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未知なる世界の歩き方  作者: リース
2章 地下帝国パンデラ編
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第39話 地下帝国パンデラ5

魔族の街を探索し、様々な文化を体験してきたミサキとリーナ。


次に訪れたのは「パンデラ・スタジアム」と書かれているお店だった。


「ここは何の店なんでしょうか?」


「たぶんスポーツをする所かな?」


「スポーツですか……?魔族がスポーツをするなんて、なんだか意外ですね」


リーナが興味深そうに呟く。


「ああ、どんなスポーツなんだろう」


ミサキも興味深そうに返す。


「中に入ってみようか」


「はい!」


興味津々で中へ入ると、そこは競技場になっていた。


スポーツをしやすいようフィールドは特別深く作られており、屋外の気分を味わうために大きな天窓が付けられている。


観客席には魔族の観客がちらほらと座り、中央のフィールドを見下ろしている。


フィールドには二人の魔族が立っていた。


二人ともユニフォームのような服を着ており、手には網状のラケットを持っている。


フィールドの両端には、大きなゴールが設置されていた。


二人が観客席に座り、しばらくすると、開始の掛け声が場内に響き渡った。


「試合開始!」


合図と共に、二人の魔族がラケットを握りしめる。


すると、片方の魔族のラケットが炎に包まれ、もう片方の魔族のラケットは渦潮に包まれる。


そして、片方の魔族が素早くラケットを振り、ボールを打つ。


炸裂音と共にボールは弾丸のような速さで飛び出し、一直線に相手の方へ向かう。


「速っ!」


リーナが驚く間もなく、もう片方の魔族がすかさず反応し、素早くボールを打ち返した。


ボールは鋭い音を立てながら行き交い、目にも止まらぬ速さで飛び交う。


そんな攻防を続けていくと、片方の魔族がボールを打ち損ね、背後のゴールに入る。


すると笛の音が鳴り、ボールを入れた魔族に1得点が入る。


「なるほど……自分のエリアから出ないようにボールを打ち合って、相手の背後にあるゴールに入れたら得点が入るルールなのか」


ミサキが試合を観察しながら分析する。


「それにしても、あの二人の動きは凄いな……私たち以上じゃないか?」


「本当ですね……!」


最初は冷静に見ていた二人だったが、試合が進むにつれ、その迫力に引き込まれていく。


選手たちは次第に高度な技を繰り出し始めた。


カーブやスプリットをかけて相手を翻弄したり、ボールを地面にバウンドさせて変則的な動きをさせたり――それはまるで、駆け引きと反射神経のぶつかり合いだった。


「すごい……!」


リーナが目を輝かせる。


ミサキも知らず知らずのうちに、拳を握りしめていた。


いつの間にか、二人はすっかりこのスポーツに夢中になっていた。


***


そして――試合は1時間後、ついに決着を迎える。


「試合終了!勝者、カルロス選手!」


19対20の接戦。


審判の宣言に、観客席がどっと沸いた。


惜しくも負けた選手も、満足そうに微笑みながら手を差し出し、二人は固い握手を交わす。


「すごかったな……」


「ですね……!」


試合が終わり、ミサキとリーナはため息をつきながら席に座り込んだ。


「魔族のスポーツ、想像以上だったな……」


「うん、まさかこんなにもすごいなんて……!」


魔族の都市の技術だけでなく、彼らの身体能力の高さも目の当たりにした二人。


「また試合があったら見に来ようか」


「はい!」


こうして二人はスタジアムを後にしたのだった――


***


魔族の街を歩いていたミサキとリーナは、次は「パルス・カラオケ」と言う店の前で足を止める。


「カラオケか……」


「からおけ……って何ですか?」


と首をかしげるリーナ。


「カラオケっていうのは、曲に合わせて自由に歌えるお店なんだよ」


「歌えるんですか!?それは楽しそうです!」


ということで、興味津々のリーナを連れて、二人は店内へ。


「いらっしゃいませ、何時間のご利用でしょうか?」


「そうだな……とりあえず1時間で」


「かしこまりました。1時間の間、ご自由に曲を選ぶことができます。

ドリンクバーが無料となっていますので、ご自由にお使いください」


こうして二人は、まず飲み物を淹れに、ドリンクバーに向かった。


***


「これがどりんくばーですか?」


リーナの目の前にはボタンの沢山付いた装置があった。


「ああ。下にカップを置いて、ボタンを押せば、飲み物が注がれるんだ」


「凄い!そんなものがあるんですね!」


ドリンクバーのボタンには、オレンジジュース、レモンティー、メロンソーダなどと言った多種多様の飲み物が書かれていた。


「じゃあ、アイスココアにしようかな……?」


カップを置き、リーナが恐る恐るボタンを押すと、アイスココアが注がれる。


