第70話 VSクラーケン
沈没船の中を慎重に探索していたミサキとリーナ。
腐りかけた木材の間をくぐり抜け、あちこちの部屋を調べていたが――
「宝なんてどこにもないな……」
とミサキが肩をすくめた。
「はい……ただの沈没船だったみたいです」
とリーナも小さく溜息をつく。
「所詮、噂は噂だった訳ね」
と、アクアもがっかりする。
わずかな期待は泡のように消え、三人は手ぶらで引き返すことにした。
その時――
ゴゴゴゴゴ……!
突然、沈没船全体が重低音と共に激しく揺れた。
「なっ……地震!?」
ミサキが身構える。
船の構造が軋むような音を立て、崩れた天井から砂が降り注ぐ。
「ミサキ!あれ……!」
リーナが指差した先――沈没船の壁の亀裂から、ぬるりと何かが入り込んできていた。
それは巨大な吸盤を持つ、太い触手だった。
「……嫌な予感がする!早く出るわよ!」
三人は船内を駆け抜け、崩れそうな通路をすり抜けながら船の外へと脱出した。
外に出た瞬間、視界が開け――そして、そこにいた。
海底にそびえるような巨体。
船と同じ大きさほどもある、無数の触手をうねらせた蛸のモンスターが、ゆっくりとこちらを見据えていた。
その巨大な体は岩を砕き、砂を巻き上げ、ただそこにいるだけで圧倒的な威圧感を放っていた。
「ク、クラーケン……!?」
アクアが驚きの声を上げる。
巨大なクラーケンの身体は無数の吸盤に覆われた長い触腕を持ち、赤黒い肌はどこか不気味な光沢を放っている。
「しかもあのサイズ……間違いなく"キング"よ!」
「ヤバいのか!?」
「ヤバいわよ!!キングクラーケンは最上級モンスター!早く逃げないと危険よ!」
アクアは逃げようと二人に声をかける。
「だが……アイツをこのまま放っておいていいのか?」
「!!」
確かに、アトラントの近くにこんなモンスターが現れたとなったら、何時みんなに危険が及ぶかわからない。
「確かに……コイツはここで倒した方が良さそうね……」
アクアは槍を握りしめる。
「悪いけど……手を貸してくれるかしら?」
「もちろんです!」
「ああ!」
ミサキとリーナも剣と杖を握りしめたのだった。
まずはミサキが手にした剣を構え、一気に距離を詰めた。
「まずは一撃!」
ミサキは渾身の力で剣を振るった。
ズバッ!
だが
ぐにゃり。
「なっ……!?」
手応えがまるでない。
まるでゴムのように柔らかく、剣がクラーケンの肉に弾かれたのだ。
次の瞬間
バシュッ!!
ミサキの体が、まるで弾かれたボールのように吹き飛ばされる。
「くっ……!?」
「大丈夫ですか!?ミサキ!」
リーナの声が響く。
だが、ミサキが答える間もなく、クラーケンの8本の触手が、一斉に襲いかかる。
「やばっ……!」
ミサキは素早く泳ぎながら、襲い来る触手を回避していく。
だが、触手の数が多すぎる。
「なら……!」
ミサキは剣を振り、触手を切り裂こうとする。
ズバッ!!
しかし
ぐにゃり
「……!?切れない!?」
触手もまるでゴムのように柔らかく、剣が沈むだけでまるで傷をつけられない。
「ミサキ、危ない!」
次の瞬間
バシュッ!!
強靭な触手が彼女の腰を掴み、そのまま締めつけた。
「くっ……!離せ……っ!!」
強烈な圧力がかかる。
水中とは思えないほどの力で、ミサキの体が締め上げられていく。
「くそっ……このままじゃ……!」
「ミサキを離しなさい!ホーリー・ランス!」
鋭い光の槍がクラーケンの体を貫く。
さらに
「こっちも食らいなさい!ウォーター・カッター!」
アクアの放つ鋭い水の刃が、触手を切り裂いていく。
「ミサキ、今のうちに!」
「ああっ!!」
魔法の衝撃で触手の力が緩み、ミサキはなんとか脱出することができた。
「ふぅ……助かった……やっぱり海中だと、私の剣じゃ火力が出せないな……」
ミサキは悔しそうに拳を握る。
するとアクアが腕を組みながら言った。
「当たり前でしょ!火属性魔法なんて水中じゃ役に立たないの!」
「ぬぅ……」
「もう、大人しくしてなさい!」
「わ、分かったよ……」
リーナが優しく微笑みながらミサキに言う。
「ここは私たちに任せてください!」
クラーケンは再び触手を伸ばし、今度はリーナとアクアを襲おうとする。
だが
「そんな攻撃、当たらないわよ!」
リーナとアクアは見事な連携で回避し、再び魔法を発動する。
「いきますよ、アクアさん!」
「任せなさい!」
リーナの光魔法と、アクアの水魔法がクラーケンを襲う。
「ホーリー・ランス!」
「ウォーター・ランス!」
クラーケンの巨大な体に、二人の魔法攻撃が炸裂する。
クラーケンは激しく身をよじらせ、ついにダメージを負い始めるのだった、
その静寂を破るように、巨大な怪物が身を揺らした。
その瞬間
ブシュウウウウウッ!!
クラーケンが勢いよく黒い墨を吐き出した。
「うわっ……!」
視界が、一瞬で闇に包まれる。
まるで光すら届かない、深海の闇が広がった。
「くっ、これじゃあ前が見えない!」
アクアが警戒する間もなく
ゴォッ!!
巨大な触手が、容赦なく襲いかかってきた。
「危ない、アクア!」
ミサキはすぐにアクアの前に飛び出し、剣を構えた。
ズドンッ!!
強烈な衝撃が彼女を襲う。
「ぐっ……!!」
衝撃で海中を吹き飛ばされるが、なんとか耐える。
「……無茶しないでよね!」
アクアが驚いたように彼女を見つめる。
「ホーリー・ランス!」
リーナの光の槍が墨を吹き飛ばし、クラーケンの胴体を貫いた。
クラーケンは苦しそうにもがくも、それでもなお攻撃しようと身体を動かしていた。
しかし、アクアはその隙を逃さなかった。
「いっけぇ!ウォーター・ピアス!」
アクアの槍が渦潮を纏うと、そのままクラーケンに突き刺した。
渦潮のエネルギーが、クラーケンの胴体を吹き飛ばす。
ズゥゥゥン……!!
クラーケンは動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちていった。
「……やった?」
アクアが息を整えながら確認する。
ミサキは剣を握り直し、慎重にクラーケンの様子を伺った。
「完全に……沈黙したわね」
クラーケンが倒れたことで、海の中には静寂が訪れた。
「これで安心ね。まさかキングクラーケンがこんな所に現れるとは思わなかったわ」
「やりましたね!アクアさん!」
「ええ、アンタたちのおかげよ!」
勝利を喜ぶ二人。
……そんな中
(この戦い、二人にずっと任せっきりだった……このままじゃ……)
ミサキはただ一人、浮かない顔をしていたのだった……
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