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第7話 金物屋のドワーフ

 テセイオ村に戻ったオレたちは、昼食をすませてからバレットさんの工房へと向かった。

 エリシアに連れられてやってきたのは、周辺の家とはかなり造りが違う建造物だった。


 レンガで作られた立派な店のような建物。

 入り口には看板があり、「金物屋」と大きく書かれていた。

 店舗の裏側には工房が併設されている。

 店の裏へと回り込むと、工房から金属同士がぶつかり合うような甲高い音が響いているのが聞こえた。


「バレットさん! こんにちは!」


 エリシアが金属音に負けないよう声を張り上げて、作業場でハンマーを振り上げている背中に声をかけた。


「む? エリシアか。お前さんがここに来るとは珍しいの」


 振り返った人物はよく見ると人間じゃなかった。

 筋骨隆々の逞しい肉体とは裏腹に、背丈がとても小さい。

 真っ白い豊かな口ひげを蓄えている。

 エルフと並んでファンタジー的な物語でよく見るドワーフのような外見だ。


「なんじゃ。シオンもいたのか。昨日は災難じゃったな。まあ、目が覚めたようでなによりじゃ」


「昨日? 災難?」


 一体なんのことを言ってるのだろう。

 オレが首を傾げていると、エリシアが右手を口元に当てた。


「あ。そういえば、まだ言ってなかったっけ。兄さんは昨日、ここで頭を打って気を失っちゃったの」


「えっ、そんなことがあったのか」


「あはは。兄さんが目を覚ました時に言ったつもりになってたみたい。ごめんね」


 悪戯っぽく両手を合わせて謝るエリシア。

 その可愛らしい仕草で、心臓がドキリと跳ねる。


 しばらく一緒に行動して彼女の美貌をようやく見慣れてきたかと思ったけど、そんなことはなかったみたいだ。

 ちょっとした仕草一つで、つい視線が釘付けになってしまう。


「ん? なにをコソコソ話しとるんじゃ?」


 2人だけで話しているのが気に入らなかったのか、オレたちの会話に割って入ろうとバレットさんがこちらへと向き直る。


「バレットさん、実は……」

 

 エリシアが身振り手振りを交えて事情を説明。

 バレットさんは驚いて、オレの方に近寄って来た。


「棚から落ちてきた鎧兜で頭を打った時もたまげたが……。まさか記憶がなくなってしもうたとはのお」


 兜が頭に……。

 聞いただけで痛そうだ。

 この身体、結構ヤバそうな事故にあってたんだな。


 顎の下に左手を当てがって、バレットさんも心配するようにオレの身体を眺めまわしている。

 と、彼の左手がおかしいことに気づいてつい声が出てしまう。


「機械の手?」


「ああ。()()()の事も覚えとらんのか」


 バレットさんは左手を掲げて見せた。

 その左手は手首から先が機械でできた義手だった。


「大昔にやった怪我じゃ。まあ、気にするでない」


 ふと、リオール先生の翼が片方なかったのを思い出した。


 テセイオ村の住民はみんな訳あり。

 エリシアの言っていた言葉の意味がやっと分かった気がする。


「そんなことより、ちょうどいい。暇なら仕事を手伝ってくれんかの。小遣いくらいはやるから安心せい。それに、手を動かせば記憶ぐらいすぐ思い出すじゃろ」


 言われるがままに、オレたちはバレットさんの手伝いをすることになった。

 次から次へと出される指示に従って、工房内を忙しなく動き回る。

 バレットさんが作った金物を運び出したり、鍛冶道具を受け渡したり。

 どれもこれも重くて、腕が悲鳴を上げる。


「ひ~、キツイな」


「泣き言を言ってる暇はないぞ。手拭いを取って来てくれ。家の炊事場にある」


 勝手口から店舗に入ると、奥は居住スペースになっているようだった。

 室内に入って、炊事場を探してうろうろしていたらリビングに来てしまった。


「ん? これは……」


 ふと、棚の隅に飾られている写真のようなものが目に入った。


「バレットさんの若い頃の写真か?」


 髭は白くないし、左手も生身のままだ。

 若々しい風貌のバレットさんの隣で、ドワーフの女性が笑っていた。

 奥さんだろうか?

 いや、身内や幼馴染だったりするかもな。


「シオン! 早く戻らんか!」


「やばっ!」


 外からバレットさんの怒号が聞こえてきて、背筋が伸びる。

 急いで手拭いを見つけ出して、そそくさとその場を後にする。


 その後も、エリシアと共に夕方までみっちり仕事をさせられた。


「今日はこの辺りにしておくかの。2人ともお疲れじゃったな」


「うへぇ~、疲れたなぁ」


 こんな重労働は初めてだ。

 母さんの代わりにやっていた家事だって大変だったけど、正直比べ物にならないくらい疲れた。

 家族と離れれば楽に暮らせるんじゃないかとか考えていた自分が恥ずかしい。

 ちょっと元の生活が恋しくなってしまったが、すぐに思いなおす。

 今はとにかく、この世界での生活に慣れていかないと。


「やっぱり金物屋さんのお仕事って大変ね」


 エリシアもぐったりした様子で服の胸元を引っ張って涼もうとしている。

 しかし、自分が美人だという自覚がないのか、エリシアは無防備な姿を晒すことが多いな。

 けしからん。

 ジロジロ見ないように気を付けていると、バレットさんが急に肩を叩いてきた。


「どうじゃ? シオン。何か思い出したかの?」


「し、仕事は少し覚えたけど、思い出したわけじゃないかな」


「まあ、焦らなくてもいいじゃろ。ほれ。今日の分の駄賃じゃ」


 バレットさんはそう言って、オレに数枚の硬貨を握らせた。


「気が向いたらまた来るがよいぞ。いつでも手は欲しいからの」


 満足そうに笑うバレットさんと別れ、オレとエリシアは自宅に向かった。

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