リーナはそれを一口飲んでみる。


「!美味しいです!」


「それはよかった、1時間の間、何回でも淹れに行っていいからね」


「何度でも飲めるんですか!?凄い……!」


「さて、私はアイスコーヒー……と」


ミサキは慣れた手つきでアイスコーヒーを淹れ、席へと向かう。


***


中はシンプルながらも快適な空間だった。


大きめのソファに、壁掛けの画面、そして中央のテーブルの上にはタブレット型の選曲端末。


ミサキが軽く使い方を説明すると、リーナはすぐに興味津々でタブレットを操作し始めた。


「何を歌うんだ?」


「ふふっ、昔ママがよく歌ってくれた歌です!」


彼女が選んだのは、童謡のような穏やかで優しいメロディ。


流れ始めるイントロに合わせて、リーナがゆっくりと歌い出す。


その声は透明感があり、聴いているミサキの心を穏やかにしてくれるような温かさがあった。


曲が終わると、ミサキは自然と手を叩いていた。


「上手だったよ、リーナ」


「ありがとうございます!」


リーナは顔を赤らめながらも嬉しそう。


それからリーナは次々と曲を選び、歌っていった。


しばらくして、ふとリーナがミサキに目を向けた。


「ミサキさんは歌わないんですか?」


ミサキは少し申し訳なさそうに笑った。


「私、こっちの歌を全然知らないからさ……」


現代日本から来たミサキは、日本の曲は知ってても、こちらの曲は全く知らなかった。


「そうでした……あ、でもこれなら歌えるんじゃないですか?」


そう言ってリーナが選んだのは『バーニング・ブレイバー』――今朝、街で見た映画『ジャスティス・ブレイバー』の主題歌だった。


「なるほど、これなら歌えるな」


とミサキが手を伸ばし、マイクを持つ。


流れ始める勇壮なイントロ。


ミサキはリズムに合わせてしっかりと歌い出し、サビでは力強く声を張り上げた。


その姿はまるでヒーローそのもの――堂々と歌い上げる姿に、リーナは拍手を送った。


「すごいです、ミサキさん……!」


「カラオケは私の趣味だからね」


曲が終わると、二人は顔を見合わせて笑い合った。


こうして、初めてのカラオケ体験は、歌と笑顔に満ちた楽しい時間となったのだった。


***


「……もうすっかり夜ですね」


リーナが広場の大きな天窓を見上げて目を細める。


天窓からはすっかり光が消え、真っ暗闇が広がっていた。


「ああ、今日は本当に遊んだな……」


ミサキも天窓を見て、ふっと笑う。


「もう帰りましょうか」


「そうだな。流石に疲れた」


ミサキとリーナは連れ立って、帰り道へと足を進める。


「改めて凄いですよね、魔族って……地下にこんな街を作ってしまうだなんて……」


リーナが街を見渡しながら、ポツリと呟いた。


「ああ……本当にな」


ミサキも隣で感慨深げに街を見渡す。


彼女たちが初めてここに来たときは、魔族の存在すらよく分からなかった。


それが今では、日常を過ごすようになり、気づけばこの街にすっかり馴染んでいた。


「最初は不安だったけど……みんな優しかったな……」


「はい……レストランの人も、治療院の人も、総合ギルドの人も。

外の人だからって差別とかしないし、普通に接してくれます」


「本当に、ここに住んでもいいんじゃないかなって思っちゃうな」


「それ、私も思いました」


二人は顔を見合わせてクスッと笑った。


今では働く場所もあり、住む場所もあり、美味しいものも食べられる。


休日には映画やゲームを楽しんで、スポーツ観戦までできる。


居心地は最高だった。


――けれど。


リーナの表情が少し曇る。


「ずっとここに居たいなぁ……」


「リーナ……」


二人の目的は、元の世界へ帰る方法を見つけること。


そのためには、魔族の街を出て、外の世界を旅しなければならない。


しかし、魔族の街の外に出たら、また危険と隣り合わせの旅だ。


「ここにいたら、安全だし、楽しいし、何不自由なく暮らせますし……」


「……」


リーナは寂しそうに下を向いた。


「……私は1年後には出発する」


ミサキは拳を握る。


「ここにずっといるのは楽だけど、私は外の世界を見てみたい」


「ミサキさん……」


「でも、もしリーナがここに居たいって言うなら、その時は……」


「何言ってるんですか!私は最後までミサキさんに付き合いますよ!」


リーナも覚悟を決めたように話す。


「……そうか、ありがとう」


ミサキの言葉に、リーナの顔に少し笑顔が戻る。


「じゃあ、残りの時間をしっかり楽しもう。1年後に出発するんだから、それまでにできることを全部やっておこう」


「……はい!せっかく素敵な街なんですから、いっぱい思い出作りましょう!」


二人は楽しそうに話し合う。


名残惜しいけれど、それでも前に進まなければならない。


旅立つその日まで、全力でこの街を堪能するのだ――

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