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未知なる世界の歩き方  作者: リース
2章 地下帝国パンデラ編
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第42話 魔王ラプラス

金色に染まったモンスターたちとは対照的に、黒を基調としたスーツを纏った魔族の女性。


長い黒髪が風に揺れ、琥珀色の瞳が静かにリーナを見つめていた。


「あ……あなたは……?」


リーナの声は震えていた。


ジャングルの静寂を破るように、魔族の女性はゆっくりと歩み寄った。


その足取りは穏やかでありながら、まるでこの世界の理を超えた存在のような威圧感を放っている。


リーナは本能的に悟った――この女性は「普通ではない」。


女性がミサキの傍に跪くと、巨大な黄金の魔法陣が展開された。


そして、彼女は静かに呟いた。


「……リザレクション」


その瞬間、黄金の魔力が奔流のように溢れ、ミサキの体を包み込んだ。


すると、ミサキの傷口がふさがり、胸が、大きく上下した。


「……え?」


ミサキが息を吹き返した。


リーナは目の前の光景が信じられなかった。


「まさか……そんな……!」


蘇生魔法――リザレクション。


この世界において、死者を生き返らせる魔法など存在しないはずだった。


だが――彼女は確かによみがえった。


ミサキの瞳が、ゆっくりと開かれる。


「……リーナ?」


「……ミサキ!!」


リーナは勢いよく抱きつく。


「良かった……!本当に……良かった……!!」


涙が止まらなかった。


奇跡を目の当たりにし、リーナは歓喜と驚愕の狭間で震え続けた。


――死んだ者を生き返らせる魔法。


そんなものが、本当に存在したなんて――


魔族の女性は静かに二人を見つめた後、淡々と言った。


「……場所を変えよう」


リーナが驚いて顔を上げると、彼女が静かに手を掲げる。


次の瞬間、再び巨大な黄金の魔法陣が展開されると


世界が、揺れた。


視界がぐにゃりと歪み、空間が反転するような感覚が襲う。


まばたきする間もなく――


気がつけば、三人は柔らかなソファに座っていた。


「え……?」


目の前には豪華な応接室。


絢爛なシャンデリア、整然と並ぶ高級家具。


まるで貴族の邸宅のような、荘厳で洗練された空間。


「ここ……は?」


混乱するリーナとミサキをよそに、彼女は静かに椅子に腰掛けた。


黒色の瞳が二人を見据える。


それは、すべてを見通すような、威圧感と神秘を兼ね備えた瞳だった。


彼女が再び手をふるうと、テーブルの中央に置かれたポットがふわりと宙に浮かんだ。


ポットの注ぎ口が傾き、香ばしい甘い香りが立ち上る。


濃厚なホットチョコレートが、二人の前のカップにゆっくりと注がれていく。


彼女は何も言わないが、飲めと言う事なのだろうか?


