第24話 敵チームがチートしている? 僕達は発狂した
死亡した敵が復活する場所は、ランダムだとは思うけど、僕達から最も遠い位置になる可能性が高い……はず。
つまり、廃工場の対角線上だ。
「相手が怒って一直線に来ているなら」
「そろそろ、ズドンだね。いひひひっ!」
僕達が反対側に移動し終えるのと同時に、キルログが表示された。
アリサの設置しておいたクレイモアが敵を吹っ飛ばしたのだ。
ゲーム音は聞こえないけど、興奮したアリサが脚を動かしてソファをドコドコ蹴っている音は聞こえる。
「ざまあ。僕達が本気を出せば、簡単に負けるはずないっての。アリサ、ここにもトラップしかけておいて」
「うん。たまたま、たまたま、たまったま」
リズミカルな言葉の意味が「偶々、弾丸、溜まった」だって分かっちゃうの、不思議だよなあ。
さっき倒した敵の弾を拾ったから残弾たっぷりという意味ね。
さて。敵はどこに来る?
見た感じだと敵の気配はない。
「足音、聞こえますか?」
「聞こえる。近づいてくる」
「なるほど。敵は警戒していないようですね。予想どおり、怒り心頭ってところかな」
僕は敵の出現予想位置に銃口を向け、構える。
敵が見えてから狙うんじゃない。
あらかじめ敵が現れる位置を予想して狙っておくのが、FPSの基本。
さらに、狙い定めた銃口とは別に、視線だけは動かして周囲の索敵を欠かさないのが、VRFPSの基本。
「来た! 徒競走は手をつないでゴールって習わなかったのか?」
僕はサブマシンガンを発砲。最初に現れた敵をヘッドショットで仕留める。
一斉に出てくればいいのに敵はタイミングをずらして出てくるから、現れた順に各個撃破のチャンス!
さすが敵の死体から拾ったつよつよ武器。集弾率が良く、狙った位置に弾が飛ぶからめっちゃヘッドショットしやすい。
隠れようとしていたふたり目の胴体にも数発食らわせる。さすがに水平方向に走る相手にはヘッショを決められない。
けど、僕が削った敵をアリサが乱射でトドメを刺した。
「悪い子さんは、ピュアローズがお仕おきでーす!」
アリサは女児向けアニメの台詞を真似して、上機嫌。ゴツい兵士が肘を曲げて、片脚立ちで可愛い決めポーズをしているのは不気味だ……。
その後、台本があるかのように有利な展開が続く。
僕やアリサも何度か死亡するが、敵を倒す方が多い。
狭いマップだから倒した敵の武器を拾いやすく、使用可能な武器の差があまりハンデになっていないのが大きいのだろう。
累計50キルした方が勝利というルールで2対25という絶望的な点差から始まり、17対33と差は縮まった。
このまま逆転してやると意気ごんでいたら、異変が生じた。
「あれっ?」
「ん?」
僕とアリサはほぼ同時に、声を漏らした。
「NS2000って、20メートルくらいから胴体1発? Ⅴってシャッガンの威力減衰がない?」
「ねえ、カズ。グレの爆風ダメージがやけに広くない? 判定が甘くてコンテナ貫通してる?」
「うん……。あれ。近距離でM16の3点バースト2回当てて、ヘッショ3発はあったと思うけど倒せなかった。アサルトが弱体化したにしても酷くない?」
「グリップのカスタムとかで威力が落ちてる武器を拾ったんじゃないの?」
「そうかな?」
「あっ! 伏せたのにナイフ1撃で殺された……!」
あっれえ。なんか違和感が出てきた。
や、僕達が何を訝しんでいるのかっていうと、要するに「敵の攻撃が強くね?」「手応えがあったのに、死ななくね?」だ。
いや、でも、僕達はⅤを始めたばかりの初心者だから武器の強弱に違和感があっても仕方ない。ゲームバランスが調整されたのだろう。
「ま、いっか。すぐに逆転だし」
「うん」
……というやりとりがあってから僅か1分後。
僕達は発狂していた。
「ふざけんなって! 背後から1弾倉当てたでしょ。あ、いや、1弾倉当てたは、ちょっと盛ったけど、なんでこいつ死なないの!」
「Fuck! ナイフで斬られた! 壁の向こうから斬られた!」
「消えた! 敵が消えた! どこから撃たれてるの? 地底人でしょ、これ!」
「Shit! 体力満タンだったのに、ハンドガンの顔射1発で死んだ!」
やべえ、コントローラーを床に叩きつけそうだ。
これ、敵チーム、やってんだろ。
やり場のない衝動は足をじたばたさせて発散させるしかない。
ああっ、もうっ。
僕が床を踏みつける音と、アリサの踵がソファに当たる音がうるさくて気が散る。
僕達が発狂したのも無理はない。
だって、野球で例えるなら、デッドボールを喰らったのにストライク判定だったり、センタースクリーン直撃のホームランを放ったのにファール判定だったりするような、不自然な状況が頻発しているんだもん。
絶対、これ、僕達がⅤの初心者だから状況が分からないって理由じゃない。




