは護らないと!

 そう思った瞬間、トレッドミル床コントローラーの仕様や、Battle of Duty Ⅴのシステムでそんなことが可能なのかは分からないが、僕は手榴弾の上に胸から飛び乗っていた。

 自分の体を盾にして爆発被害を最小限に――!

 破裂音とともに爆発の演出が画面を埋め尽くし暗転。

 僕の操作する兵士はダウンした。


「ごめん。死んだ」


 軽傷ダウンの場合や、遺言スキルがあるときなら会話ができるんだけど、今回は爆発物でダウンしたから、もうアリサとは会話ができない。

 突撃馬鹿のアリサが救急キットを持っているはずがないから、僕は助からないんだろうな……。

 兵士の荒い呼吸のリズムにあわせるかのように、画面は暗く染まっていく。


 そして、僕の操作する兵士は死亡した。


 それはそうと、リアルの僕は立ったままだ。着ているジャケットが支柱とくっついているから倒れることは不可能なんだけど、身を乗りだす動きは再現できるっぽいな。


 さて。同じ小隊に所属しているアリサが生き残っていれば、すぐ背後から再出撃が可能になる。


 拠点Aを制圧したいから、できればアリサの背後で復活したい。

 アリサにはなんとしても30秒間、生き延びてもらわなければ。


 1秒でも早く復活したくてボタンを連打するが、再出撃までのカウントダウンは、ゆっくり進む。


 ゴーグルをずらして隣を見ると、アリサがせわしなく小さな身体を動かしている。


 どうやらまだ生きている。


 ライフルコントローラーを振り回している様子から察するに、さすがにナイフキルは諦めたらしい。

 アリサは走ったかと思えば、急に動きをとめ、綺麗な射撃体勢を取る。

 停止するのは一瞬だ。

 再び、素早く身体を動かす。

 1メートルもあるライフル型コントローラーをまるで苦にしていない。

 まるで、バトンを使った新体操の演技を見ているみたいだ。


「うわ。すげ……。(とつ)ってクイックヘッショするようなプレイヤーは、リアルでも機敏に動いてるんだ」


 見とれている間に30秒が経過したので、僕はアリサの背後に再出撃する。

 コテージの2階にいたアリサは傷だらけになりつつも、耐えきっていた。

 さっそくアリサのライフを回復させるために弁当箱(救急キット)を投げる。

 突撃馬鹿のアリサと違って、僕はちゃんと、周りの状況にあわせて装備を変えるからね!


「お待たせ。復活した!」


「Fucking vehicle!」


 アリサの警告だけでは意味が分からなかったが、窓から外を見たら、コテージの手前に兵員輸送車両が突っこんでくるのが見えた。

 輸送車から降りた兵士は即座に、窓の僕に気づき、手榴弾を構えた。


「あー。無理無理。その位置から届かな――うわっ!」


 ヒュンッ!


 僕の操作する兵士の顔面横をもの凄いスピードで何かが飛んでいった。

 ドンッと、背後から硬いものが天井か壁に激突した音。


 振り返って見下ろせば、間違いなく室内に手榴弾が転がっている。

 すっげえ! BoDⅢのオンラインで、こんなの一度も見たことねえ!


「アリサ、グレネード!」


 アリサに警告し、僕は隣の部屋に飛びこむ。

 爆発音とともに画面が揺れたがキルログは出てこないので、アリサも無事だろう。


 というか、やべえ、移動した先の部屋、銃がいっぱい落ちている。

 BoDでは時間経過により死体は消えるけど、装備品はしばらく残る。つまり、これ、全部アリサがさっき倒した敵の装備品だ……。

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