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第15話 アリサは僕の頭上で立ったりしゃがんだりして挑発してくる

「アリサちゃん、ね、退いて?」


「え、カズのキャラコンすっごく下手。棒立ちだったよ」


「画面が見えないから」


 僕は顔をおもいっきり上に向ける。カメラの前から物体が消えたことにより、ようやくゲーム画面が映る。

 だけど、ゲーム画面の兵士も現実世界の僕と同じ角度で上を見ているから、天井しか見えない。


「げ、何も見えない」


 ザシュッ! と鋭い音が聞こえ、視界が大きく揺れて、地面に倒れ伏した。


「はい、ツーキル。ザ~コ! 正面からナイフで切られるなんてっ、ぷっ、すんごい、間抜け。ねえ、ねえっ、くくっ、ちゃんとお目目、ついてんの?」


 視線をおろすと、ゲーム画面は半透明になり、再びアリサの後頭部が映る。


「え、あの、アリサちゃん?」


 アリサは「いひひひひひっ!」と笑いながら脚を前後に激しく動かしており、僕のふとももにも振動が伝わってくる。


「Oh! Yes! Yes! Yeees! 連続3キル。ぷっ、カズ下手くそすぎ」


「あ、いや、ちょっと退いて。僕、アリサちゃんしか見えない」


「きゃっ! カ、カズ、私しか見えないの? 会ったばかりなのに、そんなにラブラブな愛の告白なんて、いきなりすぎだよ……」


 アリサがモゾモゾと腰を左右に振っている。その微妙な振動で僕の姿勢も乱されるし、いくら小学生体型といえ、人間がひとりふとももの上にいるのは普通に重い。


 もしかしてだけど、この状況、可愛い妹ムーブじゃなくて、妨害?


 くそっ。こうなったら……!

 僕は背筋を伸ばし股を開く。

 僕のふとももにのっていたアリサが、股の間に落ちていく。

 よし。VRゴーグルの前方からアリサの後頭部が消えた。ゲーム画面が映る。

 ベンチから落とそうかと思ったが、アリサは多分脚を僕の膝にひっかけて踏ん張っている。間違いなく、ゲームに勝つための妨害行為だ!


 くっそっ!

 アリサのうさ耳リボンがゆらゆらしていてゲーム画面を貫通してくる。いや、だが、やるしかない!


 僕の操る兵士が動き出したのを見たのだろう。「むっ」とアリサが小さく呻いた。


「こっから本気だから!」


「OK. カモーン!」


 僕はまだアリサの姿を見ていないが、周囲を警戒しなが移動し、「相手がいるかもしれない方向」へ銃を向け――。


 しまった! 腕を閉じれない!

 兵士はプレイヤーと同じ姿勢になる。だから、銃を構えるには、僕は腕を閉じる必要があるんだけどアリサが正面にいる!


「んー。座りにくい椅子だね。アリサ、疲れちゃった」


「うわっ」


 アリサが背筋を伸ばして、後頭部を僕の顎に押しつけてきた。髪の毛でくすぐったいし、ゲーム画面の下半分が透過して現実世界に引き戻される。


 どこまで妨害すれば気が済むんだ!


「ひゃっほう。連続4キル。ねえねえ、カズ、凄い? ナイフで連続4キルしちゃった。相手が下手くそすぎるもん」


「へ、へえ……。凄いね……!」


「えっとね、相手のIDはケー、ユー、ゼット、ユーだから、クズって読むのかな?」


「うぐぬうっ」


「ねえ、クズってどういう意味? アリサ、日本語よく分かんなーいでーす。いひひっ!」


「Kuじゃなくて、Kaね」


「あっ。本当だ。ごめんね、文字が小さくて間違えちゃった。Kaで、カだよね」


「うん」


「ねえ、カスってどういう意味?」


 今度はわざと、ZをSと間違えてきた!


 あ、ヤバいヤバい、敵兵士が近づいてくる。

 僕が銃を構えられないからって、正面からナイフを構えて堂々と近づいてくる。

 このままじゃまた殺される。

 現実世界のアリサが腕を振ったのが振動となって、僕の下顎、胸、ふとももに伝わってくる。


『You Dead...』


「きゃっほう! 5回連続で倒しちゃった! ナイフで連続5キルの勲章アンロックした! なんかすっごいいっぱい勲章とか武器とかアンロックした!」


「うぎぎっ。アリサちゃん、ゲーム、上手だね」


「うん! ありがとう! カズはさっきより下手になったね。なぜなぜ、な~ぜ? あははっ!」


 う、噓だろ。

 今まで一緒に死線を潜り抜けてきた最高の相棒OgataSinが、こんなクソガキ?!

 対人地雷から身を挺して護ったり護られたり、崖から落ちそうなときに腕を掴んで引き上げたり引き上げられたり、友情プレイを積み重ねてきた戦友のすること?!


 倒れた僕の頭上で、アリシアが立ったりしゃがんだりしている。

 これは煽り行為だ。兵士の股間にあるものが顔にくっついたり離れたりすることから、『おいなりさん』と呼ばれている。VRゲームが生まれる前から存在する、FPS伝統の挑発行為だ。類義語に『ティーバッグ』が存在する。見た目とか、上げ下ろしの行為から連想されて生まれた言葉だろう。


「そ、そろそろ、僕も本気を出そうかな」


「え~。カズ、強がり言っちゃってる~」


 僕は長椅子の背もたれ限界まで仰け反り、アリサの後頭部による妨害から逃れる。

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