第11話 エリシアの洞察
「兄さん! 大丈夫?」
遠くから響いて来る声に気づいて、目を開ける。
すると、眼前にエリシアの顔があった。
「あれ? ここどこだ?」
「寝ぼけてるの? 寝室の床だよ。兄さん、こんなに寝相悪かったっけ?」
困惑したようにこちらを見るエリシア。
「不思議な夢を見てたんだ。たぶんそのせいだな」
苦し紛れの言い訳をして、オレは体を起こした。
「そんなことより、腹が減ったから朝食にしよう。台所の勝手は覚えたし、もう自分で準備できるよ」
立ち上がって話を変えようとしたが、エリシアはじっとオレの顔を凝視している。
「……」
黙ったままなにか考え込んでいるようだ。
「ん? どうかしたか?」
「ずっと、おかしいと思っていたの」
エリシアはそう言って、真剣な眼差しでオレの目を見た。
「あなた、本当にシオン兄さんなの?」
「えっ?」
突然図星をつかれてつい狼狽えてしまう。
エリシアはゆっくりと思考を整理するように言葉を紡いでいく。
「リオール先生は、固有名詞や知識が抜け落ちてるけど言葉は忘れてないって言ってた。なら、喋り方や振舞い方が変わったりするわけないよね」
「そ、それは……」
言われて気づく。
そういえば、目が覚めてからオレはずっと普段通りの話し方で通してきていた。
夢の中のシオンはかなり物腰の柔らかい感じだし、そりゃあ違和感があって当然か。
「やっぱり、そうなのね……」
エリシアは確信したように頷いた。
「記憶喪失だからと思って気にしないようにしてたけど、兄さんはあなたみたいな性格じゃないもの」
エリシアの力強い視線がオレを射抜く。
「本当のことを教えて。あなたは誰?」
これはもう言い逃れできないな。
だけど、いい機会だったかもしれない。
すべて正直に打ち明けよう。
「分かった。全部話すよ。でも、ちょっとばかり長くなるぞ」
リビングのテーブルで向かい合って一通り今までの経緯を説明すると、エリシアは眩暈をこらえるように額に手を当てた。
「そんな……。兄さんの身体に異世界の住人が乗り移ってるだなんて……」
「まあ、こんなこと言われても信じられないよな」
悩まし気に頭を抱えていたエリシアだったが、手元にあるお茶を一口飲むと大きく息を吐いた。
「でも、本物の兄さんを取り戻すには信じるしかないみたいね。……あなたは、ライラさんを頼るように言われたんでしょう?」
「ああ」
「それなら、私も一緒に行く」
「えっ」
唐突な申し出に変な声が出てしまった。
「なにを驚いているの? 私は兄さんを助けたいの。だから協力させて」
有無を言わさない雰囲気でエリシアが真っすぐ見つめてくる。
「……わ、分かった。よろしく頼むよ」
彼女の鋭い視線を前に、拒否の選択をすることはオレにはできなかった。




