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未知なる世界の歩き方  作者: リース
3章 砂漠の国エジェト編
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第49話 ジャンゴの悩み

遺跡の奥、静寂の中でアモンの倒れた体を見下ろすミサキ。


「……ふぅ、これで一件落着かな」


炎を纏った拳を軽く振って火を消しながら、彼女は呟いた。


リーナはすぐにミサキのもとへ駆け寄り、戦いの様子を見ていたジャンゴもおずおずと近づいてきた。


「ミサキ、やりましたね!」


ミサキが得意げに胸を張る。


だが、そんな二人の姿を前に、ジャンゴはぎゅっと拳を握り締めた。


「……ごめんなさい」


「え?」


突然の謝罪に、リーナが驚いたようにジャンゴを見つめる。


「僕……二人をだまして……盗賊に荷物を渡そうとして……本当に、ごめんなさい……!」


ジャンゴは俯いたまま、小さく震えていた。


その肩にリーナがそっと手を置く。


「ジャンゴちゃん……どうしてこんなことをしたんですか?」


問いかける声は優しく、責めるようなものではなかった。


ジャンゴは唇を噛みしめる。


少しの沈黙の後、彼はぽつりぽつりと語り始めた。


「……以前、オアシスの町に行ったとき……盗賊に捕まったんだ」


「え?」


「そしたら……それからずっと……雑用を押し付けられて……」


ジャンゴは震える声で続ける。


「僕……怖くて……逆らったら殺されるかもしれないって思って……だから……言われるがままに……」


「……」


その言葉に、リーナは何かを言おうとしたが、結局何も言わず、ただジャンゴを見つめていた。


代わりに、ミサキが軽く息を吐く。


「……まぁ、とりあえず帰ろう」


その一言に、ジャンゴは目を瞬かせた。


「え……?」


「とにかく1度オアシスに帰ろう。ここに長居する意味はないしな」


そう言って、ミサキはひょいっと盗まれた自分たちの荷物を拾い上げた。


リーナも頷き、ジャンゴの肩をぽんと叩く。


「ジャンゴちゃん、行きましょ?」


ジャンゴはしばらく俯いていたが、やがて小さく頷いた。


「……うん」


か細い声だったが、その一歩は、少しだけ前へと進んでいた。


***


オアシスの町に戻ったミサキたちは、すぐに総合ギルドへ向かった。


ギルドの受付に倒した盗賊アモンを引き渡すと、ギルド職員たちは驚きつつも迅速に対応を進める。


「これでアモンの一味も壊滅か……大したもんだ」


「懸賞金、確か1億ガルでしたよね?」


ミサキが確認すると、ギルド職員は頷きながら書類を整え、金を用意する。


「確かに。ほら、約束通りの1億ガルだ」


ミサキは大量の金貨の入った袋を受け取ると、また総合ギルドにお金を預けた。


ギルドカードに金額が刻まれる。


「ドレークの分もあるし、これだけあれば当分困らないな」


ミサキは軽く頷いたものの、やや疲れた様子で伸びをする。


「ふぅ、ひと仕事終えたし、もう寝よっか」


「そうですね……私も疲れちゃいました……」


リーナもミサキに続き、宿へ戻ろうとする。


だがその時、ジャンゴがぼそりと呟いた。


「どうして……そんなに強いんだ……?」


ミサキとリーナは足を止め、ジャンゴの方を見る。


ジャンゴは荒い息をしながら、じっとミサキを見上げていた。


「僕も……ミサキ達みたいに敵と戦えるようになりたい……!」


その言葉に、ミサキとリーナは顔を見合わせる。


何か言おうとするものの、どんな言葉をかければいいのか分からず、少し悩む。


そして、しばらく考えた末に、リーナがそっと微笑んだ。


「月並みな言葉ですけれど……守りたい人がいれば、きっと強くなれますよ」


ジャンゴはその言葉を聞いて、目を見開いた。


「守りたい人……?」


「ええ」


リーナは優しく頷く。


「私も昔は強くなかったんです。でも、ミサキと一緒に旅をするうちに、大切な人を守るために強くなろうと思ったんです」


リーナはあの地獄のジャングルを思い出す。


あの、あわや全滅しかけた悪夢のジャングルを……


「僕が守りたいもの……」


ジャンゴは目を伏せるが、ミサキが肩をすくめながら言った。


「正直そんな事しか言えないかな……後は自分の心構え次第だ」


そう言って、ミサキはひらひらと手を振り、リーナと共に宿へと向かっていく。


ジャンゴはその後ろ姿を見送りながら、そっと拳を握りしめた。


――自分は、何を守りたいのか。


その答えを探しながら、彼女は静かに夜空を見上げた。


***


翌朝、オアシスの町は静かに朝日を迎えていた。


ミサキとリーナ、ジャンゴは宿を出て、再び砂漠を横断するための準備を整えていた。


「さて、水も食料も十分。あとは進むだけだな」


リーナが荷物を確認しながら微笑む。


「昨日のこともありましたし、今回は何も問題が起こらないといいですけど」


「ま、私達なら大丈夫だろう」


ミサキは陽気に言いながら、ラクダ車に乗る。


ジャンゴもまた、自分のラクダにまたがり、手綱を握りる。


「じゃあ、行こうか!」


三人は再び砂漠へと向かうのだった。


***


ラクダ車で砂漠を横断するミサキたち。


特に何が起こると言う訳でもなく、旅は順調に進んでいった。


そして、ついに視界の先に巨大な城壁が見えてきた。


「……あれがエジェト王国?」


ミサキは目を輝かせる。


広大な砂漠の中に堂々とそびえ立つ王国――エジェト。


巨大な城壁は砂の侵食を防ぐために特別な加工が施されており、入口には大きな門と見張りの兵士たちがいた。


門の中には黄金色に輝く宮殿や、ドーム型の建物が立ち並び、活気ある市場の音が遠くから聞こえてくる。


「立派だなぁ……!」


リーナも思わず声を漏らす。


「こんな場所が本当にあったんですね……!」


「なぁ、早く行こう!」


ミサキは興奮しながらラクダ車から降りるが、ふと隣のジャンゴの表情を見て、歩みを止めた。


ジャンゴは少し寂しそうに微笑んでいた。


「ジャンゴ?」


「……ここまで送ってくれてありがとう」


ジャンゴはそう言いながら、二人に頭を下げた。


「僕はここで別れるよ……家に帰らなきゃ……」


ジャンゴは少し苦笑いしながら言う。


「そっか……」


ミサキは少し寂しそうに頷いた。


「でも、またどこかで会えますよね?」


「うん……」


ジャンゴはギュッと拳を握る。


「だから……またどこかで……」


「うん、約束ですよ!」


リーナも笑顔で手を差し出し、ジャンゴと握手を交わした。


そして、ジャンゴはラクダを引きながら、街の中へと消えていく。


彼女の背中を見送りながら、ミサキとリーナは再び王国へと目を向けた。


「さて……エジェト王国、楽しみだな!」


「はい!」


二人は期待に胸を膨らませながら、エジェト王国を探索するのだった。

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