第83話 和の国ヤマト
潮風に吹かれながら、ミサキとリーナは甲板で寄り添い、ゆったりとした時間を過ごしていた。
「次は和の国ヤマトですか……どんなところなんでしょう?」
リーナが興味津々な様子で海の向こうを見つめる。
「そうだな……侍とか忍者とかがいるのかな?」
ミサキは腕を組みながら、期待に胸を膨らませる。
「侍!?忍者!?なんだかワクワクしますね!」
リーナも嬉しそうに笑った。
そんな会話をしながら、ミサキは師匠のリストを見た。
「えっと、次に集めるべき素材は……」
ミサキは目を凝らしてリストを確認する。
「……『桜楼石』?」
「またよくわからない素材ですね……」
リーナが首を傾げる。
「うーん、なんとなく和の国っぽい名前ではあるけど……」
「桜楼石ってどんな石なんでしょう?」
「さぁ……行ってみれば分かるんじゃない?」
ミサキは深く考えるのをやめ、リストをしまった。
そんな会話をしているうちに
「おーい!ヤマトが見えてきたぞ!」
船員の声が響いた。
ミサキとリーナは顔を見合わせる。
「ついに到着か……!」
「楽しみですね!」
***
目の前には、どこか懐かしい雰囲気を持った和風の建物や赤い鳥居が並ぶ港町が広がっていた。
ミサキとリーナが船を降りると、そこには見渡す限りの和風の世界が広がっていた。
桜の花びらが舞い、木造の建物が立ち並ぶ風景。
赤い鳥居や石畳の道が続き、遠くには大きく綺麗な山が見える。
街全体に風情ある雰囲気が漂っている。
「うわぁ……!すごい!」
リーナは目を輝かせながら、あたりを見回した。
「まるで時代劇の世界だな……」
ミサキも感嘆の声を漏らす。
さらに興味を引いたのは、ここを行き交う人々の服装だった。
「みんな着物や浴衣を着てる……!」
艶やかな柄の着物、動きやすそうな道着、旅人風の羽織姿……そのバリエーションは様々だった。
しかし、それ以上に目を引いたのは
「ミサキ、見てください!獣人が沢山居ますよ!」
リーナが指さした先には、耳や尻尾を持つ人々 が普通に歩いていた。
馬耳の女性が商売をしていたり、牛耳の男性が武具を手に取って品定めしていたり、犬耳の子供たちが駆け回って遊んでいる。
「確かに……人間より獣人の方が多いくらいだな……」
ミサキも驚きつつ、その異文化にワクワクしていた。
「ねぇミサキ、私たちも和の国の服を着てみたいです!」
リーナが期待に満ちた瞳で言う。
「それもいいな。せっかくだし、まずは服屋を探すか」
こうして、二人は和服を求めて街を歩き始めるのだった。
***
桜が舞い散る街を歩きながら、ミサキとリーナは和服屋を見つけた。
「呉服屋・たまゆら」
木の看板に美しい文字が彫られている。
店先には色とりどりの着物や帯が並び、目を引く装飾が施されていた。
「わぁ……すごい!」
リーナは目を輝かせながら、店の中へと足を踏み入れた。
店内にはさらに多くの着物が掛けられ、豪華な刺繍の入ったものや、シンプルで上品なものまで幅広く揃っている。
「いらっしゃいませ、お嬢さん方」
店の奥から現れたのは、犬耳を持つ上品な女性だった。
「着物をお探しですか?」
「はい!せっかくヤマトに来たので、和服を着てみたいんです!」
リーナが嬉しそうに答えると、店主の女性は微笑みながら頷いた。
「それは素晴らしいですね。是非とも好きな服を選んでくださいませ」
まず、リーナが目をつけたのは桜模様の着物だった。
「これ、すごく綺麗……!」
ピンク色の生地に、満開の桜が描かれた一着。
淡い色合いがリーナの優しい雰囲気にぴったりだった。
「うん。すごく似合ってると思う」
ミサキが感心して言うと、リーナは頬を赤らめた。
「そ、そうかな……?」
次に、ミサキは青めの袴を選んだ。
「へぇ、これいいな……」
深い藍色の袴に、白と銀のシンプルな羽織がセットになっている。
どことなく剣士らしい雰囲気 を感じさせる装いだった。
「ミサキ、かっこいい!」
「だろ?」
二人はお互いの姿を見て、にっこりと笑い合った。
「よし、これに決まりだな!」
こうして、ミサキとリーナはヤマトの服を身にまとい、新たな冒険へと歩みを進めるのだった。
***
和服に着替えたミサキとリーナは、桜の花びらが舞う街を歩いていた。
「うわぁ……!やっぱり和服っていいですね!」
リーナは自分の桜模様の着物を広げて、くるりと回る。
「だな。動きやすいし、意外と軽い」
