第22話 対峙
凄まじい地響きと共に、オレたちの前にレッドドラゴンが降り立った。
強大な威圧感を放つ竜の眼光を前に、足が竦む。
完全に退路を塞がれてしまっているが、正面から戦いを挑むのは無謀だ。
「エリシア、左手の方へ走れ! 回り込んで森に逃げ込もう!」
エリシアは頷いて駆け出す。
その動きに反応して、レッドドラゴンはエリシアの方に顔を向けた。
鋭い牙が並ぶ口がガパリと開き、喉の奥から真っ赤な炎が湧き出ようとしている。
「くっ!」
オレはエリシアとドラゴンの間に割って入った。
レッドドラゴンが吐いた灼熱のブレスが一気に押し寄せてくる。
オレは構えた盾に魔力を込めた。
すると、魔法の盾が輝き始める。
盾を中心に魔法の障壁が展開され、ドラゴンのブレスがオレたちのいる場所を避けるように地を焦がす。
「エリシア! 振り向かずに走るんだ!」
声を張り上げながら、足を踏ん張って盾を構え続ける。
一瞬振り向きかけたエリシアは背を向けてどんどん距離を取っていく。
ドラゴンが息を吐き切り、真っ赤に染まっていた視界が開けた。
赤竜から視線を外さないようにしつつ、背走する。
オレたちにブレスが効かなかったことを理解したのか、ドラゴンが動いた。
地鳴りを轟かせながら、こちら目掛けて突っ込んでくる。
首筋を冷汗が伝う。
あっという間に追い付かれ、赤竜の右前脚が振り上げられた。
鋭利な爪が迫る。
避けられないっ!
そう思った瞬間、ドラゴンが悲鳴のような叫び声を上げた。
「カケル! はやくこっちへっ!」
見ると、エリシアが引き絞った弓から矢を放つところだった。
エリシアの手を離れた矢は青白い光を纏って赤竜の顔目掛けて飛翔した。
魔法の矢はドラゴンの左目付近に命中。
まぶたを凍り付かせた。
バレットさんに作って貰った弓の特性だ。
エリシアが注いだ魔力を氷の力に変換する。
冷気を苦手とするレッドドラゴンにはそれなりに効いているみたいだ。
視界を奪われた赤竜は首を振って、氷を剥がそうとしている。
「ありがとう! エリシア!」
その隙にオレは急いでエリシアの方へと走る。
「まだ油断できないわ」
エリシアは追い打ちにもう一発矢を射かけてから走り出した。
森に逃げ込むべくオレたちは全力で駆ける。
あともう少し……。
背後から低い唸り声が聞こえて、オレは視線を赤竜の方へと向ける。
レッドドラゴンは大きく息を吸い込んで、再びブレス攻撃の態勢に入っていた。
瞬間。熱風が頬を掠めた。
「なんだこれっ!」
赤竜の口から放たれた爆炎が凄まじい勢いで迫って来た。
視界が一面赤で塗りつぶされる。
さっきのブレスとは比べ物にならないパワーだ。
「くっそおぉぉっ!」
オレは後ろに盾を構えながら、エリシアに覆いかぶさるように飛び出した。
盾越しにブレスを受け止め、身体が宙に浮く。
「きゃああぁぁあっ!」
そのままエリシアと一緒に吹き飛ばされて、森の中に頭から突っ込んでしまった。
「いってぇ……」
痛みをこらえながら身体を起こすと、オレたちがさっきまでいた場所は火の海と化していた。
「なんとか森に逃げ込めたわね……」
エリシアがゆっくりと立ち上がりながら呟く。
「ああ、さすがに森の中までは追って来れないはずだ」
オレは念のため木々の隙間からレッドドラゴンの様子を伺う。
赤竜はオレたちの姿を見失ったようで、辺りを見回している。
それでもまだオレたちを探しているのか、徐々にこちらへと向かってきていた。
「げっ、まだ諦めてないのか。しつこい奴だな」
「すぐにここを離れましょう」
エリシアは荷物をなくしていないか確認しつつ、冷静に告げた。
「そうだな。行こう」
オレは取り落としていた剣を拾い上げて、森の奥へと急いだ。




