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第8話 エリシアの家族

 自宅に帰って来た頃にはすっかり日が暮れていた。


「夕飯作るから、兄さんは休んでて」


 笑ってそう言うエリシア。

 今日一日一緒に過ごしてみて思う。

 オレと同い年くらいの見た目なのに、彼女はとてもしっかりしている。


 鳥と心を通わせる力もエルフの血のおかげだと言っていたし、エリシアが何歳なのかは外見からは分からない。

 大人びているのもひょっとすると、すごい年上だからなのかもしれない。

 そんな彼女の優しさにずっと甘えっぱなしでいるのも、なんだか良くない気がした。 


「エリシアも疲れてるだろ。オレも手伝うよ」


 いたたまれなくなってそう言ったはいいものの、台所の勝手はまだよく分かっていない。

 結局エリシアに色々教わることになってしまった。


「これじゃあ、逆にエリシアの邪魔になってるな……」


「そんなことないよ? 手伝ってくれるのは助かるし、なにより嬉しいもの」


 なんていい子なんだ。

 こんな子が本物の妹だったらどれだけ幸せだろうか。


 いや、そんなこと言ったら朱音が怒りそうだな。

 と、元の世界に残してきた家族のことが頭を掠めた。

 そこで、1つの疑問が浮かぶ。


「そういえば、オレたちの両親はどこにいるんだ?」

 

 目を覚ましてから、ずっと2人きりだったからつい聞いてしまった。

 すると、エリシアが驚いたように目を見開いた。


「……それも覚えてないのね」


 明らかにエリシアの表情が暗くなった。

 もしかして、聞いてはいけないことだったのだろうか?


「私たちの両親はもういないんだよ」


 エリシアは感情の見えない口調で続けた。


「母さんはエルフ。父さんは人間。2人は異種族なのに、一緒になったの。それで、同族たちから迫害された」


「……っ、そうだったのか」


 両親との死別。

 ふと元の世界にいるであろう母さんと父さんの顔が思い浮かんだ。

 この世界に来る前は親と離れて生きたいなんて思っていたけど、二度と会えないというのは思った以上に心細いものだった。


 エリシアもオレと同じような気持ちなのだろうか。

 彼女の心境を想像して、後悔する。

 こういう時、一体なんと言うべきだ?


「あまり気にしないでね。記憶をなくしてるんだもの」


 エリシアはこちらを気遣うように柔和な微笑みを浮かべた。

 オレが口を閉ざしたせいで暗くなりかけた空気を変えようとしてくれたみたいだ。


 しかし、心なしか彼女の瞳には疑念の色が見え隠れしているような気がした。


 なんだか気まずい。


 お互いになにも言えず、黙々と作業をしている内に夕食が出来上がった。


 2人で食卓を囲んでいる間も沈黙が続く。

 耳に痛いほどの無音。


「……兄さん」


「な、なんだ?」


 唐突に口を開いたエリシア。

 しかし、そこから先の言葉が出てこない。


「ううん。なんでもない。今日は疲れたでしょう? 食べたら早く寝ましょうね」


 ぎこちないエリシアの表情に既視感を覚える。


 朱音もこんな顔をしたことがあった。


 確か朱音がお気に入りの人形をなくした時のことだ。

 オレが隠したんじゃないかと言って、朱音は癇癪を起していた。

 朱音もオレも幼かったし、よくある揉め事の1つだったけれど。


 あの疑いの眼差しはよく覚えている。

 

 エリシアはずっとオレのことを兄として慕ってくれていた。

 でも、オレはシオンではない。


 ちょっとした違和感の積み重ねで、エリシアとの関係もギクシャクしてしまうかもしれない。

 異世界に来てまで、また冷え切った家族関係に悩まされたくはない。


「今日はオレのために色々とありがとう」


「……当たり前だよ。たった1人の兄さんなんだもの」


 エリシアの健気な言葉にオレは頷いた。

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