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第19話 お前達のハートを撃ち抜く?! ジェシカさんの自己紹介、恥っず!

 ちらっと見ると、マネージャーさんは座らずに、壁際に立っていた。座っているのは僕達を含めて11人。他にスーツ姿の人が4人ほど立っている。


 とりあえず喉でも潤そうと、鞄からお茶のペットボトルを取りだしたところで、部屋の前方にいたスーツ姿の男性がテーブルに一歩近づいた。


「そろそろ時間ですね。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 男性は名乗り、大会スタッフであることを告げると、イベントの説明を始めた。


 概ね、ネットで調べたりジェシカさんから聞いたりしたとおり。

 参加チームは4つ。

 在日米軍、プロスポーツ選手チーム、BoDプロチーム、そして最後に今この場にいる配信者チーム。

 あくまでも「配信者」という観点から決まったメンバーなので、FPS経験者は少ないらしい。


 勝ちを狙いにいくというより配信コラボイベントとして、VRゲームや周辺機器の魅力を伝えるために呼ばれている感じっぽい。

 少なくとも『成績最下位はマインクラフトでダイヤ掘り3000個の罰ゲーム! 絶対に勝つぞ!』みたいなノリではなく、穏やかな雰囲気だ。


 賞金のために勝つぞと意気ごんでいるのは僕だけかもしれない……。

 僕は今後もSinさんとゲームをするために、絶対に賞金をもらって自分用のVirtual Studio VR Ⅲを買うんだ。


 ああ……。

 説明がひととおり終わったら、やっぱり始まる自己紹介。

 左からだから、僕は5番目だ。

 つらい。


 でも先に4人もいるんだから、同じような発言をしよう。


 なるほど。

 名前と、得意なゲームを言えばいいのか。


 安藤、井上、内田、江原……。

 左のテーブルにいる男性陣の苗字が、あ、い、う、えときている。

 凄いな、偶然が続いている。


 僕の番だ。

 立ちあがり口を開く。


「お、です」


 ……しまった!

 あ、い、う、え、を意識しすぎた!


 本当は『あいうえ、と来たのでおで始まる名前を言いたかったんですけど、残念。『あ』い河和樹でーす! よろしく!』って言いたかったんだけど、無理だった!


 やらかし……あれ?

 ウケてる。

 意外なことに、室内が大爆笑だ。

 みんな、あ、い、う、え、に気づいていたのか。


「藍河和樹です。BoDはⅢまで遊んでます」


 よし。

 場が暖まっていたからすんなりと自己紹介できた。

 多分、本日最大の難所を乗り切ったぞ……。


 僕が座るタイミングでジェシカさんが「オレの弟のカズね。あとでオレから改めて紹介する」とフォローを入れてくれた。そっか。本名を言っても通じないんだ。


 そして、ジェシカさんの声を聞いて何人かが目の色を変えた。さっきまでの、美人に驚いた表情ではない。

 外国人が流暢な日本語を話したから?

 女性にしては声が低いから?

 VTuberの中の人の顔を初めて見たから?

 理由は分からないけど、ジェシカさんはたった一言で多くの人の心を揺さぶったらしい。


 さて。次はアリサが自己紹介する番だけど、立ちあがる様子はない。


 というか、うっそだろ。

 VRゴーグル着けてやがる!

 空気、読もうぜ……。あ、いや、腕は動かしていないから、少ない動作で遊べるゲームをしている? 少しは空気を読んでいるのか?!


 どうするんだろうと思っていたら、ジェシカさんが代わりに立ちあがる。

 ジェシカさんは右手の親指と人差し指を立てて拳銃に見立てると、左手を添えて室内の人達に順に向けていく。


「ロボライブ・シューターズの司令塔、緒方シン。お前達のハートを――」親指の付け根の辺りに唇をつけてチュッと鳴らし「撃ち抜くぜ」人差し指の銃口で、右奥にいた女性の眉間を狙い、跳ね上げた。


 恥っずっ!

 なんの厨二病?!

 アリサはこれを見るのがつらくてVRゴーグルを装着したの?!


 共感性羞恥というか、なんというか、僕は恥ずかしくなったんだけど、それは室内では少数派だった。


 なんか「わあっ」と歓声があがり、みんな笑顔になっている。

 それどころか、撃たれた人の右の女性がテーブルを両手で叩きながら「司令官! 私も撃って!」と叫んでいる。


 ジェシカさんが指の銃を構えて「バンッ!」と言うと、女性は「きゃあああっ! 愛してます司令官ーッ!」と悲鳴をあげて胸を押さえた。


 えええ……。

 左側の男達も遠慮がちに上げかけた手を、意を決した表情で、バッと伸ばす。


「し、司令官、俺も!」


「オレに話しかけるときは、最初と最後にサーをつけろ、豚が!」


 初対面の人だよね?! なに言ってんの?!


「サー! イエス! サー!」


「バンッ!」


 ジェシカさんは男に銃口を向けて発砲。

 さすがに男は黄色い悲鳴こそあげなかったものの、照れた顔で隣の同類と肘でつつきあっている。


 何これ……。

 部屋の前にいる真面目そうなスーツ男性も薄らと微笑んでいて、室内の光景を好意的に受け止めているようだ。

 ドン引きしている僕が異端なのか……。


「で、こっちの空気を読めずにゲームしているのが、ロボライブ・シューターズの新人、(とつ)れるスナイパー緒方アリサ。オレの妹。今日は本気で勝つつもりで来ているから今は練習中。周りが見えなくなるタイプだから、失礼は許してください」


 ガチャッ。

 ドアが開き、ラフな格好の男が入ってきた。


「大会運営委員です。緒方アリサさんは、来られていますか?」


「んー?」


 アリサの代わりにジェシカさんがスタッフに顔を向けた。


「事前に申請していただいた情報について少し確認したいことがあります」


「りょ」


 ジェシカさんはマネージャーさんと目配せしてから、ふたりでスタッフの方に向かった。


 何があったんだろう。

 不思議に思っていたら、隣からアリサが僕の方に向けて、手招きを始める。

 ゴーグルをしていて見えていないから手探りで僕を探してる?

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