ミサキとリーナは、おそるおそるカップを手に取り、口をつけた。


「……美味しい」


「うん……すごく甘くて、優しい味」


緊張していた体が、少しずつほぐれていく。


「改めて……助けてくれてありがとうございます」


ミサキが深く頭を下げる。


リーナも続いて、丁寧にお礼を言った。


しかし――


「礼を言う必要はない」


彼女の言葉に、二人は顔を上げた。


「お前達をあのジャングルに送ったのは、俺だからな」


「……え?」


ミサキとリーナは、思わず目を見合わせた。


「どういうこと……?」


リーナが恐る恐る尋ねる。


彼女はカップを手に取り、一口飲んでから静かに言った。


「転移魔法を使わなくとも、この国の端には地上への出入り口がある。

だが、お前達がそこを知られないように手回しをしておいた」


「どうしてそんな事を……?」


「お前たちはここから外に出て、世界を冒険しようとするんだろう?」


「どうしてそれを……!?」


「俺はここに居ながら、この国の全てを知ることができる」


「全てを……!?」


地下帝国の全てを把握してると言う、この人は一体……まさか


「それならば、実力を試す必要があった」


彼女の黒色の瞳が、鋭く二人を見据える。


「パンデラでの平穏に慣れきったままでは、いずれ死ぬ。

お前たちが本当に生き抜けるのか、試させてもらった」


「それが……あのジャングル……?」


リーナの声が震える。


「そんな……!あんな場所、私たちが生き抜けるわけ……!」


「事実、お前たちは死にかけたな」


女性は冷静に言い放った。


「このジャングルを超えられないようじゃ、外に出ても、1年以内に必ず死ぬ」


「っ……」


その言葉に、ミサキとリーナは何も言えなくなる。


「そうだ、名乗るのが遅れたな」


魔族の女性がカップをテーブルに置く。


「俺の名はラプラス。この国を統べる者にして、現魔王だ」


「……!?」


ミサキとリーナの動きが止まった。


「ら……ラプラス……!?」


「あ……貴方が……!?」


彼女が魔王だと言う事は、彼女の纏う圧倒的な魔力と威圧感、そして、この国の全てを把握していると言う発言で、なんとなく予想が付いていた。


しかし


「でも……嘘だろ……!?ラプラスって、勇者と一緒に居た少女の名前だぞ!?」


セントルの劇でもラプラスと言う名前が使われていた事を思い出す。


「で、でも、勇者の相棒の少女って……あの……清楚で儚げな天使みたいな少女のことですよね!?」


リーナは再びラプラスを見つめ、絵本や演劇で見た100年前の勇者の物語を思い出す。


そこに登場するのは、勇者の隣で微笑む清楚で神秘的な、まるで天使のような少女。


その少女が、目の前にいる魔王ラプラス……?


圧倒的な威圧感、魔王としての風格。


どこをどう見ても清楚で儚げな天使ではなかった。


「あ!わかりました!同じ名前の別人ですね!」


「いや、本人だ」


二人は今までのイメージが全て崩れ去るような音が聞こえて来た。


「で……でも……まるで悪の組織のボスみたいな……そんな恐ろしい雰囲気なんですけど……」


「そうか」


「いや、でも……」


「お前ら、どうやら作られた話を信じすぎたようだな。物語は正史がそのまま伝わるとは限らん」


ラプラスは呆れたように肩をすくめる。


「話を戻すぞ。このジャングルを抜けられないようなら、お前達に冒険者はできん。

だからこそ、提案をさせてもらう」


ラプラスは指を二本立てた。


「選択肢は二つだ。外に出ず、この国に住むか」


一つ目。


「あるいは、俺の修行を受けるか」


二つ目。


「修行……ですか……?」


「ああ。外の世界に出ても死ななくて済むよう、お前達を鍛えてやる」


「……どうして魔王ともあろう人が、そこまで私達に親身になってくれるんですか?」


ミサキが静かに問いかけた。


「お前が異世界人だからだ」


「っ!?なんで……」


ミサキの背筋が凍る。


「どうして、それを……」


ラプラスは淡々と答えた。


「お前たちがここに流れ着いた時に、記憶を読ませてもらった」


「……!」


「……そんなことまでできるんですか……?」


リーナが息を呑む。


「それは……勝手に記憶を読んだってこと?」


「ああ、この街に悪意のある人間を入れるわけにはいかないからな。

悪意を持つものならあの場で切り捨てていた」


ラプラスは微塵も悪びれた様子を見せない。


だが、彼女の言う事も正論だった。


「まさかソラの他にも異世界から来る人が居たとは思わなかったがな……」


「ソラって……確か100年前の勇者の事ですよね……?」


「ああ。当時の俺は、ソラと共に魔王と戦った。

正直言って、俺も当時の魔王たちの思想には賛同できなかったからな。

……そして、ソラとある約束をした」


「約束……?」


ミサキが聞き返す。


「ああ。もし、また異世界人がこの世界に流れ着いたら……助けてやってほしい、と」


ラプラスの瞳がどこか懐かしそうに細められる。


「それが、100年前の勇者ソラとの約束だ」


ミサキとリーナは言葉を失った。


100年前の勇者が、ラプラスにそんなことを頼んでいたなんて。


「じゃあ……私たちを助けてくれたのは……」


「そういうことだ」


ラプラスは短く答える。


「ソラがいたら、お前らを放っておけないって言っただろうからな」


ミサキは、何か胸の奥が熱くなるのを感じた。


100年前の勇者。


その勇者と共に戦った魔王。


そして、その約束を守り続けた彼女――ラプラス。


「……ありがとう」


ミサキは静かに、心からの感謝を告げた。

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