ミサキも青めの袴姿に慣れ始めた様子で、腕を組みながら周囲を見回した。
そんなとき、どこからか賑やかな太鼓や笛の音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「こっちからみたいです!」
リーナが音のする方へ駆け出し、ミサキも後を追った。
二人がたどり着いたのは、大きな赤い提灯が並ぶ建物だった。
「ここ、もしかして……劇場?」
ミサキが入り口の看板を読む。
「歌舞伎小屋・蓮華座」
「歌舞伎……?」
「ここの踊り……いや、劇かな?折角だから見てみようか」
ミサキがワクワクしながら言うと、リーナも興味を引かれた様子で頷いた。
ちょうど開演前だったため、二人は席を取り、観劇することに。
幕が上がると、そこには煌びやかな衣装をまとった役者たちが立っていた。
まず、現れたのは豪華な衣装を纏った武士役の役者。
「おお……」
ミサキが思わず声を漏らす。
長い刀を腰に差し、堂々とした立ち姿。
次に、美しい着物を着た女性役の役者が登場。
優雅な仕草で舞いながら、感情豊かにセリフを語る。
「すごい……」
リーナは目を輝かせながら見入っていた。
物語が進むにつれ、舞台はどんどん盛り上がっていく。
悪党に襲われる町娘を、武士が助ける場面。
「そこまでだ!」
バッと刀を抜く武士役の役者。
「くそっ、邪魔をするな!」
悪党役の者たちが、次々と斬りかかる。
ここから始まる、激しい殺陣のシーン。
刀がぶつかり合い、空を切る音が響き渡る。
一撃で相手を斬り伏せる流れるような動き。
それを見たミサキの目が鋭くなる。
「……すごいな」
「本当に戦ってるみたいです……!」
実際に剣を使うミサキでも、見惚れるほどの精巧な演技と迫力だった。
最後、武士が悪党を倒し、町娘を守り抜いたところで
「成敗!」
決め台詞と共に、観客席から大きな拍手が起こる。
幕が降り、役者たちが一斉に礼をすると、観客はさらに歓声を上げた。
「すごかった……!」
劇場を出たリーナが、興奮気味に呟いた。
「ああ、本当の戦闘みたいだったな……!」
ミサキも感心した様子で腕を組む。
そんな会話をしながら、二人は再びヤマトの街を歩き始めた。
***
ミサキとリーナは、再び和の国ヤマトの街を歩きながら観光を続けていた。
美しい町並み、行き交う和服姿の人々、そしてどこか落ち着いた雰囲気が漂うこの国は、
二人にとって新鮮でありながらも、不思議と心が安らぐ場所だった。
「次はどこに行きましょうか?」
リーナが楽しそうに尋ねると、ミサキはふと目を上げ、少し先にそびえ立つ大きな寺院に気がついた。
「お、あれは……結構立派な寺だな」
二人は興味を引かれ、その寺へ向かうことにした。
寺の入り口には大きな木造の門が構えられ、左右には仁王像が堂々と立っている。
「わぁ……!」
その迫力に、リーナは思わず息をのんだ。
「立派な門だな。歴史がありそうだ」
「うん、それに空気が澄んでる感じがしますね」
門をくぐると、広い境内が広がり、静寂と厳かな雰囲気が二人を包み込んだ。
境内の奥には本堂があり、そのさらに奥には、巨大な女神像が鎮座していた。
本堂を抜けた先に現れたのは、圧倒的な存在感を放つ巨大な女神像だった。
「……でかいな」
ミサキが感嘆の声を漏らす。
その女神像は、高さ十数メートルにも及ぶ堂々たる姿で、穏やかな表情をたたえながら、両手を膝の上に優しく置いていた。
黄金色に輝く装飾が施されており、その光が静かに差し込む陽の光と相まって、神々しい雰囲気を醸し出している。
「この国を守る女神様なんでしょうか?」
「そうかもな。それにしてもデカい……」
二人はしばらくの間、女神像を静かに見上げていた。
その姿には、どこか包み込むような温かさがあり、自然と心が落ち着くのを感じる。
「せっかくだし、旅の無事を祈っていくか」
ミサキの言葉に、リーナも頷いた。
二人は賽銭箱の前に立ち、それぞれ硬貨を投げ入れる。
そして目を閉じ、静かに手を合わせた。
(この先の旅も無事に進みますように――)
(みんなが安全でありますように――)
しばらくの間、静かな祈りの時間が流れる。
「よし、そろそろ次の場所に行くか」
「はい!」
二人は再び歩き出し、和の国ヤマトの探索を続けるのだった。
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