第21話 レッドドラゴンの巣
バレットさんから装備を受け取り、オレとエリシアはテセイオ村を出発した。
目的地は南東の山岳地帯。
徒歩で2日かけて移動し、ようやくレッドドラゴンの巣がある場所の近くへと到着した。
「カケル。見えたよ。すぐそばにいる」
岩陰からこっそり身を乗り出して、エリシアが示した方角を確認する。
そこには真っ赤な鱗に覆われた巨大な竜の姿があった。
「今の時期、レッドドラゴンは卵を守るために巣に籠っているの。でも、待っていれば食事のために巣を離れるはず。その隙に巣材を手に入れましょう」
エリシアの提案に無言で頷く。
オレはバレットさんに作って貰った盾と片手剣をちらりと見た。
レッドドラゴンの強力なブレスに対抗できる魔法の盾と竜の鱗も切り裂く切れ味の刀剣。
ハーフエルフであるシオンの身体は強い魔力を持っている。
その魔力を込めることで、これらの装備は真価を発揮する。
最悪ドラゴンに見つかっても、ある程度対抗はできるはずだ。
でも、あんな化物と直接やり合うのはできることなら避けたい。
オレたちは巣から十分離れた場所に陣取って、息を潜めた。
待つことしばらく。ドラゴンが身震いし、ゆっくりと動き出した。
赤竜が両翼を羽ばたかせると、辺り一面に暴風が吹き荒れた。
そして、深紅の巨体がふわりと宙へ浮かび上がった。
「すげぇ……」
ドラゴンの全身が露わになり、改めてその威容に目を奪われる。
次の瞬間。大きく翼を広げた赤竜は一気に加速し、空へと飛び出して行った。
「今よ。行きましょう」
ドラゴンの姿が見えなくなったのを確認して、オレたちは巣へと近づいた。
巣の中には人間の大人でも抱えられるか怪しいくらい大きな卵がいくつも転がっている。
だが、今回の目的はそっちではない。
肝心のドラゴンの巣は、お椀型をした赤褐色の岩石で形成されていた。
「これがレッドドラゴンの巣材か」
少し近寄っただけで、強烈な熱気が肌を刺す。
「くっ……。なんでこんなに熱を帯びているんだ?」
あっという間に汗が噴き出すほどの熱さに、疑問が口をついて出た。
「この巣材はレッドドラゴンの鱗と特殊な鉱石が混ざり合って出来ているらしいの。鱗に秘められた魔力が熱源になって、卵の孵化に必要な温度を保っているみたいね」
「へえ~、そんな仕組みなのか」
エリシアの解説についつい感心してしまう。
異世界の生き物ってのは、不思議な生態を持っているんだな。
「っと、はやく巣材を手に入れないとな」
荷袋から鉱石の採掘に使う小型の魔道具を取り出し、巣材の採取を始める。
ドラゴンの巣に魔道具を押し当てて削り、巣材の破片を袋に入れていく。
「よしっ、こんなもんかな」
袋の口を固く縛って、バッグに押し込む。
「ギャアッ!」
突如聞こえたその鳴き声に身体が硬直する。
「えっ?」
恐る恐る視線を上げると、大きな金色の瞳が巣の上からこちらを覗き込んでいた。
その瞳の持ち主は、赤い鱗に覆われた小さなドラゴンだった。
小さいと言っても、さっき飛び去ったレッドドラゴンと比較しての話だ。
生まれたばかりの子供のようだが、オレの身体よりも2回りは大きい。
「アギャアアァァァアス!!」
「うわっ!」
甲高い叫び声に思わず耳を塞ぐ。
「マズいわ! 早く逃げましょう!」
エリシアが採掘用の魔道具を荷袋にしまいながら叫んだ。
オレも慌てて巣材の入った荷物を背負って駆け出そうとする。
その時、恐ろしい雄叫びが遠くから聞こえてきた。
「レッドドラゴンが戻って来る!?」
オレとエリシアは一目散に逃げ出す。
しかし、全力疾走していると急に辺りが暗くなった。
「マ、マジかよ……」
見上げると、すでにレッドドラゴンが旋回して着陸態勢に入っているところだった。




