第4話 夢の中での邂逅
鏡で見た今の俺の姿と全く同じ容姿の少年が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「もしかして、シオンなのか?」
直感に従って、オレはそう尋ねていた。
「あれ。よく知っているね。そうだよ、僕の名前はシオン」
シオンは驚いたように瞬きしつつも、落ち着いた様子で微笑んだ。
「良かったら君の名前を教えてくれるかい?」
なにが起きているのかさっぱり分からないけれど、まずは正直に答えて反応を見た方が良さそうだ。
「オレは恵本翔琉。地球にある日本っていう国に住んでる」
オレの自己紹介を聞いて、シオンは興味深そうに目を輝かせながら顎の下に手を当てた。
「カケル! いい名前だね。でも、ニホンは知らない国だ。チキュウというのも何のことか分からないな。よその国の言葉なのかな」
地球を知らないって事は、やっぱりシオンは別世界の住人なのだろう。
でも、今はオレがシオンの姿になっているのに、なんで本物と会えているんだ?
不可解な状況に頭を悩ませていると、シオンはオレの頭から爪先までを不思議そうに眺めた。
「そう言えば、カケルは見たことのない服を着ているね。髪が黒い人と会うのも初めてだよ」
「え?」
言われて、自分の身体を見回してみる。
オレが今着ているのは、買い出しの時に身につけていた服だ。
腕を見ると皮膚は肌色をしている。
元の身体に戻ってるのか。
一体どういうことなんだ?
まったく理解が追い付かない。
と、さらに信じられないものが目に飛び込んできた。
オレの右手が消え始めている。
「うわあっ! なんだこれ!?」
指先から文字通り霧になって、腕がどんどん消失していく。
痛みはないが指先の感覚も全くない。
「残念。もっと話したかったのに」
シオンはがっかりしたようにため息をついた。
「な、なんでそんなに冷静なんだよ!?」
腕だけでなく、足までも溶けるように消えて、オレの胴体から上は宙に浮いていた。
どう見てもこれはヤバイ。
もしかしてこのまま死んでしまうんじゃ……。
助けを求めようとシオンの方に目を向ける。
すると、彼は平然とした様子でオレの顔を見ていた。
「カケルはさっき霧が集まるようにして僕の前に現れたんだ。ちょうどそんな風にね。たぶん時間切れなんじゃないかな」
「じ、時間切れ?」
シオンの言っている意味が理解できない。
「大丈夫だよ。きっとまた会える。今度はもっと色々話を聞かせて欲しいな」
オレを安心させようとしているのか、シオンはただひたすらに穏やかな微笑を浮かべている。
まもなく全身の感覚がなくなり、プツリと意識が途切れた。
そして、気がついたらオレはベッド脇の床に転がっていた。
体を起こしてベッドの上を見ると、そこにはエリシアが寝ている。
「夢……?」
夢にしては、やけにハッキリと記憶に残っている。
オレはてっきりシオンとして異世界に転生したものだと思っていたけど、もしかして違うのか?
夢の中で会った彼が本物のシオンなら、もっと話せばオレの身に起きた現象についてなにか分かるかもしれない。
でも、どうやってもう一度会うんだ?
とりあえず、ベッドに戻って寝直してみるか。
目を閉じて横になり、次に目が覚めた時には普通に朝がやって来ていた。
ぐっすり寝れたのは良かったが、シオンとの会い方は分からず仕舞いだ。
やっぱりただの夢だったのか?
「おはよう、兄さん。ご飯を食べたら、早速リオール先生の所に行きましょうね」
ベッドから抜け出して、リビングに向かうと台所からエリシアの声が聞こえた。
今はシオンの事を考えてもしょうがないか。
とりあえず、今日は目の前のことに集中しよう。
オレは寝間着を脱いで、畳んであった服に手を伸ばした。




