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第25話 別れ

 目を開けると、そこは光の中だった。

 身体が宙に浮いていて、どこかに流されているような感覚。


 光の奔流がオレの足元の方へと流れている。

 ざわざわとノイズのような音が響き渡り、耳を塞ぎたくなる。

 

「カケル! 手を出して!」


 非現実的な状況で混乱していた俺の耳に、雑音を押しのけて聞き覚えのある声が届いた。

 顔を上げると、天井から吊り下げられたみたいに逆さまになったシオンがこちらに向かって真っすぐ手を伸ばしていた。

 泳ぐように手足をバタつかせて、なんとかその手を取る。


「シオンっ! どうなってるんだこれ!?」


「たぶん、僕たちの魂がそれぞれの身体に引き寄せられているんだ。流れに身を任せれば、元の世界に帰れるはずだよ」


 シオンの顔には若干焦りも見られるが、それでも努めて冷静に状況を説明してくれた。


「じゃあ、間に合ったのか」


「うん。ありがとう。カケルのおかげだよ」


 シオンは嬉しそうに笑う。


「オレだけの力じゃない。エビルトレントに襲われた時、シオンが助けてくれたんだろ?」


「僕も無我夢中だったから、自分がなにをしたのかよく分からなかったけどね。気が付いたらカケルのところに辿り着いていたみたいだ。ずっと待ってばかりだったから、少しでも力になれてよかったよ」


 話している間にも、光の流れが速くなり、身体が激しく揺さぶられる。


「もう、時間がないみたいだね」


 シオンはそう言って悲しげに微笑んだ。


「カケルには本当に感謝してる。エリシアを守ってくれたし、こうして元の世界に帰る方法を見つけてくれた。君と出会えてよかった」


「オレもだよ。家族と向き合おうと思えたのはシオンのおかげだ。本当にありがとう」


 腕が伸び切って、もうシオンの手を握っているのも限界だ。

 そう思った時、シオンが笑った。


「カケルは僕たち兄妹の命の恩人だ。できることなら、もっと君と過ごしていたかった。元の世界でも、元気でね」


 そう言って、シオンは手の力を抜いた。

 瞬間、シオンの身体が向こう側へと一気に流れて行く。


「シオン! ありがとう! オレは、オレはっ……!」


 言いたいことはたくさんあったはずなのに、言葉が出てくる前にシオンの姿は光の渦へと消えていった。


「うわっ!」


 オレの身体もどんどん流されて、加速しているようだった。

 光が流れていく方向へと目をやると、虹色の輝きを放つなにかが見えた。


「な、なんだあれ!?」


 その光源へと吸い込まれるように引き寄せられ、あまりの眩しさに目を閉じる。


 と、不意に辺りが静かになった。

 恐る恐る目を開けてみる。


 そこは、病室のような場所だった。

 夕日が右手の窓から差し込み、室内を照らしている。


 なんだか目がチカチカする。

 右手で目を擦っていると、近くから声が聞こえた。


「翔琉……?」


 なんだか長いこと聞いていなかったような気がする。

 それは、母さんの声だった。

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