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第23話 急襲

 無事レッドドラゴンから逃げ切ったオレたちはテセイオ村へと向かっていた。

 あと半日も歩けば、村に帰れる。


 隣で黙々と歩いていたエリシアがふと口を開いた。


「村に着いたら、兄さんを助けられる。あともう少しなのね」


「ああ。シオンも喜ぶだろうな。なんとか間に合いそうで良かったよ」


 昨日野営した時も、夢の中でシオンと会話することができていた。

 帰ってすぐ薬を作って貰えれば、シオンとオレの魂は元に戻るはずだ。


「でも、カケルがいなくなっちゃうのは少し寂しいかも」


 エリシアが伏し目がちにポツリと呟いた。

 正直、ちょっと驚いた。

 と同時に、なんだか照れくさい気持ちになる。


「あー、なんだかんだ一緒に色々頑張ったもんな」

 

 オレが適当に相槌を打つと、エリシアはクスリと笑った。


「そうね。それに何度も私を助けてくれた」  


 エリシアは首を傾けてオレの顔を覗き込む。


「訓練で私がケガをした時も。始めて魔物と戦った時も。レッドドラゴンに襲われた時も」


 彼女の視線からは親愛の気持ちが伝わってくる。


「カケルには本当に感謝しているの。薬の材料を集められたのはあなたのおかげよ」


 エリシアにべた褒めされて、無性に恥ずかしくなる。


「別に感謝されるほどのことじゃねーよ。エリシアだって援護射撃でいつもオレを助けてくれたし。目的が同じなんだから、助け合うのは当然だろ」


 お互いさまということにしようと早口で喋りきると、エリシアはおかしそうに笑った。


「ふふ。照れてるの?」


「そ、そんなんじゃねーよ」


「ふーん?」


 エリシアの悪戯っぽい笑みに耐えられなくなって、オレは早歩きを始めた。


「と、とにかく、急いで村に帰らないとな!」


 そう言ってエリシアの方へと振り返った時、視界に予想外のものが映った。


 エリシアの背後に奇怪な(つた)のようなものがいくつも這い寄っていたのだ。

 しかも、そいつは今まさにエリシアへと襲い掛かろうとしていた。


「危ないっ!」


 オレは無我夢中で駆け出した。

 エリシアを突き飛ばし、忍び寄っていた蔦を間一髪で躱した。

 触手のように蠢く蔦を伸ばしていたのは、大木のような姿をした怪物だった。


「エビルトレント!? なんでこんな魔物がここにっ……」


 驚愕の声を上げるエリシア。

 不意打ちが失敗に終わり、エビルトレントは足のように発達した根を自在に操り攻撃を仕掛けてきた。

 くそっ、間合いが近すぎるっ!


 巨大な丸太みたいな太さの根による薙ぎ払いが、構えた盾もろともオレの身体を捉えた。


「ぐあっ!」


 オレの足が地面から離れ、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

 背後にあった木に背中から叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出される。

 

「カケルっ!」


 エリシアの悲鳴を聞きながら、オレはうつ伏せに倒れ伏した。

 激痛で意識が飛びそうになりながら、視線だけを上に向ける。


 トレントは今度こそとエリシアの方へにじり寄っている。

 このままじゃ、エリシアが危ない。


 だけど、体に力が入らない。

 視界がぼやけてきた。


「カケル……」


 声が聞こえる。


「カケル、目を開けて」


 この声は、シオン?


 見ると、夢の中でしか会ったことのないシオンが、オレの眼前に立っていた。

 シオンは屈んでオレの手に触れた。


「僕も力を貸すよ。ここで負けちゃだめだ」


 すると、シオンの身体が白い光となってオレの身体を包みこんだ。


 何が起きたのかは分からない。


 だけど、不思議な力が身体の奥から湧き上がってくるのを感じた。


「きゃあっ!」


 エビルトレントの蔦が迫り、エリシアは弓を使えず防戦一方になっている。

 オレは片手剣を右手に持って、立ち上がった。


 次の瞬間、オレはトレントの操る無数の蔦を切り飛ばしていた。

 怯んで後退りながらも、エビルトレントは極太の根をこちらに向かって振り上げた。


 地を蹴って飛翔し、トレントの攻撃をすり抜ける。

 両手で剣を握りしめて渾身の力を込めると、刀身が膨大な魔力を纏って青白く輝いた。

 横一線に剣を振り抜くと、一瞬にしてトレントの体は真っ二つに切り裂かれた。

 

「す、すごい……」


 ただの切り株となって動かなくなったトレントを見て、感嘆の声を上げるエリシア。

 良かった。

 なんとか彼女を助けることができた。


 そう思った途端に、全身から力が抜けてオレは膝から崩れ落ちた。


「えっ、カケル? カケルっ!」


 エリシアの心配そうな声がだんだん遠くなっていく。

 視界が暗転し、オレは意識を失った。

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