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第27話 いつだって頼れる相棒が助けてくれる

 不良成人に囲まれて絶体絶命――って思ったんだけど、つくづく実感する。

 頼れる相棒は、必ず危機に駆けつけてくれる。


「はーい。こんにちは」


 廊下の奥から、ジェシカさんがスマートフォンを手にしながらやってきた。サングラスをしており、普段より声が高い。


 アリサが大人しくなったから、抱きついたままだった僕は彼女を解放する。

 見ると、いつの間にかアリサもスマホを持っている。


 そ、そういうことか……。

 そうだよな。アリサだっていくらなんでも、考えなしに相手を挑発しないよな。

 ちゃんと助けを呼んでいたんだ。あの挑発は時間稼ぎだったんだ。


 ジェシカさんは全身に注目を浴びながら、堂々と闊歩する。


 誰も動けない。

 ジェシカさんは、ただ現れただけで、場の主役になってしまった。


 そして、申し訳ないことに、ジェシカさんばかり見ていて気づかなかったんだけど、マネージャーさんもいる。


 ジェシカさんは僕の傍らで身を低くすると、耳元に囁いてくる。


「ケツは無事か? 『Kazu fucking now』ってメールが着たときは何事かと思ったぞ」


「えっと……」


 女性とはいえ大人が2人も来たし、マネージャーさんがスタッフ証を首から提げている。男達はこれ以上もめるのはまずいと判断したらしく、背を向け去っていく。


 リーダーが去ると、他の男達は不満げだったが、何度か振り返りながら後に続く。

 トサカの生えた細い男だけ残ったが、犬のように目つきの鋭い男が「ケンジ、行くぞ。ユウシさんに迷惑をかけるな」と言うと、しぶしぶトサカ男も背を見せた。


 ……ケンジ、ユウシ?

 なんか僕が昔所属していたクランに同じ名前の人がいたけど、偶然だよね……?


 危機は去った……。

 僕はジェシカさんが差し伸べてくれた手に、軽く緊張しつつも掴まる。


「せっかくオレみたいな美人が来たのに『俺達と楽しいことしようぜ』っていうお約束にならなかったな。なあ? 大丈夫?」


「あ、はい」


 ジェシカさんがふらつく僕に気を遣ってくれたらしく、腰に手を回して支えてくれる。

 というわけで密着してしまったから、ドキドキしちゃって、別の意味で大丈夫じゃなくなるかも。


「ほら。みんな出てきたし、ついていくぞ」


「だ、大丈夫です」


 密着が恥ずかしい僕は無事をアピールする。


「そっか」


 ジェシカさんは僕を解放すると、アリサの手を引いて歩きだした。


 僕はふたりの後についていくが、マネージャーさんと並ぶことになり、ちょっと気まずい。


「途中からですが、先程の様子は動画に撮ってあります。手を繋いで歩きましょう」


 ……?


 マネージャーさんの発言の前半と後半が繋がらない気が。

 手を差しだされた。僕の体調を心配してくれている?


 別に僕はふらついていない。普通に歩けている。さっきのは痛みというより恐怖で体から力が抜けた感じだったし。


「……? どうぞ?」


 別に、マネージャーさんはハンカチか何かを持っているわけではないから、この「どうぞ」は僕に何かを渡そうとしているわけではない。

 手の角度的にも、やはり、握手を求めている。


 え? 前のふたりみたいに、手を繋いで歩くの?

 社会人はそういうものなの?


 どうしようと思っていると、どこからともなくざわめきが聞こえてきた。

 僕はマネージャーさんから意識を外し周囲をキョロキョロして、握手を曖昧にした。


「イベント参加者が行列を作っているんですよ。その声です」


「あ、はい」


 ビル壁面の窓から外を見下ろすと、イベントホール周辺はいつの間にか人で賑わっていた。


「迷子になるといけません。どうぞ」


「あ、はい……」


 やはり、マネージャーさんが手を差し伸べてくる。

 なんか違うような気もするけど、僕はマネージャーさんの手を取った。

 そんなに複雑な構造の建物ではない気がするし、すぐ前にジェシカさんとアリサがいるから見落とす距離でもないと思うんだけど……。


「はぁぁ……。DKと握手……。若返るぅ~」


 マネージャーさんは僕から思いっきり顔を背けて、小声でなんか言っている。

 そして、ジェシカさん達が右に曲がっていったのに、余所見している彼女は直進し続けようとする。


「あ、あの。みなさん、曲がりました」


「は、はい! そうですね!」


 マネージャーさんはびくっとして、右に進路を変える。

 まさか、「僕が迷子になる」ことを心配したのではなく、「自分が迷子になる」のを防ぐために、僕と手を繋いだの?!

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