第68話 アクアのホンネ
ミサキとリーナは、アトラントのホテルの一室で目を覚ました。
窓の外は海そのもの。
水中に浮かぶ都市の景色が、朝の光に照らされて幻想的に広がっていた。
「……ふぁぁ……こんな綺麗な場所で目を覚ますのって、なんだか不思議な気分です……」
リーナが欠伸をしながら、窓の外を眺める。
「……確かにな」
ミサキもベッドから起き上がり、ストレッチをする。
そのとき、バンッと扉が開いた。
「おはよう!さあ、次はどこに行きたい!?私が案内してあげるわ!」
アクアが勢いよく部屋に入ってきた。
「ドアはもうちょっと静かに開けてよ……」
「細かいことは気にしない!それで、どこに行きたいの?でも沈没船と海底神殿はダメだからね!」
「うーん……何かお勧めは無いかな?」
「そうね……それなら、今日は海の森に行かない?」
「海の森?」
「そう!街には海藻が美しく生い茂る海の森って場所もあるのよ!」
「海の森……!」
ミサキの目がキラキラと輝く。
「いいな、それ。昨日とはまた違った景色が見れそうだ」
「ふふん、私の案内に感謝しなさい!」
アクアが得意げに胸を張ると、三人は準備を整え、海の森へと向かった。
***
水中を進むと、昨日の珊瑚礁とはまた違う、綺麗な景色が広がっていた。
海底には青々とした海藻が一面に生えそろい、まるで陸の森のように生い茂っている。
水の流れに合わせて、ゆらゆらと揺れる海藻たち。
その間を、小さな魚や透明なクラゲが漂い、幻想的な雰囲気を作り出していた。
「すごい……本当に森みたいです……!」
リーナが感動したように目を輝かせる。
「ふふん、そうでしょう?ここはアトラントでも特に人気の観光スポットなのよ!」
アクアが得意げに胸を張る。
海の森を進むミサキたちは、美しい海藻が揺れる幻想的な景色を満喫していた。
そうして結界の門の近くまで来たその時……
バシャッ!
突然、門の向こうから一人の人魚が慌てて飛び込んできた。
「た、助けてくれ……!仲間が……ソルジャー・シャークに襲われてるんだ!」
「何ですって!?」
とアクアの表情が一変する。
彼女は迷うことなく門の外へと泳ぎ出す。
しばらく進むと、そこには巨大な鮫のモンスター、鋭い歯と軍隊のような動きで獲物を追い詰めるソルジャー・シャークたちが居た。
その中心には傷を負った人魚たちが必死に槍を振り、ソルジャー・シャークたちに反撃していた。
「アタシの同胞たちに、よくも!」
アクアはソルジャー・シャークに向かって、水の波動を放ち、吹き飛ばしていく。
しかし、全てを撃ち抜く事はできず、残ったソルジャー・シャークが人魚の身体に嚙みついた。
ガキンッ!!
しかし、鮫の牙は、人魚には届かなかった。
リーナが間一髪、その人魚に光の障壁を張っていた。
「ウォーター・ショット!!」
その隙にアクアが残りのソルジャー・シャークに水の弾丸を放ち、なんとか全ての相手を追い払った。
「今回復しますね!メガヒール!」
リーナが杖を振ると、人魚たちが光に包まれ、傷が癒される。
「た……助かった……ありがとう」
「お礼は後よ、とにかく急いでアトラントに戻るわよ!」
こうして三人は人魚たちを連れてアトラントへと引き返した。
***
「本当に……ありがとうございました」
アトラントに戻ってきて、助けた人魚たちと、助けを呼びに来た人魚が深々と頭を下げる。
「いえいえ、無事でよかったです」
アクアはそう礼儀正しく言った。
その後ろで、リーナとミサキも微笑んでいた。
「……二人とも」
アクアが二人を見つめる。
「改めて、助けてくれて、ありがとう」
「いいってことさ」
「人魚たちが襲われてる所を、見逃すわけにはいきませんからね!」
二人が笑うと、アクアはそっぽを向いてツンとする。
「べ、別に感謝してるわけじゃないんだからね!」
「今思いっきり感謝しましたよね?」
リーナがクスクス笑う。
「……アンタたち、悪い奴じゃないみたいね」
アクアがぽつりとこぼす。
「えっ?」
「偶に居るのよ。観光客に化けて人魚を連れ去る悪人が……」
「そんな酷い事をする人が居るんですか……!」
リーナがショックで口を覆う。
「人魚はその美しさから、特定の層からの需要が高いらしいわ。
正直アンタたちもそうじゃないかと思ってたわ。
今の時代、冒険者なんてまず見ないし、だから、実はずっと警戒してた」
「まぁ……確かに」
この世界の冒険者は既に廃れている職業。
それを名乗った武装した人を見たら、そりゃ警戒するだろう。
「わ、私達はそんな事しませんよ!」
必死に反論するリーナに、アクアはにこりと笑う。
「ええ、アンタ達の子供を守る姿を見て、あんな悪党じゃないってわかったわ」
「そうですか!よかった……!」
「それで……アンタたち、沈没船に行きたいんでしょ?
よ、良かったら案内してあげてもいいのよ……?」
「えっ?」
ミサキとリーナが驚いてアクアを見る。
「え、でも沈没船はダメなんじゃ……?」
「……これは、ただのお礼なんだから!勘違いしないでよね!!」
アクアは顔を真っ赤にして言い放った。
「……ははっ、じゃあ、遠慮なく案内してもらおうかな」
ミサキが笑い、リーナも嬉しそうに頷いた。
こうして、次の目的地は沈没船に決まったのだった。
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