第96話 大和山
狐の獣人たちの案内を受け、ミサキたちはようやく樹海の出口にたどり着いた。
「……ここが、出口か」
ツバキが腕を組みながら呟く。
目の前には、険しくそびえ立つ巨大な山脈が広がっていた。
木々の鬱蒼と生い茂る樹海とは違い、目の前の風景はどこか荒々しく、岩肌がむき出しになった険しい山々が連なっている。
冷たい風が吹き抜け、先ほどまでの湿った空気とは違う乾いた感触が肌をなでた。
狐の獣人たちはミサキたちの前で足を止めると、静かに言った。
「我らが案内できるのはここまでだ」
リーナが少し寂しそうな顔をする。
「ここまで来れたのも、あなたたちのおかげです。本当にありがとうございました」
狐の獣人は小さく頷いた後、険しい表情で続けた。
「……気を付けろ、この森の外では龍が徘徊してる。見つかったらどうなるかわからんぞ?」
「……龍」
大和山に入る時にもツバキから聞かされていた事だ。
今までは龍をさける為に森の中を通っていたが、ここから先は見晴らしのいい山だ、龍から見つかる可能性も高まるだろう。
「……これは、今まで以上に険しい旅になりそうだな」
ツバキが気を引き締めるように刀の柄を握り直す。
ミサキも覚悟を決めた表情で頷いた。
「でも、ここで引き返すわけにはいかないですね」
リーナも決意を固めたように杖を握りしめる。
「そうだな……ここまで来たんだ。絶対に、桜楼石を手に入れよう」
ミサキは深く息を吸い込み、力強く言い放つ。
「気を引き締めて行こう!」
こうして、ミサキたちは新たな試練に挑むべく、龍の縄張りへと足を踏み入れるのだった。
***
目の前にはそびえ立つ大和山。
ごつごつとした岩肌、急峻な崖、そして獣たちの咆哮が山中に響き渡る。
「こんな場所、本当に登り切れるんでしょうか……?」
リーナが不安そうに呟く。
「行くしかないな……」
山道を進むミサキたちの前に、突然、虎のモンスターが飛び出してきた。
「ガウウウウッ!」
「来たぞ……!」
ミサキが剣を構えると、ツバキもすかさず身構える。
「こっちもいます!」
リーナが指をさした先には、獅子のモンスターが唸り声をあげていた。
「クソッ、モンスターの群れか!」
「片付けるしかない!」
虎が鋭い牙を剥いて飛びかかってくる。
ミサキはそれを紙一重でかわし、剣を振るって虎を切り裂く。
ツバキも素早い動きで獅子の首を狙い、刀で切り裂く。
「ホーリー・ランス!」
リーナの光の槍が、獅子のモンスターの胴体を貫いた。
しかし、まだまだ数は多い。
「これで……終わりだッ!」
ミサキの剣が最後の虎を貫くと、山道に静寂が戻った。
「ふぅ……倒したか」
息を整える三人。
すでに辺りは暗くなり始めていた。
「そろそろ野宿にしようか……」
「そうですね……」
三人は少し開けた場所を見つけると、リーナが杖を一振りし、周囲を包む結界が形成された。
「これでしばらくは安心ですね」
「助かるよ……さて、飯でも作るか」
ミサキがリュックをゴソゴソと漁りながら言うと、二人も頷いた。
「さて、今日の食材は……コイツらだな」
ミサキは倒した虎のモンスターと獅子のモンスターの肉を取り出し、手際よく肉を捌いていく。
「よし、肉は準備完了。次は味付けだな」
ミサキは荷物から酒と醤油、ハチミツを取り出す。
「それで何を作るんですか?」
「焼肉のタレだよ」
ミサキは鍋を取り出し、酒と醤油、ハチミツを適量入れる。
そして鍋を火にかけ、じっくりと煮詰める。
しばらくすると、芳ばしい香りが辺りに広がった。
「わぁ……いい匂いです!」
リーナの顔がパァッと明るくなる。
「じゃあ、焼くぞ」
ミサキは鍋に油を引き、肉を乗せた。
ジュウウウウッ……!
焚き火の上で肉が焼ける音が響き、たちまち食欲をそそる香ばしい匂いが広がる。
「うわっ、すごく美味しそうです!」
リーナが目を輝かせる。
ツバキも興味深そうに見つめる。
ミサキは焼き上がった肉をタレに絡め、まず一口食べた。
「……うん、美味い」
「本当!?私も!」
リーナが急いで肉を口に運ぶ。
「……!!すごい、こんな美味しい焼肉、初めてです!」
「タレがいい感じに馴染んでるな。うん、美味い」
ツバキも満足げに頷いた。
「これなら米も持ってくれば良かったな……」
ミサキはちょっと不満そうにするも、美味しく肉をいただいた。
焚き火の炎が静かに揺れる中、三人はしばし戦いを忘れ、至福の食事を楽しんだのだった。
***
焼肉を食べ終えたミサキたちは、手際よく片付けを済ませた。
「ふぅ……満腹だ」
ツバキが満足そうに腹をさする。
食器を片付け、簡単な寝床を作ると、三人は空を見上げた。
「……綺麗」
リーナがぽつりと呟く。
空はすっかり日が暮れ、無数の星が瞬いていた。
まるで宝石を散りばめたような、美しい夜空。
「久しぶりにこんな星空をゆっくり見るな」
ツバキが腕枕をしながら、ぼんやりと呟く。
「ああ、本当に綺麗だ……」
ミサキもそれに小さく頷く。
「ふふ……なんだか、不思議な気分です」
リーナが微笑む。
「こうやって三人でのんびりする時間も、悪くねぇな」
ツバキも目を閉じながら言った。
「さて……そろそろ寝るか」
ミサキが立ち上がり、伸びをする。
「うん、明日も大変そうですし、早めに休みましょう」
ミサキとリーナは布団に入る。
ツバキは剣を抱きながら横になった。
静かな夜。
遠くで鳴く獣の声だけが響く。
星空の下、三人は静かに目を閉じ、明日に備えて眠りについたのだった。
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