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未知なる世界の歩き方  作者: リース
5章 和の国ヤマト編
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第93話 目覚めの時

ミサキは夢を見続けていた。


日本に帰ってきた夢を。


自宅のソファに座り、くつろぐミサキ。


窓の外には、見慣れた街並みが広がっている。


テレビから流れるのは、日本のニュース。


スマホを開けば、知り合いのSNSがいつも通りに更新されている。


遠くからはトントントンと、母親が夕食の支度をする音が聞こえてくる。


「……本当に、帰ってきたんだな」


そう呟くと、ミサキはソファに寝転んだ。


異世界に来てから数年。


ずっとここに帰ってくる事を願っていた。


唐突ではあるが、それがついに叶ったのだった。


できる事なら、リーナにも、この光景を見せたかった。


いや、せめてお別れの挨拶ぐらいはしたかった。


リーナは一体どこに居るんだろう……


ミサキは無意識に「リーナ……」と呟いていた。


***


ミサキは優等生だった。


勉強もできる。


運動もできる。


決して威張ることなく、誰にでも公平に接していた。


だから、周囲にはいつも人がいた。


"ミサキは完璧だね!"


"ミサキといると安心する!"


そんな言葉を何度も聞いた。


――でも、ミサキは気づいていた。


"完璧なミサキ"だから、皆が近くにいるだけだと。


彼女の本当の趣味を語れる相手はいなかった。


登山、キャンプ、釣り、自転車旅行……。


そんな話をしても、同じクラスの女子たちは「変わってるね」と笑うだけ。


一方で、彼女たちはブランド物の服や化粧、イケメン俳優などの話題に夢中だった。


ミサキには、興味がなかった。


故に、彼女達の話題にはついていけなかった。


少しずつ、彼女の周りから人が離れていった。


彼女を「変人」と呼ぶ声も聞こえた。


――そんなミサキが、初めてできた本当の友達が、リーナだった。


リーナは、そんなミサキを否定しなかった。


彼女はミサキの話を楽しそうに聞き、自分も冒険をしてみたいと言った。


初めて、自分をありのまま受け入れてくれる存在に出会えた。


***


ミサキの胸が、締めつけられる。


リーナに別れも言えなかった。


彼女は、今一体どうしているのだろう?


ひょっとしたら、あの樹海に取り残されてるのではないだろうか?


あの樹海はとても危険な所だ。


私がこっちに来たことで、今頃大変な事になってるのではないだろうか?


そう思うと、気が気ではなくなってしまう。


なんとかして、あそこに戻る事はできないのか?


そう思った瞬間。


「あの世界に戻りたい……?」


突然、声が響いた。


驚いて振り向くと、いつの間にか黒髪の少女が立っていた。


「お前は……!」


ミサキは息を呑んだ。


覚えている。


かつて、海で漂流したとき、意識を失った夢の中で、同じ少女と会ったことがある。


「戻りたいなら……教えてあげる……」


「あの世界に戻れるのか!?」


ミサキは驚きつつ彼女に尋ねる。


黒髪の少女はこくりと頷いた。


「一体どうすればいい……!?」


少女は少し微笑んだ。


「まず、意識するの。ここは夢の世界だって……」


「夢の世界……?ここは夢の世界なのか……!?」


ミサキは少し戸惑いながら質問をする。


「ええ……ここは夢の世界。貴方にとって、幸せな夢の世界……」


「現実じゃなかったのか……通りで突然帰って来れたと思った……」


現実だと思っていた故郷の世界。


それが夢だと知り、軽くショックを受けつつも、ミサキの目には強い光が宿っていた。


「それで、次はどうすればいい!?」


「ゆっくり目を瞑って……意識を胸に集中して……ここは夢の世界だと自分に言い聞かせるの」


ミサキは言われた通りに目を閉じる。


「これは夢……私は……夢を見ている……」


すると、不思議な感覚に包まれた。


まるで身体が海の底に沈んでいくような感覚。


「そのまま……光を感じる方向に向かって泳ぎなさい……」


ミサキは意識の中で泳ぐように動いた。


暗闇の中、遠くに小さな光が見える。


そこへ向かって、必死に手を伸ばす。


パァァァッ!


眩しい光に包まれた瞬間――


***


「……ハッ!」


ミサキは、大きく息を吸い込んだ。


目を開くと、そこは大樹海の中だった。


大きな木々がそびえ立ち、湿った土の匂いが鼻をくすぐる。


すぐ隣には、リーナとツバキが眠ったまま横たわっていた。


額に手を当てながら、ミサキは荒い息を整える。


もし、あのまま夢から目覚めなかったら、一体どうなってた事か……


だが、安心するのはまだ早い。


リーナとツバキを目覚めさせなければ。


ミサキはリーナとツバキの肩を揺さぶった。


「起きろ!二人とも!」


必死に呼びかけると、まずリーナがゆっくりと目を開けた。


「あれ……?」


リーナはぼんやりとした表情で起き上がると、胸に手を当てる。


「とても……幸せな夢を見ていた……気がする……」


その呟きには、どこか未練が滲んでいた。


一方、ツバキも目を覚まし、頭を振って周囲を見渡す。


「どうしてこんな所で寝てしまったんだ……?」


混乱しながらも、すぐに状況を把握しようとするツバキ。


ミサキは真剣な表情で答えた。


「……何者かの魔法によって、私たちは眠らされていたんだ」


リーナとツバキの顔が一瞬にして険しくなる。


リーナは震える声で言った。


「全く気が付かれずに、私達を眠らせるだなんて……そんなことができるのは、相当な魔術師のはず……」


ツバキも険しい顔で腕を組んだ。


「……相手は確実に、俺たちを無力化しようとしていたんだろう」


ミサキは深く息を吐き、拳を握った。


「……改めて気を引き締めないと。この森……想像以上にヤバいぞ」


三人は改めて警戒を強め、再び大樹海の奥へと歩みを進めた。

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